1960年代に生まれ80年代まで作り続けられた日産のA型エンジン。ツーリングカーレースの主役でもあった名機は、ストックの状態で今なおファンの心を掴んで離さない。そんなA型エンジンを搭載した名車、前回のサニークーペに続いてチェリークーペを紹介しよう。(ホリデーオート2018年10月号より)
良く回る、楽しいエンジンがお気に入り!
“日産 GT-R 50”、これがGT-Rの最終形なのだろうか!?
日産初のFF車が初代チェリー。プリンス系技術者による設計で、1970年に発売された。サニーよりも下のクラスのため、ボディは若干小さい。これはサニーと同じA型エンジンを横置きにしたことで実現している。ミッションをエンジンの下に置く2階建て設計を採用しているが、これはA型の本家、イギリスのミニと同じだ。
チェリーは当時の好景気を背景に、若者や軽自動車からの乗り換え需要を見越していた。当初は2ドアと4ドアのセダンのみだったが、71年に3ドアクーペを追加。このチェリークーペを日産ワークスはツーリングカーレースへ出場させる。当時は日本グランプリが終了して、レーシングカーによるグランチャンピオン(GC)シリーズが始まる。
その前座にツーリングカーレースが開催された。マイナーツーリングやTSと呼ばれ、メインレースのGCより人気があったほどだ。そこに参戦したチェリーはFFのため雨のレースでは滅法速く、オーバーフェンダーをまとった姿が印象的だった。
レースのイメージを踏襲して、チェリークーペにオーバーフェンダーを装備するX-1・Rが73年に発売される。GCを見に行くような若者に、このスタイルは人気爆発。レーシングカー風にカスタムすることも流行した。これが街道レーサーのルーツ的存在の1台でもあった。
このチェリーのオーナーY氏も、そんなひとりだった。当時はまだ20代前半。手に入れたチェリーは車高を下げるだけ下げ、ワイド加工したホイールにリアスポイラーを装着して乗っていた。Y氏いわく「ペタペタで乗るのがカッコ良かった」。
その後は順調にクルマを乗り換えたが、チェリーを手放して10年ほど経つと、また乗りたくなったY氏。独特のスタイルと良く回るA型エンジンの魅力は、他のクルマでは得られなかったからだ。
当時はまだ1年車検だったためクルマは手軽に手に入ったけれど、仕事で独立して子育てもある。チェリーはしばらく保管するだけになった。
車検を切らしてから20年、ある年の旧車イベントでチェリーばかりが集まることになった。それならとY氏はチェリーの復活を決意。ボディは全塗装をして、エンジンは部品があるうちにとオーバーホールした。
「ソレックスもいいけど」と、キャブレターは純正のSUツインのまま。だが調子はすこぶる良く、純正キャブを見直したそうだ。とても良く回り、楽しいエンジンがお気に入りだ。(文:増田 満/写真:伊藤嘉啓)
チェリークーペ 1200Xー1・R 主要諸元
●全長×全幅×全高:3690×1550×1310mm
●ホイールベース:2335mm
●重量:645kg
●エンジン型式・種類:A12・直4 OHV
●排気量:1171cc
●最高出力:80ps/6400rpm(グロス)
●最大トルク:9.8kgm/4400rpm(グロス)
●燃料供給装置:SUキャブ×2
●燃料タンク容量:36L
●トランスミッション:4速MT
●タイヤサイズ:165/70HR13
●価格:63万8000円(1973年当時)
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