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スバルレガシィツーリングワゴンはなぜ「神話」を築けたのか

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スバルレガシィツーリングワゴンはなぜ「神話」を築けたのか

 1990年代、「ワゴンといえばレガシィ」という時代が長く続いた。スバルの中心的車種として同メーカーのイメージリーダーとなり、市場を牽引。トヨタ、日産、ホンダらが続々とライバル車を開発し投入したが、レガシィはそのすべてを返り討ちにした。その姿は「レガシィ神話」と呼ばれ、多くの若者が憧れた。

 なぜレガシィは、それほどの実力を持つことができたのか? (当時それほど開発費が潤沢だったとは思えない)スバルはどんな魔法を使ったのか? 以下、90年代のスポーツモデルに詳しい自動車ジャーナリストの片岡英明氏に、当時の状況を交えて考察してもらった。

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文:片岡英明 写真:SUBARU

■スバル1000、レオーネから連なる系譜

 スバルは1966年春に発売したスバル1000のときから低重心の水平対向エンジンにこだわり、これを自らのコアテクノロジーと位置づけた。

 このスバル1000に続くレオーネでは、時代に先駆けて4輪駆動のシンメトリカルAWD(4WD)を採用し、乗用4WDの扉を開くとともに、安全かつ楽しい走りを実現している。

 そして1980年代になると、いち早くマルチパーパスのツーリングワゴンを送り出し、ターボ搭載のスポーツワゴンの世界も切り開いた。

 レオーネツーリングワゴンはパートタイム4WDでスタートし、1986年にはフルタイム4WDを送り込んだ。また、4WDシステムもクルマの特性に合わせて種類を増やしていく。

 メカニズムの優秀性は折り紙付きだった。

 が、レオーネは一部のスバリストには愛されたものの、他メーカーのクルマに乗るユーザーはそれを冷ややかに見ており、なかなか乗り換え需要にはつながらないない。当然、販売面では伸び悩んだ。

 何とかしないと、と意気込むエンジニアが多かったが、社内には改革を嫌う保守勢力も多かった。だからレオーネ頼みの時代が長く続くことになった。

■入念に準備し、世界基準の開発体制を整えた

 フルタイム4WDが全盛になるのを予見したエンジニアは、スバルの未来をかけて新世代の4ドアセダンとステーションワゴンの開発を開始した。

 車名は「レガシィ」。

 構想と先行開発はレオーネにツーリングワゴンを送り出した直後(1981年頃)から行っていたが、1985年夏にはプロジェクトが社運をかけたものになるのである。

 その証拠に、計画された新型車はエンジンからシャシーまで、すべてを新設計としたのだ。

 開発の中心エンジニアは、スバル1000に憧れて入社した若い人たちである。彼らは商品としての魅力に加え、走りの質感もレオーネとは次元が違う上のレベルを狙った。

 ミドルクラスだが、小型車枠の5ナンバー最強、4気筒エンジンの最高峰をめざすとともに、世界基準で開発に取り組んだのである。

 だからスバルとしては初めて、セダンとツーリングワゴンを同時に開発した。また、最終プロトタイプは発売直前にアメリカのアリゾナにある高速周回路へと持ち込まれ、ここで10万km連続走行の世界速度記録に挑んだ。

 その結果、10万km、5万マイルの世界記録を樹立し、11の国際記録を打ち立てた。基本性能は群を抜いて高かったのである。

 初代レガシィがベールを脱ぐのは、年号が平成に変わった1989年1月だ。「LEGACY」は英語で「大いなる伝承物」という意味であり、スバルの集大成であることを物語っている。

 群を抜く高性能と高い信頼性が自慢だった。

 エクステリアは、今までのスバル車にはない伸びやかなフォルムだ。ウエッジシェイプを基調としたダイナミックなデザインで、キャビンもルーミーで明るい。ドアはレオーネからサッシュレスドアを受け継いでいる。イタリアの鬼才、ジウジアーロがデザインに関わったといわれている。

■名機「EJ」エンジンと「RS」グレードの設定

 初代レガシィのツーリングワゴンは、キャビンから後方を専用デザインとしている。

 最大の特徴は、ルーフの途中からキックアップしたツーリングルーフだ。

 ボディサイズはレオーネよりひと回り大きく、ホイールベースも長い。レオーネはキャビンが狭かったが、レガシィは広く、開放的だった。しかも風格がある。

 パワートレインは新世代の水平対向4気筒と新しいトランスミッションだった。新エンジンには「EJ」という型式が与えられ、クランクシャフトからシリンダーヘッド、シリンダーブロックに至るまで、すべて新設計とした。

 1.8LのEJ18型水平対向4気筒SOHC4バルブのほか、スバル初となる2LのDOHC4バルブを設定している。フラッグシップは2LのDOHCターボだ。開発目標はリッター当たり出力100馬力だった。スポーツセダンの「RS」は目標を上回る220ps/27.55kgmを絞り出した。

 発売当初、ツーリングワゴンはNAエンジンだけでスタートした。だが、同年10月にターボ搭載の「GT」を投入する。RSのDOHCターボをディチューンしたFJ20型エンジンは、200ps/26.0kgmを発生。トランスミッションは5速MTと電子制御4速ATを設定し、5速AT車は刺激的な加速を見せつけた。

 サスペンションは4輪ともストラットの4輪独立懸架である。レオーネが先鞭をつけたエアサスペンション仕様を設定したのも、技術にこだわるスバルらしいところだった。ツーリングワゴンは4WDモデルだけの設定とし、FF車はない。この割り切った戦略がうけ、レガシィ神話のひとつになった。

 バカっ速く、路面を問わず痛快な走りを見せるスポーツワゴンのGTが投入されたことにより、レガシィは大ブレークする。

 瞬く間に日本を代表するワゴンにのしあがり、しかも実力に裏打ちされた評判は、デビュー後しばらくたってからもじりじりと販売を押し上げる効果を発揮。発売2年目の1990年にも前年比10%を超える伸びを見せた。ツーリングワゴンはレガシィ全体の60%以上を占め、社会現象にもなった。

■ワゴンを「セダンの派生」と考えず、真摯に開発

 大ヒットとなったモデルの宿命で、レガシィツーリングワゴンを追うように、ライバルメーカーは「刺客」を送り込む。

 日産は1990年5月にアベニールを、トヨタは92年の11月にカリーナサーフの後継となるカルディナを発売している。

  三菱もリベロを投入したが、レガシィらと比べると格下のイメージは拭えない。マツダはカペラカーゴで応戦した。ホンダも1991年にアメリカからアコードをベースにしたUSワゴンを輸入し、発売している。

 だが、いずれのモデルもレガシィツーリングワゴンの牙城を切り崩すことはできなかった。他のメーカーのワゴンは商用バンをベースにしているクルマが多い。だが、レガシィは最初から快適な乗用車として設計され、スバル社内でもエースエンジニアが担当している。だから走りがいいだけでなく乗り心地も違っていた。開発にかける心意気からして違うのである。

 レガシィは、富士重工業を名乗っていたスバルが、原点に立ち返ってクルマづくりを行った真剣勝負のクルマだ。運転して楽しいし、安全に移動できるクルマの魅力と本質を徹底的に検証し、追求した。

 当時はボディ剛性や安全性能が注目されていなかったが、レガシィは世界トップレベルの強靭なプラットフォームを採用し、衝突安全性能もクラストップレベルにある。それは、フラッグシップモデルにパワフルなターボを設定していたことも大きい。強大なトルクに負けないように、シャシーやサスペンションを設計し、コストがかかっても軽量なアルミなどを多用した。

 序列にこだわらないボーダーレスなクルマづくりを行い、ワゴンといえども最高のものを生み出そうとしたのである。この真摯な姿勢がクルマ好きの心に響いたのだろう。

 また、レガシィは発売後も毎年のように商品性改良を行い、高みをめざした。手綱を緩めなかったこともあり、ユーザーの信頼を勝ち取ってゆく。リピーターも多かったのだ。

■2代目のヒットでその地位を確立

 大ヒットした次のクルマは難しい。

 その難題に果敢に挑んだのが、2代目のレガシイだった。初代BC/BD系に続き、2代目のBD/BG系は1993年10月にバトンを受けている。正常進化の形をとったが、商品としてのまとまりは素晴らしかったし、進化も分かりやすい。小型車枠にこだわりながら洗練度を高めた。

 パワーユニットは伝統の水平対向4気筒でEJ20エンジンを搭載したが、その中身にはモデルチェンジと言えるほどの改良を施し、動力性能もフィーリングも向上させている。

 リーダーのRSとツーリングワゴンGT系はツインターボとし、2ステージ化することによって低回転域のトルク不足解消とレスポンス向上を図った。250ps/31.5kgmと、性能的にもワゴン最強だ。

 しかも4WDシステムは3種類を揃えている。

 初代に負けず劣らずの人気モデルとなり、ワゴンの代名詞となった。

 その後もレガシィは積極的に改良を行い、仲間を増やしていく。

 クロスオーバーカーの先駆けとなる「グランドワゴン」は「アウトバック」のご先祖だ。1996年6月にはエンジンを進化版のBOXER・MASTER-4にするとともにGT-Bはビルシュタイン製の倒立ダンパーを採用した。

 レガシィはライバルを圧倒するメカニズムとクロスオーバー化によって魅力を広げ、神話を築いたのである。

 スバルは特別な魔法を使ったわけではない。レガシィが並み居る強力なライバルに勝ち続け、大ヒット製品となった最大の要因は、(時代の流れに乗った幸運はあれど)基本的には信念にも似た動力性能と安全性能の追求を繰り返し、それを叶えるべく積み上げた地道な開発努力の成果だといえる。

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