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第10回:「ポルシェ・パスポート」があったとしたら?

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第10回:「ポルシェ・パスポート」があったとしたら?

ドイツに注文した718ボクスターの納車を待つまでの数カ月間はレンタカーを利用していたことは前回に書いたが、その間にアメリカのポルシェでとても気になるサービスが始まっていた。

ポルシェ各車のサブスクリプション(定額乗り放題)サービス「ポルシェ・パスポート」である。

第9回:シェアするか、レンタルするか?

500ドル払って会員となり、毎月2000ドルを支払うと、718ボクスター、718ケイマン、マカン、カイエンなどに制限なく乗ることができる。さらに、3000ドルの「アクセレレイト」コースを選べば、そこに911カレラ、同カブリオレ、パナメーラなどが加わり、選択肢が広がる。すべての車種でSモデルも用意される。

「平日は718ボクスターに乗り、週末や休暇ではカイエンやマカンSで家族や仲間とスポーツやキャンプに出掛ける」

ポルシェ・パスポートを利用すれば、僕が理想とする乗り方ができる。これはうれしいサービスではないか。

申し込みが完了すると、スタッフがクルマを自宅にでもオフィスにでも納車してくれる。使用期間に制限はなく、望むだけ乗り続けることができる。

2000ドルは高そうに思えるが、登録諸費用、税金、保険、メインテナンス、ロードサイドアシスタンス、洗車などの維持費もすべて料金に含まれているからむしろ合理的だと考えることもできる。

申し込みも、スマートフォンを使ってアプリからアカウントを作成し、支払いもクレジットカードで済ますことが可能だから、いちいちディーラーに足を運ばなくても良いところが画期的だ。

僕は契約を含めて3度もディーラーに出向き、他にも車庫証明などの書類を作成して送る必要があった。クルマ1台買うにも、こんなにも手間と時間を費やされることを再認識させられたから、スマートフォンだけで済むポルシェ・パスポートがことさらに魅力的に思えて仕方がなかった。

ポルシェ・パスポートでは、クルマを“所有”するのではなく、“使用”することへの料金を支払うことになる。購入するわけではないから、乗っているクルマはいつまで経っても法律的には“自分のクルマ”となるわけではない。

「自分のモノにならなかったら、クルマに対する愛着なんて生まれて来ないだろう? アナタが『10年10万kmストーリー』で書き続けてきたことと矛盾するのではないか?」

そんな批判が聞こえてきそうだが、愛着は所有することだけに生じるわけではない。法律や制度を超越して、使用し続けることでも生まれてくると僕は信じている。

まぁ、百歩譲ったとして、日常的な移動のためのクルマにはサブスクリプションサービスを利用するから愛着が湧かなかったとしても、並行して趣味の対象や嗜好品としてのクルマを所有していれば、そちらは変わらず愛着を抱く対象になるはずだ。

例えば、ポルシェ・パスポートを利用しつつ、僕は持っていないけれども空冷の911や914でも持っていて、休日には自分で手入れしたり、峠をドライブしたり、サーキットやクラブイベントに集ったりできたら最高だろう。愛着が湧かないわけがない。

ポルシェ・パスポートは、まだジョージア州アトランタ限定のサービスで、結果が好ましければ全米規模に広げるらしい。日本でも展開してもらいたい。

同じようなサブスクリプションサービスはボルボもヨーロッパで始めている。毎月800ユーロの定額で新車のボルボが乗り放題。2年ごとにクルマを入れ替えることができる。

さらに、ボルボがまったく新しく生み出したプレミアムEV(&PHEV)専業ブランドの「ポールスター」などは、すべてのクルマをサブスクリプションでのみ提供すると発表した。

上海での発表イベントを取材した時に、ボルボ出身の同社COOのジョナサン・グッドマン氏は次のように語っていた。

「最近のユーザーはサービスに対して利便性と透明性を求める傾向が強くなったから、この方式が有効です」

グッドマン氏は、そういう傾向は何度もディーラーに足を運んだり、値引き交渉を嫌う若いユーザーに顕著だと補足していたが、僕もそういう部類なので彼らの狙いが良くわかった。

「ポールスター1」という第1号車はボディとシャシーにカーボンファイバー素材を多用し、モーターで4輪を駆動するプラグインハイブリッド車だ。大量生産に不向きだから生産台数は年間500台に限定され、車両価格は13~15万ユーロと高価になる。

そうした生産台数を少数に限定したクルマはマニアやコレクターたちの収集癖をくすぐる格好の対象となるはずで、購入されて囲い込まれるのが従来のパターンだった。だが、ポールスターはそこに風穴を開けて新しい販売方法とサービスを定着させようと挑んでいる。その意気込みに拍手を送りたくなった。

驚くのはまだ早くて、ポールスター1の後には、より多くをボルボ各車と共用化して大量生産される現実的設計のポールスター2とポールスター3の登場もすぐに控えていて、それらもサブスクリプションサービスによる提供しか考えていないとグッドマン氏は語っていた。

その段階での詳細は明らかにされなかったが、サブスクリプションサービスはアプリで完結するので、既存のディーラーネットワークなどを活用しながら、導入には意外と手間は掛からないのかもしれない。

そう考えると、クルマのサブスクリプションサービスは意外と早く普及するのではないか。日本ではすでに中古車販売業者などがサブスクリプションサービスを始めているが、ポルシェやボルボ、ポールスターなど自動車メーカー自らが始めたのは、やはりクルマも“所有”から“使用”へと利用形態が大きく変化していくことを象徴している。

音楽や書籍、雑誌やアパレル、アクセサリーなどのサブスクリプションサービスは日本でも着実に普及し始めてきている。現に、僕は1000枚以上を保有していた音楽CDをすべて処分して、現在は月額980円のSpotifyでしか聴かなくなった。気になったアーティストの作品をすぐに確かめられるし、好みのいくつかの傾向に従ってSpotifyが勧めてくるアーティストや作品などにとても満足している。

自宅ではPCで、スマートフォンでは外出先や運転中にCarPlay経由で使っているから、デバイスが変わってもアルバムの途中から聴き続けるような芸当だってできて、とても便利だ。

雑誌も個別に買うよりは、まずは月額400円払っている「dマガジン」で読むことが多くなった。電子書籍もときどき利用している。服やアクセサリーこそまだ試したことはないけれども、何かのキッッカケで始めてもおかしくはない。

そうした消費財の“所有”から“使用”へという大きな変化の中にありつつも、僕は自分の718ボクスターを所有することになるのだが、ポルシェのサブスクリプションサービスにいたく心を奪われてしまっていたのである。

金子浩久 モータリングライター
1961年、東京生まれ。大学卒業後、出版社で書籍と雑誌の編集者を3年半務め、独立。20~30代には、F1記者として世界を駆け巡る。主な著書に、『ユーラシア大陸1万5000キロ 練馬ナンバーで目指した西の果て』『10年10万キロストーリー』 (1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。

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