■バブル全盛、狂乱の時代が到来
8代目クラウンは、輸入車が勢力を増すなかで日本車としての信頼性を売りにしていたと言われています。
トヨタ クラウン史上最大の失敗作? 4代目クラウンは本当に駄作だったのか
8代目クラウンが登場した1987年は、いわゆるバブル時代の全盛期でした。株価や地価はとどまることを知らず高騰し、経済的余裕を持った日本企業が海外へと進出しました。輸入車の販売台数が増加し、BMWやメルセデス・ベンツが「六本木のカローラ」などと呼ばれる時代でした。当時のトヨタを代表するクルマとしては、“ハイソカー”と呼ばれた2ドアクーペのソアラが有名ですが、もちろんクラウンも過去にないほどの売れ行きを見せました。
1969年から2001年までの33年もの間、日本における新車販売台数トップの座に君臨してきたのは、トヨタのカローラです。しかし、8代目クラウンは、月間販売台数において一時的とはいえカローラを上回る売れ行きを見せました。
年間販売台数においても、1988年から1990年までの3年間にわたって、カローラ、マークIIに続く3位を記録しています。このことからも、バブル時代の日本がいかに裕福であったかがわかります。
■輸入車国産高級車としての自負
輸入車が勢力を増している時代でしたが、長きにわたって構築されたディーラーネットワークを持つトヨタは、地方の販売店が少ない輸入車勢に対して大きなアドバンテージを持っていました。
地方の富裕層にとって、高級車の現実的な選択肢はクラウンとほかの一部の国産車を除いて、極端に少なかった時代でした。いまでも、地方に住む一定以上の年齢の方にとってクラウンこそが最高級車であるというイメージが定着しているのはこうした背景があります。
しかし、都市部では事情が異なります。時代はバブル、欧米の高級車がどんどん輸入され、BMWやメルセデス・ベンツといったプレミアムブランドばかりでなく、ロールスロイスやベントレー、フェラーリといった超高級車ブランドまでもが日本を最重要市場としてとらえるようになっていました。舶来品嗜好の強い日本人にとって、輸入車はその存在自体が憧れの存在でした。クラウンのライバルはそうした日本人の海外への憧れそのものだったと言えるかもしれません。
もちろん、クラウンも「いつかはクラウン」というようにあこがれの対象ではありましたが、8代目クラウンではより地に足の着いた開発がなされました。8代目クラウンのカタログには「あらゆる状況で、確実に発揮される高性能」という一文があります。それ以外にも「信頼」や「余裕」という言葉も散見されます。
いまでこそ輸入車の品質も向上していますが、当時の輸入車は日本車に比べて品質上の課題があったのも事実です。また、故障をした際のアフターサービスも当然日本車の方に地の利があります。カタログでは遠回しの表現にとどまっていますが、販売の現場ではライバルである輸入車に対して国産車としての信頼性を売りにしていたことは明らかです。
さまざまな快適装備が採用された8代目クラウンですが、ジャパンクオリティの品質が土台にあったことは言うまでもなく、そしてそれこそが国産高級車としての自負だったのでしょう。
■格上のセルシオが登場
8代目クラウンはクラウン史上最も多い販売台数を記録したモデルである一方で、時代の流れに飲み込まれた不運なモデルであったともいえます。センチュリーは別格として、長らく国産最高級車としての座を得ていたクラウンに対し、クラウンより格上のセルシオが、トヨタ自身から発売されたのです。
セルシオ(米国での販売名はレクサスLS)は、元々米国市場用の高級車として開発されたもので、米国では新しく立ち上げられた高級車ブランドのレクサスのフラッグシップモデル(最上級車種)として展開されていたものです。コストパフォーマンスに優れた大衆車メーカーとして、すでにアメリカで一定のシェアを占めていたトヨタですが、その実績とクオリティをもって高級車市場に参入したのです。
当初否定的な意見も多かったところですが、徹底した市場調査に基づいて開発されたセルシオは、人気を博しました。
当初は日本での販売は予定されていなかったセルシオですが、好景気真っ只中の日本において、クラウン以上の高級車を求める富裕層が増えたこともあり、1989年10月より国内でも販売が開始されました。結果としてトヨタのビジネスに大きく貢献することになりますが、クラウンにとっては不運だったと言えるでしょう。
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