旅行や仕事など、車のなかで疲れにくさを大きく左右するシート。車の椅子は腰痛や肩こりとも密接な関係がある。そこで、“最速の座り仕事”であるレーシングドライバーの脇阪寿一氏が【前編】に続いて、疲れにくい椅子の見分け方を解説。疲れにくいシートには3つのポイントがあるという。
Report:脇阪寿一
Photo:平野学、編集部
世界ではヴィッツよりヤリスが有名!? 車名に込められた深い想い
取材協力:メガウェブ
前回、疲れにくいシートの条件として「滑りにくいこと」、「正しい運転姿勢がとれること」、「骨盤が反らないこと」などをあげました。
今回は、様々なカテゴリーにおけるシートの作りの違いを、同じ条件で見るため、ほぼすべてのトヨタ車が揃うメガウェブでシートをチェックしました。
あくまで実際に走行した状態ではなく、シートそのものの座った印象に焦点を当てていますが、シートの疲れにくさを解説するうえで重要なポイントが、この6台に詰まっています。
クラウン&マークXにみるシートのホールド性
試乗車はクラウンロイヤルの本革シート仕様。こちらはオプションのレザーシートパッケージに装備される
まず、ともにセダンのクラウンとマークXのシートを見ていきましょう。
両車ともに、シートの座面と骨盤の角度、そして背中の関係は、共通の哲学で設計されていて、ともに骨盤の角度が反ることはない印象です。
印象が異なるのはシート座面の硬さ。マークXのほうが硬く、「張り」をもたせることで、ヘタりをカバーしている印象です。
特にサイドサポートの部分は、その印象が強く、これによってホールド性を確保し、身体が横方向に動くのを抑える意図があるように感じます。
立体的なサイドサポートを持つクラウンのシート。こうした形状にやシートの硬さも疲れにくさに影響を与える
【前編】でも書いたとおり、身体を上手に支えることは、疲れにくいシートの条件の1つ。
その点、クラウンのシートはより柔らかいですが、サイドサポートを押してみても完全には潰れず、低反発で“柔らかいけれど芯がある”イメージ。
マークXもクラウンも、充分なホールド性を確保していますが、クラウンは柔らかさとホールド性、耐久性という相反する要素を、より上手く両立している印象です。
シートの接地面積を上手に稼ぎ、「点」ではなく「面」で身体を支えているイメージです。これは疲れにくさにも良い影響をもたらす構造だと思います。
ヴェルファイアに見る前後席の違い
エグゼクティブラウンジの後席。シートは2人掛けで大柄なキャプテンシートを採用。足もとにはオットマンも付く
さて、続いては最近人気の上級ミニバン、ヴェルファイアです。通常グレードの運転席に座った印象はマークXに近いですが、シートの芯はこちらのほうがしっかりとしています。
ただし、高級グレードの「エグゼクティブラウンジ」は別物。他グレードとはシート骨格が違うという話ですが、面白いのは後席と前席の座面の硬さの違い。後席のほうが柔らかめの作りになっています。
“柔らかいだけ”ではダメですが、エグゼクティブラウンジの後席は、クラウン同様柔らかさの奥に芯がある作り。これにより接地面積が広がり、疲れにくさにもつながります。明らかに前席とは印象が違い、「後席が主役」の設計思想ですね。
ただ、ひとつだけ気になるのは「足のやり場」。オットマンを使うと、人によっては足先が宙に浮く形になってしまう可能性があります。
これなら飛行機に付いているようなフットレストがあったほうが、足は疲れにくいように思います。
ランクルはクロカンならではの設計思想
ランクルZXの本革シート仕様。柔らかさとしなやかさを両立するとされるナッパレザーを採用。他グレードではモケットやトリコットのシートもある。
シートのサイドサポート形状はクラウン等と比べて薄くフラット。
一般的には身体が横にズレやすく、疲れやすい形状ですが、現行型はホールド性が上がり、僕が愛車で乗っていたランクル100時代より滑りにくいよう改良を施している印象です。
車をよく観察すると、この形状にしている理由がわかります。ランクルは車高が高いため、セダンよりも乗り降りしづらい。
それにも関わらず、シートのサイドサポートを厚くしたら、さらに乗り降りがしづらくなるので、敢えてフラットな形状としているのでしょう。それゆえ、ランクルは素材など他の部分で滑りやすさを抑えようとしている印象です。
また、ランクルには革と布シートの設定がありますが、疲れにくさでは、布シートのほうが滑りにくい印象のため有利かもしれません。
こうして、シートの疲れにくさを考えると、このシートがどのような意図をもって設計されているかも見えてくるのが面白いですね。
86はスポーツ車特有の「接地」を稼ぐ工夫も
86はスポーツドライビングも想定し、ホールド性を高めた形状。脇阪氏が指をさしている部分が盛り上がり、背中との接地性を向上させる設計がなされている
さて、打って変わってスポーツカーの86です。
シートは、骨盤からウエスト部分をホールドしてくれていて身体をきちんと支える設計になっています。
座った時の、座面と骨盤の角度、背中の関係は、ここまで紹介したトヨタ車と共通ですね。
ただ、シート背もたれの下部、この部分は「反り」が若干強い印象です。これは少しでもシートを背中に接地させようという意図なので、疲れにくさという観点では良い設計です。
86の場合は適度な反りですが、この形状をやりすぎると骨盤も反ってしまい、疲れやすくなるので、スポーツタイプの車に乗る際は、ぜひ実際に座って確かめてみてください。
シエンタのシートは「安価でも滑りにくい」
シエンタはシート表皮にファブリックを採用。この素材の“ある点”が優れていると脇阪氏は指摘
最後に良い意味で意外だったのはシエンタです。シートの疲れにくさは、コストを掛けられる高級車のほうが有利ですが、このシートの滑りにくさは値段を考えても特筆すべきポイント。
これはファブリックの生地によるところが大きいと思います。比較的安価な車でいえば、ヴィッツのファブリックシートより滑りにくい印象です。
車格から考えても、それほど高コストなシートは使っていないはず。そう考えると「形状」・「硬さ」・「表面素材」次第で、シートの疲れにくさは、大きく変わるということがよくわかりますね。
◆ ◆ ◆
純正シートは、さまざまな体格や使用シーンを想定しながら設計しなくてはならないのが難しいところ。本当は、体格や年齢などの状況に応じて、いくつかのシートを選択できるオプションがあっても良いと思います。
腰痛などに悩んでいる方は「形状」・「硬さ」・「表面素材」、この3大ポイントを確かめることが、自分に合ったシートを見つける助けになると思います。
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