ファッションとクルマ、異色のコラボ
1980 90年代を彩る名車たちの姿を過去の記憶から思い起こす時、その風景のなかに、ダイハツ「ミラ・パルコ」の姿が一緒に浮かんできます。当時、ファミレスやカラオケなど、若者が集まる駐車場には必ずと言っていいほど、「ミラ・パルコ」の姿がありました。軽自動車のなかでも特別感があり、しかも女子っぽいということで、いわゆる「クルマ好き男子の彼女御用達車」だったのでしょう。「スープラ」や「シルビア」と並ぶと、カクカクちんまりとしたフォルムがますますかわいく見えたものです。
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初代「ミラ」は、1980(昭和55)年にデビュー。当初から女性向けをうたう商品コンセプトと販売戦略でしたが、1985(昭和60)年2月、さらに女性ユーザーにターゲットを絞り込み、セゾン・グループ(当時)のファッション・ビル「パルコ」とコラボレートして生まれたのが初代「ミラ」をベースとした特別仕様車、最初の「ミラ・パルコ」です。自動車メーカーとファッション・ビジネスが本格的にタイアップし、全国的なキャンペーンまで行うというのは、当時の資料によると、日本初のことだったといいます。
この「ミラ・パルコ」、ダイハツのショールームだけでなく、全国11ヵ所のパルコでも実車を展示、販売したことで、話題になりました。「洋服買いに行くついでに、クルマも買っちゃう?」みたいな、バブルの走りのフワフワした空気感満載な企画です。本当にそこでクルマを買うのかは別として、「パルコに来るのは電車で2時間かけてバーゲンの時だけ」というような地方女子にとっては、グッとくるアピール方法でした。ちなみに、よく「やっぱり、●●●(某ファッション・ビル)よりパルコの方が店員かわいいよね」とか言っていましたが、あれも相当な思い込みですね、いま考えると。そのくらい、「パルコ」の名には威力がありました。
「どうせ買うならワンランク上」
さらに、発売を記念して、当時人気が高かったシンガーソングライターのEPOさんによる「ミラ・パルコS EPOハーモニー」と銘打ったコンサートを全国14ヵ所で行ったようです。EPOさんは、今から10年ほど前にもミラのCMソングを歌われていました。
肝心のクルマの方はというと、ボディにはロゴ入りのストライプが走り、アルミホイールにラジアル・タイヤを装着。インテリアで目をひくのは、専用ファブリックを使用した、その名も「パルコ・シート」です。それまでのクルマのシートにはない、洋服感覚のデザインが斬新でした。
さらに、1988(昭和63)年にマイナーチェンジした時には、エアコンや前席フルフラットシート、オートリバース・ステレオなどが付き、軽自動車らしからぬ豪華装備で「リッチな『ミラ』」感が強まります。価格は、Sタイプが68万5000円で、ATだとプラス4万5000円。値段だけで言えば素のトヨタ「スターレット」が買えるくらいです。「立ち食いそばでコロッケとちくわ天と卵とかきあげを全部乗せたら、天丼より高くなっちゃった」みたいな勢いを感じます。
どうせ買うなら「普通よりちょっといい」や、「ワンランク上」を選びがちだったこの時代、その後のモデルでムーンルーフや4基のスピーカーを加え、価格が100万円を超えるものも出て、どんどん華やかに、賑やかに、売り上げを伸ばします。
クルマが娯楽の時代の最高の「おしゃれ」
賑やかといえば、数々のCMも記憶に残っています。特に、「乗ればホリデー、『ミラ・パルコ』」のフレーズが懐かしいCMソングは、現在でもプロ野球の応援歌に使われているほど。宝塚をモチーフにしたり、サイパン旅行が当たるキャンペーンで歌い踊ったりして、若い女性オーナーに強く訴求しました。
お酒もタバコも嗜まない勤労地方女子にとって、「ミラ・パルコ」は最高の「おしゃれ」であり、最大の「娯楽」でした。移動メインの普通の軽自動車を選んでいない「わかってる」感が強かったので、クルマ好きの彼氏や彼氏の友達に肩身が狭い思いをする心配はありませんでした。しかも「ミラ・ターボ」やスズキの「アルト・ワークス」の横で、「あ、でも、私のは『ミラ・パルコ』だし」と小首をかしげる謙虚さがある、そのバランス感覚が絶妙だったのでしょう。
現在、「ミラ」は「オトナナチュラル、オトナカジュアル」というコピーで、あの頃のユーザーとともに成長し、引き続き蜜月を進行しているようです。その後も「オプティ・パルコ」や「ムーヴ・パルコ」といった「パルコ・シリーズ」は続きましたが、「ナウでヤングなギャル」のクルマの代表は、やはり永遠に「ミラ・パルコ」なのではないでしょうか。
【写真】まるでファッション誌 1989年「ミラ・パルコ」カタログ
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