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自分の過去の記憶は本当にあった出来事なのか?眼の前で起きた重大交通事故

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自分の過去の記憶は本当にあった出来事なのか?眼の前で起きた重大交通事故

人生のなかで実際に起きた出来事の残像、すなわち「記憶」だと思い込んでいたものが、実はリアルなそれではなく、わたしの脳内で捏造されたモノだったということがここ最近、何件か立て続けに判明している。

挙げればきりがないのだが、ひとつは交通事故に関するものだ。

プロレスを初めて生観戦して見えた「面白さ」とクルマとの意外な共通点とは?

眼の前で起きた(はずの)重大交通事故

たしかあれは15年前。わたしは当時乗っていたクルマの助手席に当時の妻君を乗せ、どこか地方の高速道路を走っていた。詳しい場所は覚えていないが、交通量が極端に少ない片側2車線の自動車専用道であった。

わたしは走行車線をメーター読み100km/hほどで巡航していた。そしてわたしの200mほど前方では1台の4トン中型トラックが、これまた100km/h前後と思しき速度で巡航していた。

そして前方左側に緊急避難帯が現れた。

わたしは「あぁ、緊急避難帯だな」と思っただけだったが、4トン車のドライバーは――半分居眠りしていたのだろうか――どうやらそれを高速道の出口ランプと誤認したようで、「うわっ、やばっ! ワシここで降りるんだった!」というニュアンスで、左へのかなり急なレーンチェンジを敢行した。

敢行したのはいいが、そこはあくまでも緊急避難帯であって出口ランプではないため、数十mか100mほども直進すれば避難帯は終わり、そして前方には当然ながら「壁」が出現する。

半分寝ていたと思しきドライバー氏と4トン車は、そのまま前方の壁に激しく激突した。物凄い音が、山間の高速道路に響いた。

わたしは100mほど後方からその様子を眺めつつ、「……実は俺もさっきからずっと眠かったのだが、あのドライバーのようにならなくて良かった。まぁ日頃の行いが良いのだろうな」と思った。

が、どうやら日頃の行いはさほど良くなかったようで、クラッシュした4トン車から剥がれ落ちた大きなフロントバンパーが、壁にぶつかった反動でこちらに、まさにわたしのクルマとの衝突コースにツツツーッと滑ってきた。

「うおおおおおおおおっ!」と大声を発しつつ、わたしはそれを回避した。

そしてそのまま、今ではどこだったかよく覚えていない地方の高速道路を、わたしは走り続けた。

あの事故が幻であったことを示すいくつかのポイント

……以上が、ここ最近「実は脳内で捏造されたものだった」と認定された記憶のひとつである。なぜ捏造記憶であることがわかったかといえば、発端には「松井さんのオッパイ事件」というのがあるのだが、それはまあさておくとして、とにかく「よく考えれば絶対にあり得ないから」だ。

わたしはさして正義感の強い人間ではない。だがさすがに眼の前で、特に自分以外は誰も走っていない山道で重大な交通事故が発生したならば、自分の車を安全な場所に停止させたうえで、ドライバーの救護ならびに警察消防救急などへの通報を行うだろう。こんなわたしにも、せめてその程度の正義感はある。

だが、わたしは「ふーん。まぁ巻き込まれそうにはなったけど、結論として巻き込まれなくて良かったわ」ぐらいに思いながら、そのままどこかへと走り去ったのだ。わたしと違い正義感の強い人だった当時の妻君も、その行動に対して何も言わなかった。そして後日、「そういえばあのドライバーは無事だったかな?」的にネットの新聞記事などを探した記憶も、それを読んだ記憶もない。

さすがにこれはあり得ない。

「あれは夢だった。もしくは何らか幻を、わたしは見たのだ」

今ではそう納得し、確信している。

あれが幻だったのなら、「今この瞬間」も実は幻なのか?

しかしわたしは、「よく考えれば」というよりも「ちょっと考えれば」すぐに夢か何かだとわかるこの出来事を、15年ほど「実際にあった出来事」と2000%確信し続けてきた。

あまりにもクリアな映像であり、あまりにもクリアな記憶だったからだ。

そしてそういった「クリアな記憶なんだけど、実はニセモノだった」とここ最近判明した例は、この事件のほかに前述の「松井さんのオッパイ事件」、そして「ブルーインパルスきりもみ事件」など枚挙にいとまがない。

そうなってくると、どうしたって以下二つの疑問が脳裏に浮かんでくる。

1. わたしは頭がおかしいのではないか?
2. 今「現実」だと思っているこの瞬間も、実は夢か何かなのではないか?

1については、よくわからないが、まぁそうなのかもしれない。そうだとしたらあきらめるほかない。仕方ない。

問題は「2」のほうだ。

わたしは今、「伊達軍曹」なる頓狂な筆名を名乗り、頓狂な随筆もどきをあちこちの媒体に書くことで生計を成り立たせている。

だがこれはわたしの脳が捏造しているニセの認知であって、実際の私は今も高等小学校卒業後に新卒入社した某企業で働くサラリーマンであり続けている――なんていう話も、決してない話ではない。

や、今「決してない話ではない」と言ったが、実はそれは嘘で、そればっかりは2000%絶対にない話だと思っている。

だが「今の浮草稼業を続けている人生と、まっとうな勤め人としてあり得た人生。果たしてそのどちらが正解だったのだろうか?」という点については、時おり考えることもある。

特に「ゼニ」の点でだ。

選んだ人生、選ばなかった人生

瞬間風速的なモノだけで言うのであれば、まっとうな勤め人である伊達某よりも、流しの与太者である伊達軍曹のほうが、おそらくゼニは稼いでいるはずだ。

だが勤め人・伊達某のほうは、何か不祥事でもしでかさない限り「来月も再来月も、そしてたぶん来年も再来年も、とりあえずお給金は必ず入ってくる」という保証の下に生きているはず。退職金もあっただろう。

もちろんリストラクチャリングの対象となる、あるいは会社が消滅するという可能性はいつだってある。リストラについてはなんとも言えないが、さしあたり客観的事実だけで言うとわたしが勤務していた会社は今現在も潰れておらず、テレビでバンバンCMを打ちまくっている。……ある意味幸せな人生だったのかもしれない。

一方の与太者・伊達軍曹は、明日の予定ぐらいはさすがに決まっているが、来週以降の予定は「真っ白」だ。儲けるかもしれないし、一銭も稼げないかもしれない。近い将来、ちょっとした空冷911の1台ぐらいは買えるのかもしれないし、梅干しすら買えない生活が待ち受けているのかもしれない。

どうなるかはわからない。そして「果たしてどちらの人生が良かったのか?」という点についても、遺憾ながらわたしはわからない。まったく、わからないのだ。

● ● ● ● ● ●

……という原稿を、ヒマなので、プリントアウトしたうえで東京都渋谷区にあるカレント自動車WEB事業部まで持参し、編集長に直接手渡した。

全編をとりあえず素読した編集長氏は、言った。

「まったく面白くなくはない……と思います。が、ちょっと長いのと、この原稿で言いたいことは何なんですか?」

や、特にはないっちゅうか本中華……と、しどろもどろになったわたしだったが、この際なので本当の「言いたいこと」を編集長氏に伝えることにした。

「まぁその、正直稿料がもうちょっと欲しいというか、値上げしていただけると助かるっちゅうか本中華……」

編集長氏は「なるほど」とつぶやき、そしてデスク最上段の引出しから100円硬貨3枚と10円硬貨2枚を取り出すと、わたしに手渡した。

「本日ご足労いただいた往路の電車代と、帰りの電車代です。お疲れさまでした。そして、さようなら」

どうやら、わたしはまたしくじったようだ。

いただいた320円で梅干しを買い、自宅へは徒歩で帰った。買えるうちに、梅干しを買っておこうと思ったのだ。梅干しのパッケージ裏には「賞味期限 平成31年5月」と書かれていた。

[ライター/伊達軍曹]

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