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クルマを開発する"志"とは? 異能の開発者が選ぶ真に"志"を感じるクルマ

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クルマを開発する"志"とは? 異能の開発者が選ぶ真に"志"を感じるクルマ

 最高の走りを追求したスカイライン、環境技術の精神から生まれたシビックCVCC、革新的ハイブリッドで誕生したプリウスなど、かつては開発者の"志"を感じる日本車があったが、今の日本車は?

 今回は、現役の自動車開発者であり、過去にはGT-RやV35スカイランなどの開発に携わった水野和敏氏に自動車開発における「志とは何か?」を語っていただいた。

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 ジャーナリストが選ぶ"志"を感じるクルマはこちら。

文:水野和敏/写真:ベストカー編集部
ベストカー2018年7月26日号

■「クルマはお客様のための商品です」

 今回、クルマ開発における志とは何か? とベストカーに聞かれたのですが、それは"ない"と答えました。

 というのは、私は常にひとつのプロジェクトが終わって新しいクルマを創るたびに、頭のなかをゼロにして、すべて白紙の状態からスタートするからです。

 クルマというのは「時間」「場所」「空間」を自由にアレンジできるお客様のための商品です。

 では、「お客様の欲しいと思う心を創り出すために、この時間(動性能)と場所(シーン&デザイン)、そして空間(車両パッケージ)を、どのように演出しながらクルマという商品を創り出すか?」そこから次の仕事が始まります。

 しかし、今のほとんどのエンジニアはパソコンのなかのベンチマークを使い「モノ同士の比較と現在の評価要素」のなかで、今ある"モノ"としてのクルマの改良と変更でよい商品を作ろうとしています。

 この発想が、エンジニア個人や会社という枠のなかだけでの思い込みになってしまっているのです。これまでの自分の実績をベースに先に進もうとしているわけです。

 しかし、私は商品というのはお客様のために発想し、創り出すものと思っていますので、作り直すのではなく、「いいクルマは作るな」、「お客様が欲しいと思う心を創り出せ(新しいマーケットを創る)」と、いつも開発メンバーに言い続けています。

お客様に自分の価値観を押し付けるような開発はダメだという水野氏。ベストカーでの取材の際も、乗り降りを繰り返し乗降性のよさなども徹底的にチェックする

 なので、私は自動車開発の仕事をやっているかぎりは「自分が好きなクルマ(という気持ち)」は持ちません。

 「自分の好きなクルマ」という概念を持った瞬間、そのような個人的嗜好のフィルターをかけた目で、知らず知らずのうちにお客様に押し付けるようなクルマを開発してしまうからです。

 頭も心もゼロにリセットして、お客様の感動や驚きを想像して次のクルマの構想を考えるから、スーパーカーでもSUVでもセダンでも、どんなクルマでも常に今までになかった新しい開発をすることができるのです。

 「電気自動車を作れ」と言われれば、お客様にとってモーターのクルマというのはどんなメリットがあるのか? というところからスタートします。

 今ある電気自動車のことなど考えませんし、今よりもいい電気自動車を作ろうという考えもまったくありません。いままでとまったく違う電気自動車を創ります。

■ユーザーよりもメーカーの都合で作っている日本車

 これまでの私のクルマづくりもすべてそうです。

 例えば、2003年にアメリカで発売したインフィニティFXはフェアレディZのプラットフォームを採用したのですが、当時のSUVはオフロード車のシャシーを使う考え方が常識で、スポーツカーをベースに作るなどの発想はありませんでした。

 ゼロから考えたスポーツカーのプラットフォームを使う手法で、背の高いSUVならではのグニャグニャした乗り心地の悪さを解決してやろう! と開発したのです。

 だから、この初代FXはアメリカでとても売れました。でも私がやらなくなった次期モデルはベンチマークと市場調査で、他社と比較によるモノの作りへと変えてしまいました。

 Z33フェアレディでは、先代Z32で採用した3Lターボをやめて、3.5LV6のNAエンジンを搭載しました。これは、このクラスのスポーツカーのターゲットカスタマーが女性だからです。

 そして女性があこがれるスポーツカーは男性も欲しいクルマなのです。そのため、チーフデザイナーもアメリカ人女性でした。でも、次のZ34型ではセオリーどおりの"男の走り"のためのスポーツカーになってしまいましたね。

  GT-Rではスーパーカーのデザインを捨てました。スーパーカーは空力が悪いのです。ベンツやBMWのセダンのCD値が0.23とかの時代に、フェラーリやポルシェなどは0.3を切れませんし、車体を浮かせるリフトも大きいのです。

水野氏がモータースポーツを担当していた時代から旧知の仲の鈴木利男氏(右)も開発に参加。お客様のためには一切妥協なしで作ったのがGT-Rだ

 だから、本当に実力で空力性能のいい形を求めました。

 それと、スーパーカーを買えるお金持ちのユーザーがもう一台追加して持つには世間体などを考えると普通のクーペスタイルに近いほうが買いやすいためです。

 しかもGT-Rは実用性も高いのでほとんどの場合、会社名義で登録でき、経費も税務申告ができるというメリットもあります。

 お金を持っていても買えない事情のあるお客様がいますが、そんなお客様にも買える理由を作ってあげました。ゼロから考えたから、別の世界が見えるようになるわけです。

 では最近の日本車は、お客様が本当に欲しいという心を創り出せるクルマになっているのか? ユーザーの憧れるライフスタイルを理解しているのか? というと、それは凄く疑問です。

ベストカーの連載「水野和敏が斬る」で高評価だったCX-8(90点はなかなか出る数字ではない)。ユーザーを第一にしたクルマ作りをしているかは手に取るようにわかるという

 残念ながら、CADパソコンと設計基準や規定シミュレーションの結果などに依存し、パソコンのなかのベンチマークデータや市場リサーチ結果を頼りに「今よりいい、と会議で合意されたモノの作り替え」だけの開発で生まれたようなクルマばかりではないかと錯覚してしまう……。

 ユーザーよりもメーカーの都合でしか作ってないと感じてしまう日本車の多さに驚きます。

 しかし、そんな今のクルマのなかにあって、あえてFFにしたシビックタイプRや3列シートのマツダCX-8などは反骨心も持って作られたと思わせる味がある一台です。

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