日産といえばスカイラインをはじめ、シーマやセドリック/グロリア、ローレル、さらにはマーチやブルーバードなど多くの名車を輩出してきたメーカーである。
しかしここ数年、日本国内での日産の立ち位置は極めて微妙で、かつてのように日産のブランドにときめく人は減ってきてしまったように思える。
たとえばフラッグシップであるシーマは北米でもその優位性はなきに等しく、ライバルであるレクサスにはかなりのリードを許してしまった。GT-Rもその存在感は強いものの10年選手。
今後の状況も油断ならない。このまま日本における日産は弱まってしまうのか、そしてあの頃の楽しいクルマを生み出す日産はどうしたら甦るのか。迫りました。
文:鈴木直也/写真:ベストカー編集部
■日本は決して見捨てるべき市場ではないはずだ
三菱を吸収したことで、トヨタ・VWと並ぶ1000万台クラブ会員となったルノー・日産アライアンス。日産の今期連結決算をみても、売り上げ11.7兆円、経常利益8600億円と、まずは順調な数字を並べている。
また、100年に一度といわれる自動車業界の技術変革期においても、日産は電動化で世界最先端を走っているし、自動運転など次世代技術の開発・実用化でも先行している。
経営指標はもちろん、将来戦略においても、日産はしっかり手堅くやってる。そう評価するのが順当なところだろう。しかし、日本で暮らすいちクルマ好きの肌感覚からすると、日産がそんなに好調というイメージはない。
ブランドを牽引するフラッグシップたるべきGT-RやフェアレディZはともに10年選手だし、利益率の高いスポーツセダンやプレミアムセダンも、フーガ/スカイラインでは輸入車やレクサスに歯が立たない。
かつて社会現象まで起こしたシーマだが見る影もない。登場からもう6年。フラッグシップはどうなるのか
また、人気ジャンルとなったSUVではエクストレイルとジュークが主戦力だが、次つぎ登場するライバルの新車攻勢に防戦一方という印象。「数を売ってナンボ」のコンパクトカーや軽自動車部門でも、タイ生産のマーチと三菱OEMが主力では心もとないだろう。
要するに、日本で売れているのはノートe-POWERとセレナe-POWERのみ。「このままじゃ国内市場で日産はジリ貧なのでは?」。むしろ、そんな危機感すら覚えるのだ。
いまのルノー・日産・三菱アライアンスにとって、日本はグローバル市場の中の一地域にすぎない。日本のメーカーなんだから日本市場を特別扱いしろ、そんなワガママが通る時代じゃないのはわかっている。
しかし、中国2800万台、アメリカ1700万台、EU1500万台と対比するから見劣りするが、日本だって年間販売台数は約500万台ある。その市場規模はひとつの国としては世界第3位。無視するには惜しい魅力的なマーケットのはずだ。
北京ショーで披露されたシルフィ・ゼロエミッション。日産はEVに完全にシフトしている
いまでは信じられない話だが、約40年前、1976年度の日産の国内シェアは31%もあった。このころのトヨタのシェアが37.7%だったから、まだ王者トヨタの背中がかろうじて見えていたわけだ。
それがいまや日産のシェアは12%まで低下。登録車だけのランキングでいえばかろうじて2位を維持しているものの、軽も含むすべての乗用車で見ると、ホンダ、スズキ、ダイハツに先行を許して5位まで後退している。かつての栄光の日産からすると、信じられない凋落ぶりなのだ。
■ルノーができることを日産もやればいい
何が言いたいのかといえば、「儲けやすいグローバル市場にばかり目を向けて、国内市場を死守する努力が足りなかったのでは?」ということ。何のことはない、日産が落とした分をその他のメーカーが蚕食した結果が、今日の国内市場のシェア比率。
かつての栄光を取り戻すガッツはないのか? そこにもどかしさを感じるのだ。
国内市場における日産のプレゼンス回復は容易なことじゃないが、誰もが指摘するのは「フラッグシップモデル不在はさすがにマズイのでは?」という問題だ。
GT-RとフェアレディZのモデルチェンジ計画が見えてこない中で、仮にこの2車がそのままフェイドアウトしてしまったら、日産ブランドを代表するアイコンはどうなるのだろう?
たとえば、北米市場では400psを誇る3LV6ツインターボ(VR30DETT)搭載のスカイライン(インフィニティQ50)が販売されている。
個人的にはこのエンジンを活かした時期スポーツモデルを開発する計画くらいあってもしかるべきだと思うが、いまの日産はコンセプトカーでも電動車両が優先課題。
北米にはセントラ・ニスモという面白いセダンがある。1.6Lターボを6MTで駆る。2万6000ドル(約280万円)ほどだが、このようなクルマが日本市場にはない
つい先日の北京ショーでも、インフィンティQインスピレーションやシルフィ・ゼロエミッションなどEVが主役だった。
この電動化戦略、グローバルマーケティングとしては順当なのだろうが、はたして日本のユーザーに響くかどうか……。純EVのリーフやe-POWERシリーズには光が当たるが、それ以外の日産車がますます霞んでしまうように思えてならない。
ひるがえって親会社のルノーを見ると、メガーヌやクリオ(=ルーテシア)のルノースポール仕様が相変わらず元気だし、待望のアルピーヌA110も復活している。くわえて、モータースポーツではF1が上り調子。
地元ヨーロッパのクルマ好きに向けてルノーブランドを際立たせるための活動は、とても日産の及ぶところではない。経営の主導権があるのをいいことに、ルノーは美味しいところを独り占めしてないか?
メガーヌ・RSなど非常におもしろいクルマを作るルノー。F1を主軸にしつつも「手が届く」スポーツイメージを展開するのが上手い
そんな疑念すら湧いてくるほど、なんだか楽しくクルマ造りをエンジョイしているように見える。
ここ最近、フランス政府の経営への介入問題に端を発して、ルノーと日産の資本関係見直しが経営課題として上がってきているが、それが日産を元気にする効果があるのなら、ぜひとも前進させて欲しい。
日産に足りないのは、ルノーの連中がやってるような「自分が欲しくなるようなクルマを造る」というエンジョイ精神。
それは、日産の経営の独立性を高めないと、なかなか生まれてこないことのように思えるんだよねぇ。
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