見た途端、言葉にはできない類の感情というか精神の交換がアルピーヌA110と私のあいだに起きた。ごく微弱な電流がビビッと流れたのだ。ピンときた、といいますか。新しいのにどこか懐かしいその容姿。ドアを開けて着座し、閉じられた世界を見わたすと、新しいのにやっぱりどこか懐かしい。私はこのクルマを知っている……。
ま、そういう意図でデザインされているから、なのだけれど、ラジオを聴いていて、これは私に向かってしゃべっているんだ、と感じるように、これは私のためにつくられたのだ、と思う。積極的にそう思いたい。シートはあつらえたようにピッタンコで、試乗車はプルミエール・エディション(初導入時の限定車)だったから、ステアリングホイールは一部スウェード風の合成皮革が使われていて、手にしっくりなじむ。思わず笑みがこぼれる。
1位はアルピーヌ A110!──2018年の「我が5台」 Vol.11 中谷 明彦 編
エンジンをかけて走り出すと、そのあまりの軽きに笑い声とひとりごとが出ちゃう。こりゃいいや。ロータス エリーゼを大手メーカーのプロダクトとしてちゃんと成立させたのが新生アルピーヌで、もしそんなクルマができたとすれば、それこそ世界のスポーツカー・エンスージアストが待ち望んでいたクルマである。夢が向こうからやってきた。
箱根を走りまわったあと、東京に戻ってきて、私はひとり三軒茶屋の駅前で降り、ほかのひとの運転で走り去っていくそのアルピーヌ・ブルーの後ろ姿を見送りながら、まさに夢から覚めた思いがした。惜別の情がわいた。ああ、ほしい。790万円。600万円にまかりませんか。
ここまでやるか、とたまげた。こんなので世の騒音規制がくぐり抜けられるとは! 手榴弾をドッカンドッカン、ほうぼうに投げながら走っているような感覚。爆音を撒き散らしてぶっ飛ばせ! これは破壊の快楽でしょうか。
シン・ゴジラが進撃していくような、ビートたけしが「お笑いウルトラクイズ」でやっていたような、岡本太郎が「芸術は爆発だ!」と叫んだような、常識やら権威やらをぶち壊すエネルギーに満ちている。それって、跳ね馬を追い出されてサンタガータのトップに着いたステファノ・ドメニカリの反骨、怨念、復讐、恩返しか。
背中の5.2リッターNA (自然吸気)V型10気筒エンジンが7500rpmまでまわって泣いている。これぞ、叛逆のレイジング・ブル、ランボ魂。天国のフェルッチオ・ランボルギーニよ、ご笑覧あれ。車両本体価格3419万1376円。ほとんど西湘バイパスを走ったのみだけれど、乗り終わったあと、入園料を払わないといけないような気がした。
エレガントが身上のロールス・ロイスの2ドア・クーペをメーカー自らがダーク・ヒーロー的価値観でよりスポーティに仕立てたモデル。全部真っ黒けのけ。ダーク・クロームのスピリット・エクスタシーを眺めているだけで、いいな~と思う。より筋肉質でキュッと締まってセクシーに見える。ブラック・イズ・ビューティフルなんである。
足まわりはあいかわらずフワフワで、海の上を疾走するボートのごとく、揺れて揺られて、流れ流れて、知らない港に着きたい。山道の向こうにお屋敷がある、といいなぁ。フツウのレイスより500万円ほどお高い4190万円也。2018年に見た夢の第3位、ということでしょうか。
20年ぶりに復活したメルセデスの直列6気筒エンジンを搭載する新型CLS。排気量3リッターで、ボア×ストローク=83.0×92.3mmの直列6気筒エンジンはバイエルン製のそれのような官能性は薄いけれど、きわめてスムーズで、排ガスでまわす高速用タービンと電気でまわす低速用タービン、ふたつのターボを持っていて、右足にちょいと力を込めれば、いつだってこちらの期待に応えてくれる。
おまけにシュトゥットガルト版エネチャージのISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)搭載、ようするにマイルド・ハイブリッドで、アイドリングが520rpmという低回転。最近のクルマはアイドリング・ストップするから、そんなの関係ない、ともいえるけれど、たいへんに静かで、エア・サスの足まわりは適度にタイトに設定されていて、スポーティブネスと快適性のおりあいがまことによくて感嘆する。
しかも、内装がセンシュアル、いまでもあると思うけれど、フランクフルト空港内のアダルト・ショップみたいなんである。官能なくして未来なし。さすがメルセデス・ベンツである。もしも文句をつけるとしたら、4WDというのもあって、あれやこれやで車重2t近くに達していて燃費がさほどよくない点だけれど、そんなに批判するのならつくってみろ。って誰にいってんだか不明ながら、こちらの価格は1038万円。お金のことは棚上げして、選ばせていただきました。
通称“ヨタハチ”は、大衆車の「パブリカ」をベースとする2座タルガトップのライトウェイト・スポーツカーで、1965年から4年間、トヨタ系列の関東自動車工業が開発・生産した、とされる。生産累計はわずか3131台。アルミ・ボディの採用で車重が580kgと超軽量。エンジンは790ccの空冷水平対向2気筒で、わずか45psである。これ、グロスの数値だから、いまのネット数値だと、もっと低いわけだ。
非力なエンジンを軽量かつ空力ボディでもって活発に走らせようという、ちょっとフランス的なコンセプトで、私はどっちかというと単にそのカタチが好きだったのだけれど、2018年の初夏、初めてそのステアリングを握る僥倖に恵まれた。
ああ、これはシトロエン2CVの後輪駆動版である、と思った。ボディもステアリングもしっかりしていて、ゼロ・スタートは遅いけれど、フラット・ツインをまわせば、それなりに活発に走る。リアはリーフ・リジッドながら、乗り心地はいいし、1960年代のニッポンは世界レベルのクルマをつくっていたのだ、という事実をあらためて知った。先人に敬意を払うと同時に、私はひそかに思ったのです。2CVにまた乗りたい、と。2CVなら、まだあるから。
【著者プロフィール】
今尾 直樹(いまお なおき):岐阜県生まれ。早稲田大学卒業後、『NAVI』(二玄社)編集部へ。現在はフリーランスのライターとして、クルマのみならずあらゆる分野で健筆を振るう。
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