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抜群に高い戦闘力だった906(カレラ6)── ベスト・ポルシェはコレだ! 第3回 津々見友彦編

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抜群に高い戦闘力だった906(カレラ6)── ベスト・ポルシェはコレだ! 第3回 津々見友彦編

ポルシェの思い出で、もっともインパクトがあったのは「906」、通称「カレラ6」だ。カレラ6は生沢 徹氏や滝 進太郎氏、酒井 正氏らが1967年の日本GPに持ち込み、生沢氏がニッサンR380A2を抑えて優勝したマシン。1966年にグループ4スポーツカー(年間生産50台)として、ポルシェが投入した純粋なレーシングマシンだ。

「チュードルウォッチレーシング」の米山 二郎選手の紹介でチームに参加し、筆者は初めてカレラ6に触れることとなった。

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「なんて美しいシルエットなんだ……」

間近でマシンを見た最初の印象だ。特に、流れるようなリアデザインが美しい。また、フロント両サイドのホイールハウスが大きく膨らんでいる独特のデザインも好みだった。

MR(ミド・エンジン、リア・ドライブのレイアウト)のため、当然ながらフロントには何もない。フロントノーズは、空力とドライバー視界確保のため徹底的に低く下げられていた。そのため、相対的に両サイドのフェンダーがとても高く持ち上げられているように見えたのも独特だった。

フロントガラスは大きなドームのように開放的だった。また、両サイドのドアはルーフにヒンジのあるガルウィングタイプ。これもなかなかカッコ良い!

コクピットに入って、愕然とした。キチンと整理され、美しいのだ! ダッシュパネルがまるでフツーの市販車のようにキレイに“化粧”されている。ウインドウガラスに反射しないよう、ネルのような素材の黒いファブリックを多用し、タコメーターは深いナセルで覆われていた。しかも、鋭い縁は安全のため、保護処理が丁寧にされていた。ヘッドライトなどのスイッチ類は市販の911とおなじだった。

「カレラ6は市販車なんだ!」と、ひどくカルチャーショックを受けたものだ。なぜなら、当時、筆者が知るレーシングマシン(トヨタやニッサンのワークスカー)のコクピットは、機能さえあれば、見た目はどうでもいい……程度の仕上げだったからである。それに対し、カレラ6は「ユーザーに売るクルマ」として、美しい仕上げを施していた。

ポルシェのマシンは、一般にも販売する“市販レーシングマシン”だった事実に大変驚き、かつ、多くの人にこの素晴らしいレーシングマシンを操る機会を与えるとは、なんて素晴らしい自動車メーカーなんだ! と、尊敬の念を深めたものだ。

扱いやすかったエンジン

エンジンは空冷2.0リッターSOHCフラット6(2バルブ)。ウェーバー製トリプルチョークキャブレター×2で出力は210ps/8000rpm、20kgm/6000rpのパフォーマンスだった。

エンジン始動で驚いたのは、“ある作法”だった。その作法とは、イグニッションシステムのチェック手順。実はイグニッションのテストスイッチが2個ダッシュパネルにある。ボッボッボッとアイドリングをしている時、片方のイグニッションスイッチをオフにする。

すると今まで、ボッボッボッと滑らかなサウンドが、ボボッ、ボボッとやや不規則になる。

つまり、ツインプラグの片方のイグニッションをカットするので、シングルプラグとなり燃焼が低下。カット機能が問題なく作動すれば、イグニッションが正常である証になるのだ。こうして、2系統のイグニッションそれぞれをカットして機能をチェックした。恐らく、燃焼速度を高めるのと同時にイグニッションシステムの信頼性を高めるためだったのだろう。もつとも1度もトラブったことはなかったが。

もうひとつの驚きはとてつもなくフレキシブルなエンジンとプラグ性能だった。

当時、エンジン担当のメカニックは必ず点火プラグのセットを持ち歩くのが常識だった。「プラグボックス」と呼ぶケースがあり、これに20個近くのプラグが入っていた。それぞれ熱価(スパークプラグが受ける熱を発散する度合い)の違うプラグだ。当時、エンジンウォーミング・アップでは熱価の低いものを使い、エンジンが温まったら、熱価の高いものに交換してからコースに入るのが常識だった。

しかしカレラ6の場合、メカニックは交換や調整など特になにもしなかった。低速でコースインゲートから鈴鹿サーキットに入り、ウォーミング・アップのあと、練習走行にそのまま入れるのだ。

ニッサンやトヨタのワークス時代は、ウォーミング・アップの最終コーナーあたりでエンジンが伸びたらポン! と、スイッチオフし、そのまま惰性でピットイン。そしてエンジン担当メカニックがすかさずプラグを外し、先端の電極や碍子の焼け具合や色から、キャプの設定を変えたり、プラグの番手(熱価)を変えたりしたものだ。

それがカレラ6では、スイッチオフせずそのままピットイン。メカニックは特にプラグを見たり、交換したりせずまったくのノータッチ。これには大変驚いた。拍子抜けするぐらい手がかからない。       

しかも、エンジンはとてもラフに扱えた。神経質さがないのだ。まるでフツーの911のように気楽だった。エンジントルクも低、中速域から十分あり、癖がない。今でこそレーシングエンジンは低速タイプになっているが、当時は高速型が主流だったからこれにも驚いた。

サーキットを走った印象は、軽快そのものだった。210psであるが、車重はわずか650kgと軽量で、パワーウェイトレシオは3.1kg/ps。ちょうど、いまの軽乗用車に200psのエンジンを載せたようなものだ。

MR(ミド・エンジン、リア駆動)なのでコーナーは、軽快に曲がれた。また、神経質なハンドリングでもなかったので、不安なく乗れたのも印象深い。

ただし、気になる点もあった。それはミッションだ! 左ハンドルの右に位置する少々長めのシフトレバーで長いシフトリンクを通し、エンジン後部のミッションをコントロールする。当時、ポルシェ自慢の「ポルシェシンクロ」と呼ぶサーボ効果の高いシンクロ装置が自慢で、ギア鳴りせずにどのギアにでもスルンと入り、その点では優れていた。

しかし、長いリンクのためにリンク剛性が低く、手応えが曖昧だったのは参ってしまった。“グニャッ”と、頼りなくシフトするのだ。ヒューランド(当時)のギアのように“ガチン、ガチン”という固い節度感はなく、前後のシフト時もまた左右のセレクト時も常に“グニャ、グニャ”なので、どのギアに入っているのか非常に分かりにくい。コーナリング中は身体が横Gで押されているので、特に左右のセレクター方向の位置が分かりにくかった。

1度、富士スピードウェイのバンク下から右コーナーに入る際、5速から4速にシフトダウン、ついで3速にシフトダウンするつもりで、前にシフトすると、何と1速に入ってしまった!ことがある。クラッチをつなごうとした途端、エンジンレブが急に上がったので、「やってしまった!」と思い、クラッチを踏んだが間に合わず、リアタイヤが一瞬ロックし、スピンしてしまった。

そういえば、日本GPで生沢 徹選手がまったく同じ場所で、同じようにスピンしたのを思い出した。「なるほど。徹ちゃんもシフトミスしたんだ!」と、気付くのであった。

なお、このスピン、幸いエンジンは無事だった。一瞬でタイヤがロックしたおかげでエンジンも止まり、バルブとピストンのクラッシュは避けられたので、そのあとまた何食わぬ顔でレースに復帰した。

カレラ6は軽快で、手間のかからない優れたレーシングマシンだった。米山 二郎選手とともに出走した1969年の鈴鹿1000キロレースで優勝したのも懐かしい。ちなみに、翌年の鈴鹿1000キロレースでは、先頭に立ちながらも、組み立てミスしたミッショントラブルでリタイアしたのは残念だった。

筆者にとってカレラ6は、決して忘れることのない、抜群に戦闘力の高い素晴らしい名車だった。

<著者プロフィール>
津々見 友彦(つつみ ともひこ):1941年、満州生まれ。1963年の第1回日本グランプリレースのC3クラスで総合5位。1964年にニッサンのオーディションを受けて合格し、船橋CCレースなどで優勝。1966年からはトヨタワークスチームの一員として活躍。1967年後半からスカラシップで渡米、マリオ・アンドレッティのメカニックとしてインディレースを転戦する。1969年に帰国後は、プライベートチームとしてレースに出走。その後、第一線から退き、自動車評論家として活動する。

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