■日本の道を走っても、乗り心地のいいクルマを
1955年に初代が発売されたトヨタ・クラウンは、現在販売されているモデルで14代目、そして6月26日に発売されたモデルが15代目となります。60年以上にわたってその名が受け継がれている名車のはじまりはどんなクルマだったのでしょうか。
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初代クラウンの開発がはじまった1950年代前半は、高度経済成長時代の入り口に差し掛かり、さまざまな産業が急成長をし、自動車産業はその筆頭格でした。いまでこそ日本は世界で最も道路環境が整備されている国のひとつですが、当時の道路舗装率はわずか1%程度であり、とても快適に走れるような道ではありませんでした。
クルマの質も、欧米の自動車メーカーの方が優れており、日産はイギリスのオースチンと日野はフランスのルノーといったように、国産自動車メーカーは海外の自動車メーカーと提携し、日本で海外の提携先が開発したクルマの生産を行いました。要するに、技術力の弱い当時の国産自動車メーカーは、海外の自動車メーカーから設計図をもらって性能の良いクルマの生産をしたのです。
しかし、トヨタは、実質的な創業者である二代目社長の豊田喜一郎氏が掲げた「日本人の手で国産車を作る」という夢を追うべく、自分たちの力で開発を続けました。
そして1955年1月、「日本の道路を走っても、乗り心地のいいクルマを開発する」というコンセプトで開発された初代クラウンが発売されます。開発をリードしたのは、豊田喜一郎氏に憧れてトヨタへと転職した中村健也氏でした。
■徹底した市場調査と新技術の採用
初代クラウンは、徹底した市場調査の結果、いくつかの新技術が採用されています。その1つは、前輪独立懸架式(ダブルウィッシュボーン式)サスペンションという、現在でも高級車に用いられるサスペンションです。
これにより悪路での上下の揺れが少なくなり、乗り心地が大きく向上しました。また「トヨグライド」と名付けられた半自動のオートマチック・トランスミッションも日本で初めて採用されました。いまでこそオートマチック・トランスミッションは当たり前ですが、当時はまだマニュアル・トランスミッションが主流であり、しかも、ダブルクラッチといって、一旦ニュートラルにシフトを入れた上でエンジンとギアの回転数を丁寧に合わせてからシフトチェンジ行う必要があるなど、なかなか大変なものでした。
トヨグライドは、現在のマニュアル・トランスミッションのクルマと同様、クラッチを踏んで直接シフトチェンジをすることを可能にしました。まだまだ、世界では弱小メーカーだったトヨタが生き残るためには、ライバルたちとの絶対的な差別化が必要であり、それが新技術を採用するということだったのです。
また、初代クラウンには観音開きのドアという見た目にもわかりやすい特徴があります。現在では、ロールスロイスの各モデルなどに採用されている観音開きのドアですが、これは後部座席が乗り降りしやすいという大きなメリットがあります。観音開きの採用と、当時の公務員初任給の100倍以上である101万4860円という販売価格からもわかるように、初代クラウンはタクシーなどの業務用を強く意識したモデルでもありました。
■日本での成功と、アメリカでの惨敗
1956年、「ロンドン・東京・5万キロ・ドライブ」というイベントが開催され、見事初代クラウンは完走を果たしました。これによって初代クラウンは飛ぶように売れ、すぐにトヨタを代表するクルマとなりました。
日本でも高級車が作れるという自信を得たトヨタは、初代クラウンを自動車の本場であるアメリカへ輸出しようとしました。しかし、最高時速100キロを誇った初代クラウンも、アメリカでは高速道路にも入れないパワー不足のクルマというレッテルを貼られ、散々な評判でした。
初代クラウンは、日本の自動車メーカーも高級車を作れるという自信を与えたクルマである一方で、アメリカとの差を知らしめるクルマともなったのでした。
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