アルミボディは素材自体ではなく構造で強度を出す
クルマのボディは、大多数がスチールを使用していますね。産業革命は1700年代中盤から1800年代にかけて起こりましたが、その大きな推進役となったのは製鉄の工業化で、人類は鉄製品によって高度な文明を獲得したといっていいでしょう。そもそも鉄はそれ以前から硬くて便利な人間の道具として使われてきて、長い歴史を共に過ごしてきました。だから人間は鉄の加工技術を数多く習得しただけでなく、感触や硬さを身をもって知っているのだと思います。
それに対してアルミボディは圧倒的な少数派です。日本車でいえばホンダNSXくらいです。採用されない理由は生産コストが高くなることで、まず素材としてのアルミを生産するときに大量の電力を必要とします。そしてアルミボディを組み立てていくとき、さらにコストがかかります。それは工程に時間が必要だからなんですね。時間=コストですから、生産ラインがゆっくりだということは、それだけコストが高くなるというロジックになるのです。
なぜアルミボディの生産に時間がかかるのかといえば、それは素材の量が多いからです。スチールと比較して、アルミは約3分の1の強度しかありません。比重は約3分の1と軽量なのですが、同じ強度を出そうとすると3倍の量が必要になるので、結果として重さは同じに……。いや、現実は30%以上、アルミボディのほうが軽量になると言われていますね。つまりスチールの約2倍の量で同じ強度・剛性を出せているわけです。どうしてでしょうか?
スチールとアルミでは、同じ金属だとは言っても、特性が全然違うんですね。スチールのボディでは棒や薄板を組み合わせるので、素材の強度がとても重要になります。それらは基本的に溶接によって瞬間的に組み立てられていきます。スチールは通電しやすい素材なので、溶接に向いています。しかしアルミの場合は複雑な形状のパーツが作りやすいという優位性があります。
例えばドアを開けたときに、ボディ側の足もとにある棒状のパーツはサイドシルといいますが、スチールで作ると何枚かのスチールパネルを組み合わせて作ります。溶接するには溶接シロ、接着剤を使うなら接着シロが必要になり、その分は余計な重量にもなりますね。しかしアルミであれば、一発で作ることができるのです。複雑な形状が可能ということは、余計な贅肉をカットすることができるんですね。
クルマに乗り込むと足もとにも違いがあります。スチールボディで棒と薄板の組み合わせなので、角がキチッと出てます。しかしアルミボディでは角を丸く、お風呂のバスタブのような形状にすることできます。当然、角が丸いほうが強度・剛性は高くなります。さらに付け加えると角には負荷が集中しやすいので補強する必要があります。
シンプルにいえば、スチールボディはスチール自体(素材)で強度を出しますが、アルミボディは構造で強度を出すんですね。ここでやっと今回のテーマに戻るわけですが、アルミボディは確かにヤレにくいと感じます。旧型NSXはホンダのリフレッシュプランなどで足まわりを一新すると、まるで新車かのように復活します。ボディのヤレが小さいからなのでしょう。スチールのボディでは、ヤレたクルマはまずボディの補強を先にやっておく必要があります。
金属の素材の強度に頼るとヤレが出やすいんですね。溶接点も振動で弱くなってしまう可能性もありますし、金属そのものが薄ければそこが疲労することもあります。スチールの場合は温度変化の影響もあることでしょう。しかし構造は時間が経っても変わりませんね。アルミボディは溶接にしてもスチールボディのように小さいポイントは無理で、電圧と圧着力を高くしてじっくりと大きなポイントにする必要があります。そのあたりにも、ヤレが少ない要因があるような気がします。
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