動きは簡単に見えるがチルトに比べて機構が複雑
ステアリングホイールが上下するのがチルト機構、前後するのがテレスコピック機能です。どちらも運転姿勢=ドライビングポジションを最適化するために、ドライバーに対するステアリングホイールの位置を調整することができる機能です。一般的にチルト機構はほとんどのクルマに装備されていますが、テレスコピック機能は安価なスモールカーには装備されていないものが多いです。その理由は簡単で、結局はユニットのコストが大幅に違うからなんです。
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チルト機構を「ステアリングホイールが上下する」と書きましたが、正確にはステアリングの角度が変わるんですね。だから下にするとステアリングの上部が近くなり、上にするとステアリングの上部が遠くなります。このメカニズムは比較的簡単で、ステアリングロッドの中に支点をひとつ持たせれば済みます。
しかしテレスコピック機構では、そう簡単ではありません。ステアリングロッドを伸縮可能な、望遠鏡のような構造にする必要があります。望遠鏡をイメージすればわかるように、剛性がとても低くなってしまいますね。しかしステアリング系の剛性が低くなると操舵フィーリングが悪くなり、ドライビングする楽しみや正確性が失われてしまいます。
しかも、そのテレスコピックユニットの中にチルト機構を組み込むだけでなく、衝突時に外部からの力によってステアリングロッドが短くなり、ステアリングホイールが前方へ移動するような構造も必要なので、とても複雑なものになってしまいます。結果として、剛性が低くなり、重量が増し、コストが大幅に高くなるわけです。だから安価なスモールカーには使いたくないユニットになるのです。
そもそもステアリングの位置は、しっかりとドライビングポジションを決めた設計をすれば、それほど妙なものにはならないはずなんですね。日本の自動車メーカーの一部では、奇妙なくらいステアリングの位置が低く、とても適正なドライビングポジションになりません。その理由が「小柄な女性がターゲットなので……」というのですが、小柄な人はヒップポイントを上げる必要があり、逆にステアリングが低くて運転しにくくなると考えるのが普通の思考であるんですが……。
ともかく、そうした下手な設計に対して、ユーザーが誤魔化すためのメカニズムとして、テレスコピックの存在価値があるというケースも見られます。誤魔化し切れるものではないんですけどね。
現代のクルマでいえば、ホンダS2000はチルト機構もテレスコピック機構も持たないクルマでした。スポーツカーでドライバーのポジションがブレにくいので、ピンポイントで設定したわけです。そうした可変機構がないので、ステアリング剛性を高く、しかも軽量に仕上げることができました。開発途中では、チルト機構のないテレスコピック機能のみのメカニズムを検討したそうですが、最終的に採用されませんでした。
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