今や9段や10段のATが登場している時代だから、8速ATというのは格別の多段ATというわけではない。ただし、10年ぐらい前まで「4速AT」が標準的だったAT不毛の国フランスで、プジョーのCセグ・ハッチバックである308が、アイシン製8速ATを搭載してきたというのだから隔世の感がある。「GT」という2リッターディーゼルの高級グレードが、8速AT化の先兵となったとはいえ、308はご存知のようにVWゴルフの向こうを張る、欧州Cセグメントのもう一方の雄だ。それだけスタンダードなモデルに8速ATが載った事実は、SUVやスポーツカーといった特殊なカテゴリーの9速もしくは10速AT採用とは、意味合いが違ってくる。
今のところ国内仕様の308では、1.6リッターディーゼル120ps仕様は6速ATが据え置きで、2リッターディーゼルの「GT」のハッチバックとステーションワゴンであるSWの2モデルのみ、8速ATを採用する。とはいえ、アイシンAW製の「EAT8(エフィシェント・オートマチック・トランスミッション)」という型式で呼ばれるこの8速ATは、DS7クロスバックやシトロエンC4スペースツアラーなど、PSA内部でドライブトレインを同じくする車種にはほぼ同時に導入しているし、今後は排気量を抑えたパワートレインに拡大する。
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そもそも、プジョーが従来の6速に代えて8速ATを必要としたのは、CO2排出量を厳しく制限するユーロ6.2規制に対応せんがためだった。速度域に応じて細かくギア比を用意することで、常用域でのエンジン回転数を抑え、CO2排出量を減らす方向だ。多段化に際してはトルコンATではなく、昨今流行りのツインクラッチの導入も考えられるが、単純に重量がかさみやすいこと、シフト待ちのギアが回転している分のイナーシャでエンジン回転数がやや増すことをプジョーは嫌ったようだ。
今回の8速ATは従来型の6速ATに比べて2段追加されただけではなく、新たに専用設計としている。トランスミッションケースはよりコンパクトに、重量も微増に留め、容積自体は小さくなっているほど。変速のタイミングやコースティングに入る条件を見直し、フライバイワイヤの採用によるパーツの簡略化と軽量化により、従来比で約4%も効率が改善しているとか。
VW発の「ディーゼルゲート事件」以来、欧州ではディーゼルエンジンそのものが汚ないものであるかのようなイメージが流布してしまったが、古いディーゼルと最新世代のディーゼルでは、クリーンさに関して歴然たる差がある事実はほとんど無視されてしまっている。ユーロ6以降の規制ではNoxやPMといった有害物質に関しても厳しく抑え込まれているし、ユーロ6.2ではさらに、CO2排出量に関しても大きな削減量を必要とした。プジョー・シトロエンは早くから粒子フィルターを標準採用するなど、クリーンディーゼルへの取り組みは前々から分厚い技術ポートフォリオを有してきた。スペックに即、反映されるような分かりやすい変更こそ少ないが、実際的に効く抜本的な改良、というのは得意なのだ。
内装の変化もミニマムといっていいが、シフトゲート周りは多少なりとも変わった。シフトレバーが3008らと同じく、セレクタゲートを握り部分に示すタイプになったので、クラスター上のインジケーターが省かれ、ドライブモードの切り替えもSPORTだけでなく、アクセルオフでフリーホイール機能が働きやすくなるECOモードが追加された。
今回はフランス本国で試乗したために、写真は左ハンドル仕様となっているが、レザーに赤いステッチが入るGTならではのスポーツラグジュアリーな雰囲気は変わらない。インテリア各部の意匠はシンプルだが味気なくはないし、クロームの面積が大き過ぎず、高級感が滲み出た、とても落ち着いた内装だと感じられる。機能的でありながら、オフィスの休憩室みたいな殺伐としたトーンに陥らない絶妙のバランス感覚は、さすがといえる。
パリ郊外から市内を通過して、撮影のためにまた郊外まで走った。新しい8速ATは、50km/h制限の市街地でも、5速まで矢継ぎ早に変速を重ねる。エンジン回転をとにかく低く保たんかな、の制御である。変速ショックもきわめて滑らかで、とくに3速以上になると何速に入っているのか忘れてしまうほどだ。赤信号で停止するまでゆっくりと長くブレーキをかけて前車との距離を詰めるような場面では、惜しいかな、2速に変速する際にややゴロッとしたショックを感じる。キュッと短く停まった方がフィーリングは良くなるかと思いきや、それでもショックは残るので、低速ギアでのロックアップがけっこう固めてあるのだろう。そこが6速ATに譲る唯一のポイントだったが、適切なギア比を軽快に繋ぐ仕事ぶりは、例えばトントンと2段以上のシフトダウンを挟む時などは水際立っている。
同じアイシンAW製8速ATを採用する最大400Nmの2リッターディーゼルというと、ボルボのパワートレインがあるが、あちらがスムーズさに磨きをかけていると感じるのに対し、プジョーのそれは、低燃費やCO2削減を目指す最適化プログラムであるという点は重なり合いつつも、リアクティビティとドライバビリティ重視だと思う。つまり踏み込んだ時の反応が、より鮮明だと感じるのだ。
ドライブモードをノーマルのままにして走行していても、アクセルを少し奥まで踏み込むと、トランスミッションは1段だけのキックダウンでは足らないとばかりに、2段ほど下がることを躊躇しない。シフトスケジュールも、踏み込んでいる間は加速をできるだけ引っ張ろうとする。ドライバーの意志に敏感なのだ。
その傾向はドライブモードをSPORTにすると、より顕著になる。3000rpm前後まで積極的に引っ張り上げようとするし、エンジンの回転フィールはまるでディーゼルとは思えないが、一方で図太いトルクと加速の力強さは、まさしくディーゼルなのだ。どっしりとした印象のステアリングフィールは、速度を増すごとに手応えも正確性も増し、狙った通りのラインに載せてくれる。
308は、小径ステアリングを中心として直観的な操作性を目指した「i-コクピット」を採用しているが、メーターパネルをステアリング径の上方から視認する感覚がキモチ悪いという、そんなアンチな意見も生んでいる。だがそれは、食わず嫌いか守旧派のロジックでもある。というのも、ひとたび慣れてしまえば、ステアリングスポークの間から窮屈にメーターを覗いていた、あるいはコーナーを曲がるのに大きなステアリングでより大きな舵角を切っていた時代の方が、洗練されていない過去のものだと気づく。加えてそこに、トレース性に優れたハンドリングとしなやかなダンピングによるフラットな乗り心地が相まって、ドライバーの意思を増幅して軽々と距離を飲み込んでいくような、凝縮されたドライビング感覚が味わえるのだ。
90km/h制限の下道をECOモードで走っていると、コースティングで空走しているような時間が増える。もう一つ、8速AT化と同時に見逃せないのは、ACC(アダプティブクルーズコントロール)が標準装備となった点だ。
現代のドライバーの求める走りは、スポーティなだけではなく、環境に配慮したり、景色を楽しんだり、あるいは長距離を安楽に快適に移動したり、多岐にわたる。その気分に合わせられるよう、ドライブモードの切り替えによるシャシーコントロール機能は、欧州Dセグメント以上の上位モデルではかなり常識化して様々なものが提案されている。308GTが現行のCセグ・ハッチバックの白眉といえる点は、軽快さと道具としての実用性をきちんと維持しながら、8速AT化によって走りの幅というか、「得意とする芸域」をさらに拡げてきたところにある。
よくCセグ・ハッチバックの指標はVWゴルフだといわれるが、日本で思われているほど、欧州ではそう考えられてはいないし、もはやゴルフ恐るるに足らずというほど、迷いのない境地にまで独自の進化を遂げている、それがプジョー308の現状だ。
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