じつは走りにこそ個性がある
2019年に生産が終了するVWのザ・ビートル。VWの歴史を生んだタイプ1、通称ビートルを、現代流にアレンジして復活させたモデルです。デザインのモチーフを流用しているので、ひと目でビートルらしさを感じることができます。タイプ1からのファンでなくても、個性的なデザインそれ自体に価値を感じる人もいることでしょう。しかし、その数はそれほど多くなかったようで、結果的にVWにとって、もっとも重要なアイコンが消えようとしているわけです。
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中身はゴルフ5です。2世代前のモデルになります。だから当然、フロントに直列4気筒エンジンを搭載した前輪駆動です。オリジナルのビートルは、リヤに水平対向4気筒エンジンを搭載した後輪駆動ですから、何から何まで違う、まるで正反対のレイアウトになっています。ビートルが設計されたのは戦前で、1930年代の技術では極めて合理的なものになっていました。エンジンが空冷なのは冷却水漏れを発生させないためで、フェンダーが張り出したものになっているのも、軽量で生産性の高い構造を選択したためです。
じつはリヤエンジンというのは、キッチリと四角いモノコックを採用できるんです。だから軽量で強いボディが作れます。FRだとトランスミッションがフロントのバルクヘッドに大きく穴を開け、プロペラシャフトがフロアを左右に分断するので、構造から見るとボディ剛性がもっとも不利なレイアウトなんです。当然、ボディ剛性を上げようとすると、重量が増えていくことになります。
歴代のポルシェ911がつねに強靱なボディ剛性を武器にしているのは、リヤエンジンのメリットが効いているんですね。ビートルはモノコック構造ではなく、強化されたフロアパネルにメカニズムをすべて組み付け、その上からボディを被せる構造になっています。そうした設計が可能だったのも、リヤエンジンゆえでしょう。
ちょっと回り道しましたが、本題はザ・ビートルです。その旧型であるニュービートルは、オリジナル・ビートルを現代の技術でリバイバルしたようなキャラクターでした。シンプルというべきか、チープというべきか、表現は難しいです。それに対してザ・ビートルは、個性的なクーペなようなスタイリングへと変貌。本来は2ドアセダンだったわけですが、それを2ドアハッチバッククーペとして進化させたということです。日本国内にも、スタンダードの1.2リッターTSIのほかに、ゴルフGTIと共通の2リッターTSIが用意されています。
メカニズムは基本的にゴルフですから、VW流のフラットなテイストで……、というのはちょっと早とちりです。ちょっと乗ったことのある人はわかってもらえると思います。じつは大きく違う部分があるんです。それはタイヤです。17インチだと、ゴルフは225/45R17ですが、ザ・ビートルは215/55R17が設定されています。タイヤ外径でいうと、ゴルフは630mmくらい、ザ・ビートルは670mmくらいというのが一般的です。ブランドによって、サイズは微妙に異なります。ちなみにトレッド幅は、同じ225mmくらいです。タイヤサイズは実測値ではないので、同じ数値でも全然違うサイズになっていることがあります。
つまりゴルフよりも4サイズ大きなタイヤを、ザ・ビートルは装着しているんです。VWでいえば、パサートのサイズですね。デザインモチーフとしてオリジナル・ビートルを使ったこともあって、ボディサイズに対してタイヤサイズが大きいんですね。そして、その大きなタイヤは見た目だけではなく、走りの面でもしっかりと効果が出ているんです。タイヤがしっかりと吸収力を発揮しながら、同時にがっちりと支えてくれる。それはエアボリューム=タイヤ内部の空気の量が多いことのメリットなんです。
一般論としてタイヤ外径が大きいと吸収性が高くなりますが、曲がることに関していえば不利です。また大きな舵角を与えるには、ホイールハウスの奥行きが必要になるので、一般的には最小回転半径は大きくなってしまいます。最近のモデルはタイヤの偏平率が低くなっていて、それは構造的にエアボリュームの減少が避けられません。さらに転がり抵抗の低いエコタイヤのような吸収性のないゴムの組み合わせだと、本当にゴツゴツした走行感覚になってしまいます。そういうクルマ、少なくないです。
そんなわけで、ザ・ビートルの走り味は、最近のクルマとはひと味違うんです。偏平率の低いタイヤからの悪影響をごまかすための仕掛けも、存在を感じません。見た目は個性的で、便利でも、使いやすくもありませんが、しかしクルマが本来持っていたはずの感触、そこから生まれる安心感に価値を見出せるのであれば、ザ・ビートルは注目すべきモデルだと思います。個人的にはコンバーチブルがベストですが、すでにラインアップからは消えています。セカンドチョイスは1.2リッターTSI+7速DSGの、DESIGNでしょうか。
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