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業界ニュース 2018.10.1

東レ:炭素繊維強化プラスチックの可能性を広げるしなやかなタフポリマー技術を開発

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東レは、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の伊藤耕三プログラム・マネージャーの研究開発プログラムの一環として開発した「しなやかなタフポリマー」を、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に応用する技術を開発した。今回開発したCFRPは、本来のCFRPが持つ高い強度と剛性を維持しながら、従来に比べて約3倍の耐疲労特性を実現することから、今後、自動車、自動車、スポーツ用品、医療など、幅広い分野への応用展開と市場拡大が期待される。

 内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のひとつである「超薄膜化・強靭化『しなやかなタフポリマー』の実現」(伊藤耕三プログラム・マネージャー、以下「本プログラム」)の一環として、東レは、分子結合部がスライドする環動ポリマー構造を炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)に導入することで、CFRPの耐疲労特性を向上させる新たなポリマーアロイ技術を開発した。

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 CFRPは、その高い強度と剛性を利用して、航空機や自動車などの構造材料や、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣り竿などのスポーツ用途、義肢などの医療用途などに広く利用されている。CFRPのマトリックス樹脂(母材)として使われている熱硬化性樹脂は、分子内に3次元架橋点(網目構造)を持つことから、優れた耐熱性、高強度、高剛性といった良好な機械的特性を示す。しかし、架橋点により分子の動きが制限されるために、材料の変形に追随できず、繰り返しの変形により壊れやすくなるという問題があった。これを解決して、機械的特性と耐疲労特性を両立できれば、CFRPはより幅広い用途に展開できると期待されてきた。

 本プログラムではこれまでに、分子結合部がナノメートルオーダーでスライドする環動ポリマーであるポリロタキサンの構造を、熱可塑性樹脂であるポリアミドに組み込み、加えられた力を分子レベルで分散させて「いなす」ことで、強度や剛性を保ちながら、衝撃を受けても壊れにくいしなやかな材料を開発することに成功していた。これは、大学などによる分子設計技術や構造解析技術と、東レが保有する、2種類以上のプラスチックをナノメートル単位で最適に混合する「ナノアロイ技術」との連携によるもの。

 今回、同様の技術をCFRPに適用し、一般的なCFRPに環動ポリマー構造を組み込んだ結果、強度や剛性を維持しながら、繰り返し曲げ疲労試験において約3倍の耐疲労特性を達成した。
 CFRPを構成する熱硬化性樹脂へ環動ポリマー構造を導入したことによって、CFRPの持つポテンシャルを最大限に引き出せる可能性が見いだされたことから、今後、さらに幅広い分野への応用展開とCFRP材料市場の拡大が期待される。

 本研究は、東京大学の伊藤耕三教授、大阪大学の原田明特任教授、山形大学の伊藤浩志教授、井上隆客員教授、東京工業大学の中嶋健教授、理化学研究所の高田昌樹グループディレクター(東北大学 教授)と星野大樹研究員、アドバンスト・ソフトマテリアルズ、東レ・カーボンマジックの協力を得て行った。本研究開発課題では、大学などによる分子設計技術や構造解析技術と、東レが保有するナノアロイ技術を駆使して、応力分散性に優れる環動ポリマー構造をナノメートルオーダーで分散させた材料の創出に取り組み、車体構造用材料の高靭性化を目指している。

【伊藤耕三プログラム・マネージャーのコメント】
 本研究チームでは、「車体構造用樹脂強靭化プロジェクト」において、ポリマー材料への環動ポリマー構造の導入により、高剛性と高靭性を高水準で両立した車体構造用材料を開発しています。
 今回の成果は、東レが保有するナノアロイ技術の活用や学術機関との種々の連携を通して、環動ポリマー構造をCFRPのマトリックス樹脂中にナノメートルオーダーで均一に分散させることに成功した結果、強度、剛性を保ちながら一般的なCFRPと比較し約3倍の耐疲労特性を実現したものです。今後は、本材料の特徴を生かし、航空、自動車分野への実用化を目指すとともに、スポーツ・レジャー用品、義肢などの医療用途など、自動車以外の分野にも応用展開することを期待しています。

研究の背景と経緯

 ポリマー材料は、自動車のバンパーや内装、家電製品の筐体などの身近な部材に用いられることが多く、衝突や落下で壊れないタフさが要求される。一般的にポリマー材料は、硬いほど壊れやすく、柔らかいほど壊れにくい性質がある。CFRPのマトリックス樹脂として用いられる熱硬化性樹脂は、分子内に架橋点を持つことから、熱可塑性樹脂と比較して優れた強度・剛性を示すが、架橋点により分子の動きが制限されることで、材料の変形に追随できず、繰り返しの変形により壊れやすくなる懸念があり、耐疲労特性向上によるさらなる高性能化が期待されていた。

 CFRPにおいて熱硬化性樹脂の耐疲労特性を向上させる方法として、靱性に優れるゴム成分の配合が知られているが、ゴムは、弾性率やガラス転移温度が低いため、ゴム成分の配合により、樹脂硬化物の弾性率が低下し、耐疲労特性と剛性、強度のバランスを取ることは困難だった。

 本プログラムでは、熱硬化性樹脂の架橋点に、ポリロタキサンのような環動ポリマー構造を効果的に配置して、ポリロタキサンが持つ「加えられた力を分子レベル(ナノメートルオーダー)でのスライドで『いなす』効果」を活用することにより、強さと硬さを保ちながら、耐疲労特性を大幅に向上させ、CFRPのポテンシャルを最大限に発揮させることを検討してきた。


研究の内容

 ポリロタキサンは複数のリング状の分子をひも状の分子が貫通した、数珠やネックレスのような構造を持ったポリマー(図1a)。このリング状の分子と、熱硬化性樹脂の分子をつなぎ合わせることで、分子結合部がひも状の分子に沿ってスライドする環動ポリマー構造を組み込むことができる(図1b)。



 本プログラムでは、大学などによる分子設計技術や構造解析技術と、東レが保有する、2種類以上のプラスチックをナノメートル単位で最適に混合する「ナノアロイ技術」との連携により、ポリロタキサンをCFRPのマトリックス樹脂である熱硬化性樹脂中にナノスケールで均一に分散させることに取り組んだ。具体的には、分子設計技術に基づきポリロタキサンの分子構造を最適化した上で、熱硬化性樹脂の出発原料である低粘度の低分子量化合物(プレポリマー)とポリロタキサンを攪拌、混合、溶解し、分子レベルで均一な相溶混合物とした後、重合の化学反応で生じる相溶性変化を利用することで、ポリマーアロイ構造をナノレベルで高度に制御した。

 こうして合成した熱硬化性樹脂をCFRPのマトリックス樹脂として使用した結果、一般的なCFRPが有する高強度、高剛性(弾性率)を保ちながら(図2a、b)、繰り返し曲げ疲労試験において、環動ポリマー構造を組み込まない場合に比べ、耐疲労特性を約3倍にまで向上させることに成功した(図2c)。



 透過型電子顕微鏡による観察の結果、熱硬化性樹脂中にポリロタキサンがナノメートルオーダーで均一に存在することが確認できた(図3)。このことから、相溶状態から硬化させて、ポリロタキサンを架橋点に均一に配置させることが本技術のキーであると考えられる。さらにポリロタキサンがナノメートルオーダーに均一に分散させた熱硬化性樹脂の大変形後の透過型電子顕微鏡による観察の結果、ナノ分散した環動ポリマーを起点に、万遍なく微細なクラック(1μm程度)が形成されていることが確認できた(図4)。

 こうして、熱硬化性樹脂の破壊の起点となりうる架橋点に分子結合部がスライドする環動ポリマー構造を効果的に組み込み、変形時に受けた力を分子レベルで「いなす」効果を発揮できる分子構造を実現したことにより、今回の耐疲労特性の劇的な向上が達成できた。

ナノアロイ:2種類以上のプラスチックをナノメートル単位で最適に混合する技術。東レの登録商標。

ポリマー:小さな分子が繰り返し結合してできた、ひも状の分子。プラスチック、化学繊維、ゴムはポリマーからできている。

環動ポリマー構造:分子の結合部分がスライド可能な分子構造。ポリロタキサン中の環状分子を目的のポリマーと架橋して作成する(図1b参照)。

耐疲労特性:試験片を繰り返し曲げ、疲労させた際の耐久性。破断するまでの繰り返し曲げ回数を指標とした。

熱硬化性樹脂:加熱により硬化(重合)させることで、3次元架橋構造(網目構造)を形成することから、剛性、強度に加え耐熱性、耐薬品性に優れるポリマー。硬化前のプレポリマーは炭素繊維への含浸性に優れることからCFRPのマトリックス樹脂として用いられる。

ポリロタキサン:複数のリング状の分子をひも状の分子が貫通した、数珠やネックレスのような構造を持ったポリマー(図1a参照)。

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(MotorFan Motor Fan illustrated編集部)

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