日本国内における日本車のMT販売比率はわずか2.6%(2017年)。まさにジリ貧といった状況だ。そんななか、スバルはインプレッサに続いて新型フォレスターのMTを廃止した。
そのいっぽうで、トヨタはカローラスポーツにiMT(インテリジェント・マニュアル・トランスミッション)という、ハイテク6速MTを発表した。
はたして、今後、MTは絶滅するのだろうか? それとも進化していくのだろうか? 自動車ジャーナリストの高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸 写真/ベストカー編集部
■フォレスターはMT廃止、しかしカローラスポーツのiMTなど新潮流も出てきた!
2018年8月2日に追加でラインアップされたカローラスポーツでトヨタの本気度の高さが、また伝わってきた。そのひとつが変速・発進操作をアシストするインテリジェントマニュアルトランスミッション(iMT)付き6速MTの設定だ。
スポーティなクルマにはMTの設定は必須と思われていたのは、今や少し前の常識。その理由は、クルマの制御が高度になった現在ではMTと電子制御の共存が難しくなってきたからだ。
フェラーリやランボルギーニなどのスーパーカーが2ペダルしか用意しなくなったのは、クラッチをマニュアル操作する時点でクルマの安定性を高める電子制御に制約があり、ある程度の領域までしか使えないからだ。
サーキットでのラップタイムはMTのほうが遅くても「MTがいい!」と思うユーザーはいても、2ペダル仕様と比べてスピンしやすいのはメーカーとして販売するには問題がある。それくらい電子制御を駆使したスーパーカーの走りは限界領域が高くなり過ぎているのだ。
スバルがフォレスターのMTの設定を諦めたのも、アイサイトとの協調が限界だから。自動ブレーキで追突を防止(クラッチ操作しなければエンストする)することはできても、ツーリングアシストでシフト操作を自動化できないため、スピードのコントロールを行なうことはMT仕様では無理なのである。
ちなみに自動ブレーキシステムそのものの性能については、国産自動車メーカー各社に聞いたがAT車とMT車の差はないとのこと。
MTにはクラッチの断続操作とシフト操作をドライバーが同時に行なうために、どちらかを自動化するということは難しい。かつてドイツのルーフ・オートモビルはMTのクラッチ操作をシフトレバーの操作に連動させた電子制御クラッチEKSを実用化させたが、その操作感の独特さ故に普及することは難しかった。以来、AMTでギクシャクするコンパクトカーが登場しては日本市場に馴染めずに廃れていった。
ATでは10速までの多段化が進み、大型トラック用AMTでは12段変速も実現しているが、HパターンのMTでは通常は5速、6速までが使われている。ポルシェの一部モデルでは7速も導入されてきたが、MTでは変速操作が煩雑過ぎると加速中にトルクを伝達している時間の割合が短くなってしまう。
DCTはMTの構造を持ちながらもトルク伝達が途切れないシームレスな自動変速を実現しているが、これは2つのクラッチの断続操作も自動化しているために可能となったこと。マニュアル操作でデュアルクラッチを駆使することなどまず不可能だ。
変速時に次のギアと回転数差を調整するシンクロ機構にトリプルコーンシンクロ採用するなど、良好なシフトフィールを長く維持する工夫こそ進んだが、基本的な構造はもう70年近くも大きな変更はないまま、MTは作られ続けてきた。構造的にMTはシンプルで伝達効率が高い変速機であるため、早くから機械として完成の域に達していたのだ。
■操作がダイレクトにクルマの動きに反映されるのが、MT車の魅力
MT車は両手足を使ってペダルとシフトレバー、ステアリングを操作するなど運転操作が複雑な分、ドライバーの腕の良し悪しがクルマの動き方にダイレクトに現れる。運転が上手くなりたいドライバーにとっては、自分の上達ぶりがクルマの動きによって判断できるのは、やりがいを感じるものだ。
カローラスポーツのIMTが賢いのは、ブリッピング機能を備えていること。MTでシフトダウンしてコーナーに進入する際、右足でブレーキペダルを踏みながら左足でクラッチペダルを踏み、シフトダウンしながら右足の踵でアクセルペダルを踏んでエンジン回転を上昇させて、シフト操作のショックを解消する行為「ヒール・アンド・トゥ」は、スポーツドライビングの醍醐味だ。
これを機械任せにしてしまうのは「もったいない」と思うMT乗りの気持ちも分かるが、知らないユーザーにまずはMTの楽しさを体感してもらうには、この高等テクニックを疑似体験してもらうことも必要なのだ。
流れるようにシフトダウンとコーナリングがキマッた時のスムーズなクルマの動きは、ゲームでは絶対に体験できない、リアルなドライビングの達成感を味わえる貴重な要素だ。
■マツダはMTの自動運転を目指している?
このMTのダイレクト感と先進の電子制御、さらにはその先に控えている自動運転を両立することはできないのだろうか? その難題に挑戦している自動車メーカーがマツダだ。
マツダは自動運転の開発を続けている一方、クルマの運転がドライバーの気分をリフレッシュさせて脳を活発に、精神を健康にさせてくれるという考えから積極的に運転を楽しむクルマ作りを進めている。
通常はドライバーが運転を楽しみ、疲労が一定以上に溜まった時にAIが運転をサポートする。あるいはドライバーの体調が急変した時には自動運転に切り替えて、安全な場所や病院までクルマを運ぶ。そんな自動運転こそマツダが目指している自動運転だ。
マツダ車にMT車の設定が多いのは、役員クラスにMT好きが多いことが影響しているらしいが、それだけにMT自体にもこだわっている。
FF用のMTもコンパクトなMTをAKYACTIV-MTとして新しく作り直したが、わざわざNDロードスターでは極限まで軽量化とシフトフィールにこだわったMTを新開発したくらい、ある意味エンジン以上に力を入れている。
■MTを電動でリモートする時代が来る!
自動運転とMTが両立するのか、なんて疑問に思う人もいるかもしれない。しかし、技術的には可能だ。それはバイワイヤー、つまり電動化によりMTを完全リモート制御してしまうことだ。最新のクルマたちではアクセルによる加速、そしてブレーキによる減速といった操作はECUが制御している。
ドライバーの操作がダイレクトにクルマを動かすのではなく、一度電気信号に変換して、ECUが適切な操作量に修正してスロットルバルブの開閉量やブレーキの制動力を制御しているのだ。
MTの操作も、いずれはそうなる可能性がある。クラッチペダルを踏んだ勢いや踏み込み量をセンサーで検知して、電動アクチュエーターがクラッチを断続、シフトレバーの操作も実際にギアを切り替えるのは電動アクチュエーターだ。そうすることで、先進の運転支援システムに対応し、ドライバーの体調急変にも自動運転モードへの切り替えで対応できる。
そんなシステムが、今までのMT車がもつダイレクトなフィーリングを再現できるのか、疑問に思う人もいるだろう。厳密には、リンクやワイヤー、油圧でダイレクトに操作していた操作と同じダイレクト感は実現することは難しくても、かなりのレベルまで操作感を演出することは可能になるハズだ。
■MTはこれからどうなっていくのか、高効率化の可能性は?
今や日本市場の販売台数におけるMT車の比率は、わずか2.6%(2017年)。前述のマツダですら、ロードスターのMT比率は7割を超えているけれど、全体としては1割以下の7.4%にとどまっている。
ある意味、マツダが日本のMT比率を支えている状況なのである。ちなみに北米市場のMT比率もほぼ同じ3%以下。アメリカでMT車を選ぶのはカーマニアのステイタスになっているが、日本でも同じ状態になりつつある。
クルマが、クルマとしての魅力を備えたまま存続していくためには、MTのような操縦する喜びは絶対に必要だ。エンジンのトルクカーブや振動、回転フィールがドライバーを夢中にさせるのは、それをダイレクトに伝えるMTの存在があってこそ。
それでもMTが機械的にこれ以上の進化を遂げるのは、やっぱり難しい。シーケンシャル式のシフトにして多段化することもできるけれど、それは速く走るためには有効でも、MTを操作して運転を楽しむという行為にはプラスに働くことはあまりないからだ。
今以上の燃費や環境性能を引き出すには、マイルドハイブリッドとの組み合せがまずは効果的だ。スズキのAGSのようにハイブリッドでシフトショックを解消させる仕様もアリだが、シフト操作を楽しみたいMT派には物足りないから、やはり既存のMTのままモーターで加速をアシストする仕様がベストだろう。
■MTはなくならないが、限られたものになっていく!
ともあれ、当分の間はMT車はなくならない。ドイツ車でポルシェやVWゴルフGTIなどのスポーツモデルを中心にMT車が設定されるのは、ニュルブルクリンク北コースがあり、サーキットやアウトバーン、郊外の一般道で運転を楽しむ層が一定以上存在するから。
フィアットやルノーがコンパクトカーを中心にMT車を用意しているのも、キビキビと街中を走らせることを楽しむMT派のドライバーが多いからだ。ドイツではなんと新車販売の83%がMT車で、英国も84%、イタリアやフランスではさらに高く9割を超えると言われている。欧州では日本とMT比率が逆転しているのだ。
今後はバイワイヤー技術によって、MTの仕様も二極化していくだろう。シェアカーの台頭によりMTは大衆車では減少し、商用車やスポーツモデルに特化していくのは間違いない。つまりMTを駆使して運転を楽しむという趣味は、これからますます限られたものになっていくのだ。一度は味わってみたいと思っているなら、早めに手に入れることをオススメする。
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