まるで初代のように軽さを武器にワインディングを駆け抜ける
僕ら昭和世代の男の中で、アルピーヌA110の名を聞いて興奮しない者はいないと思う。雪のモンテカルロラリーを激走するシーンはあまりにも有名で、実物のA110を見たことのない人は大勢いたとしても、あの写真を知らない人は少ないと思う。雪のモンテカルロで派手なドリフト走行をするあのシーンである。そう、そんな伝統のアルピーヌA110が、その名はそのままに現代に蘇ったのである。
【試乗】単なるオマージュじゃない! ドライバーを興奮させる新型アルピーヌA110の走り
新型A110は、かつてのRRレイアウトではなくミッジトップとして登場。そう、あのドリフトは、RRでコントロールしていたのかと改めて感心する。
新型が搭載するエンジンは、最高出力252馬力、最大トルク320N・mを発揮する。直列4気筒1.8リッター直噴ターボエンジンだ。エンジンの搭載位置を変更したことでもわかるように、旧型のオマージュではないという。だが、デザイン的には1960年代に活躍した伝統のA110の面影を色濃く残している。あの栄光を現代版に蘇らせたことは明白だ。
最大の特徴は、驚くほど軽いことである。オールアルミボディなどで、車両重量は1110kgだというから開いた口が塞がらない。1110kgという数字は、先代の3代目マツダロードスターとまったく同じ数字である。かたやNAエンジンを搭載するFRオープンスポーツであり、A110はターボエンジンを搭載するミッドシップクローズドモデルである。どっちが技術的に追い込んだか否かは別として、とにもかくにも軽いのである。
それはたとえばフォーカル製オーディオが、音質を落とさない範囲で軽量化しいたという領域まで踏み込んでいる。
バケットのシートレールは、レーシングカーのように軽いアルミ製だ。軽さへのこだわりは半端ない。ちなみに、価格的にライバルになりうるポルシェケイマンは1390kg。BMW M2は1580kgだ。比較してみれば、どれほど軽いか想像できると思う。
そんなだから、ワインディングの立ち居振る舞いは、軽量飛行機で大空を舞っているかのようだ。コーナリング特性は、思わず「軽っ」って口にしてしまったほどに軽快である。サスペンションをいたずらに固めてはいないから、前後左右に穏やかなピッチングやローリングが残る。路面に吸い付く感覚は薄い。そもそもフロントに重量物がないからノーズは軽い。ボディ全体も徹底したダイエットが行き届いていることで、ヒラリヒラリとコーナーを舞うのである。
ケイマンやM2のほうに堅牢なボディと高剛性のサスペンションでガシッと走るのではなく、ヒラリヒラリと軽飛行機のようである。戦闘機で音速を突き進むのではなく、セスナで遊覧行をしているような感覚が心地良かった。
といはうものの、加速フィールは252馬力という数字から想像するよりはるかに力強い。アクセルペダルを踏み込むと、ごく初期のレスポンスにためがあり、直後に破裂するように加速体制に移行する。そのためが加速の序奏のようで興奮する。トルク特性はフラットだが、回転系の針が7000rpmに達するまで勢いよく突き進む。カタログ数値では、0-100km/hが4.5秒だという。するすると気がついたら思わぬ速度に達している……といったフィーリングである。
組み合わされるトランスミッションは7速DCTである。ダイレクトな変速感はなかったけれど、小気味好くギヤが移り変わる感覚はA110に合っていると思った。
ドライブモードを「スポーツ」にアジャスすると、高回転をキープするような設定に切り替わる。同時にエキゾーストノートが変化する。それはかつてのA110のキャブレターが空気を吸い込む時のサウンドに近いという。旧型のA110を走らせた経験がないのが残念なのだが、かつてもこの日と同様に、力強い吸気音を響かせてモンテカルロを疾走したに違いない。そう思うと心がワクワクした。
コクピットはタイトである。数々のトグルスイッチはかつての競技車を彷彿させる。バケットシートは肉厚だが、体を深く包み込む。ヒョイっと抱えて走れそうなコンパクト感がA110の魅力でもある。現代に蘇ったアルピーヌA110は、かつての栄光を感じさせるに十分な味と性能を秘めていたのだ。ライバルはケイマンやM2などではなく、軽さを武器にワインディングを舞うマツダ・ロードスターなのだと思った。
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