スバルの“変わらない象徴”といえば、50年以上前に実用化し、現在、世界でも他にはポルシェしか量産していない水平対向エンジンだ。2018年7月19日発売の新型フォレスターには、同エンジンにモーターを組み合わせた「e-BOXER」も搭載された。その「独自性」は失われていないが、一方で今や燃費性能では他社に遅れを取り、技術的にそれほど「新しさ」が見られなくなっているという現状を抱える。
他メーカーが多数派の直列・V型エンジンで、さまざまな技術開発を行っていることを踏まえても、水平対向エンジンが未来永劫生き残れるかは、今後スバルがこのエンジンをいかに進化させられるかに懸かっているといっても過言ではない。
変わらないスバルの象徴は、どう変わるべきなのか? これからのスバル車を左右する問いのヒントは、水平対向エンジンの“原点”にあるかもしれない。
文:鈴木直也/写真:編集部
スペース効率が美点だった“スバルの象徴”の原点
スバル 1000(1969年発売)。全長3930×全幅1480mmという小さなボディのなかで最大限スペース効率を上げるため、水平対向エンジンが採用された
このところ業績絶好調のスバル。そのブランド価値を支える大きな柱が、水平対向エンジンとシンメトリカルAWDであることは言うまでもない。
水平対向エンジンの起源は、みなさんご存じのとおり1966年デビューのスバル1000だ。伝説のエンジニア百瀬晋六さんは、スバル360の後継として縦置き水平対向エンジンとFFの駆動方式を選択した。
まだAWDなど影も形もなかったこの時代、なぜ百瀬晋六さんが水平対向を採用したのかといえば、主にパッケージング上の合理性からだ。
この当時、FF車のエンジンレイアウトは各社まだ模索中といった段階で、トランスミッションをエンジン下に抱えた横置き(ミニ)、エンジンをオーバハングに搭載する縦置き(シトロエン 2CV)、エンジンをフロントミドシップに搭載する縦置き(シトロエン DS)の三派があった。
それぞれ一長一短がある中、百瀬晋六さんが選んだのがエンジンをオーバーハングに搭載する縦置き。このレイアウトを成立させるために必須のエンジンとして、水平対向4気筒が作られたわけだ。
結果的に、スバル1000は素晴らしくスペースユーティリティの高い車に仕上がった。
フロアには排気管を通すための小さなトンネルしかないので、外寸から想像できないほど室内が広々としているし、スペアタイヤをボンネット内に収納したおかげでトランクスペースも広大。
AWD誕生以前のスバルは、コンパクトな水平対向エンジンがもたらす優れたスペースユーティリティが最大の魅力だったのである。
レガシィ誕生から約30年…進化のペースは遅く
転機となった1989年に初代レガシィが販売されて以後、水平対向エンジンは正常進化を続けてきたが、他社と比べると目新しいコンセプトが見られなくなってきていることも否めない
時は流れてレガシィの時代。スバルの水平対向エンジンはパワー志向に大きく舵を切る。スバル1000から発展してきたOHV 2バルブのエンジン(EA系)は、DOHC 4バルブ+ターボ化されたEJ系にフルチェンジ。最高出力は一気に2倍以上に引き上げられた。
この初代レガシィでデビューした新エンジンとシンメトリカルAWDが、その後のスバル快進撃のきっかけとなる。
パワフルな全天候ツアラーとして、レガシィ・ツーリングワゴンの人気が沸騰。現在まで続くスバルのブランドイメージが確立する。
百瀬晋六さんの蒔いた種は、レガシィの登場によってようやく花開いたわけである。
しかし、初代レガシィ登場から四半世紀。気になるのは「このまま水平対向エンジンを作り続けられるのか?」という問題だ。
EJ型で大きく飛躍して以降のスバル水平対向は、基本コンセプトを守った正常進化に終始している。
直近では2012年に新エンジン(FA型)が登場して新世代に移行。熱効率向上のためのロングストローク化、軽量コンパクト化、ダウンサイズターボコンセプトの導入など、地道な改良が実施された。
とはいえ、率直に言ってライバルに比べるとエンジン進化のペースは遅い。例えば、燃費性能は改良ごとに地道に向上しているものの、相対的に見るといつもクラス平均レベル。
初代レガシィ当時とは比較にならないほどユーザーの燃費に対する関心度は高まっているし、各国の燃費規制も厳しくなる一方。
水平対向はもともと燃費を狙うには不向きなレイアウトだけに、そろそろ抜本的な改良が必要と言わざるを得ない。
パフォーマンス面でもしかり。WRX STI系ではまだ古いEJ型が頑張っていて、モータースポーツ活動もEJが主役。本来なら世代交代すべきFA20ターボの位置づけが微妙となっている。
また、1.6Lエンジン(FB型)はダウンサイズターボとしては性格が曖昧だし、NAの方は廉価版とするにはコストが嵩みすぎる。
水平対向エンジンは「高性能型と燃費志向を分けるべき」
2L水平対向4気筒ターボエンジン搭載のポルシェ 718ボクスター。最高出力は300ps、最大トルクは38.7kgmを発揮
というわけで、今こそ原点に立ち返ってもう一度水平対向エンジンの魅力を再定義する時ではないだろうか? という話題になるのだが、技術的な実現性も踏まえ、以下のような提案をしてみたい。
まず必要なのは、高性能エンジンと燃費志向エンジンを切り分けること。スバルの生産規模では、エンジンは基本一種類しか作れないのに「パフォーマンスも! 燃費も!」と欲張るから中途半端になる。
とはいっても、STIに象徴される高性能4WDスポーツは、スバルのブランドにとって不可欠。古いEJに代わって、ここを際立たせるエンジンをどうするか……。
無茶を承知で言うのだが、ここはスポーツエンジンの自力開発を諦めてOEM調達としたらどうだろう?
幸い、同じ水平対向仲間のポルシェが、718シリーズ用に2Lと2.5Lの水平対向4気筒ターボを生産している。
いずれにせよ高性能で高価なSTIに大した数は望めないのだから、STI系のエンジンはポルシェのOEMでゆく。とうぜん、ミッションはダイレクト感のあるDCTとの組み合わせ。こちらもポルシェと同じくZF製を持ってくる。
もちろん、ポルシェがOEMを許すかどうかはわからないし、可能だったとしても価格がボクスターなみに高くなるのは必至だが、STI限定モデルの例をみれば心配無用。700万円オーバーのS208が限定450台を即完売するくらい、マニアックなスバルファンのパワーは強力だ。
“小型でシンプル”原点回帰の小排気量ターボに可能性
スバル1000に搭載されていた977cc、水平対向4気筒OHVエンジン(左)と現在WRX S4などに搭載される1998cc、水平対向4気筒DOHCターボエンジン(右)。排気量の差はあれど、そのサイズ差は明確だ
いっぽう、本命の燃費志向エンジンはゼロベースで徹底的に燃費向上技術にトライする。
例えば、どうせダウンサイズターボ化するなら6000回転も回れば十分。だったらかさばるDOHCなんかやめて、動弁系はOHVでもいい。
カム一本のOHVでは可変バルタイが使えないというのなら、フィアットが使っている油圧バルブ制御の“マルチエア”など、いまなら便利な補機がいくらでも使える。気筒あたり4バルブは必須としても、カムを4本も持つ必要はぜんぜんないと思う。
ついでに言えば、エンジン下でとぐろを巻く排気管が水平対向エンジンがかさばる元凶なんだから、いっそこれを上方排気とする。
最近の欧州プレミアムのV8ターボはすべてVバンク間にターボを配置する“ホットインサイド”なレイアウト。あれに比べたら水平対向エンジンの上にターボを配置することくらい朝飯前だ。
初期のEA系OHVのコンパクトさを見ると、現在のスバル水平対抗はあまりにもガタイが大きくなりすぎている。もう一度パッケージングに奉仕するエンジンレイアウトを考えるべきだと思う。
このような形で標準エンジンは1.4~2Lの直噴ダウンサイズターボに統一。これで燃費志向の150ps級からそこそこパワフルな250ps級までをカバー。
さらに、48Vマイルドハイブリッドなどの電動化メカと組み合わせて、来るべきEV時代の橋渡しとする。
燃費のベンチマークはVWのTSI。同排気量のゴルフと同等の燃費性能が実現できれば、スバル水平対向の評価は大いに高まると思うのだがいかがだろう。
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