いまひとつ売れ行きが伸びないクルマには2つのパターンがある。どう頑張っても売れないクルマと、相応に努力すれば販売台数を伸ばせるクルマだ。
前者にはスポーツカーや高価格のセダンが該当する。もともとユーザーの数が少ない、あるいは長年にわたり海外向けの商品開発を進めることで冷え込ませてしまったカテゴリーだから、今さら数多く売るのは難しい。
しかしミニバンや軽自動車の不人気車は状況が少し違う。商品改良を含めて、それなりにケアをすれば売れ行きを高められる車種もある。そのようなメーカーから見捨てられた残念なクルマを取り上げたい。日本の市場を本気で活性化したいと考えているなら、放置せずに売れるようにすべきだ。
本企画では現行国産車のなかからそんなクルマを6車種、選んでみました。
なお各小見出しにはそれぞれの最新月販台数を付記したが、参考までに2017年11月のトップセールス車であるホンダN-BOXは2万220台、登録車のトップはプリウスで9220台を売っている。
文:渡辺陽一郎
■トヨタエスティマ 2017年11月販売台数860台
エスティマは今に通じるミニバンの草分け的な存在で、初代モデルは1990年に発売された。直列4気筒2.4Lエンジンを前席の下側付近に搭載する後輪駆動車で、走行安定性も優れていた。新車価格は約300万円で「新世代の高級車」と認識された。
この後、前輪駆動に切り替わり、現行型は3代目で2006年に発売された。同じプラットフォームを使うヴェルファイア&アルファードは2015年にフルモデルチェンジされたが、エスティマは大きな変更を受けず、2016年にマイナーチェンジを実施した。緊急自動ブレーキを刷新したが、コンパクトカーと同様のトヨタセーフティセンスCにとどまる。安全性能の高いトヨタセーフティセンスPは、フルモデルチェンジを行わないと装着が難しいからだ。逆にいえばCなら改良でも装着が可能で、エスティマはこの利点を生かした。
1か月の販売台数は1000台前後。今は昔と違って1000台売れれば販売実績は中堅レベルだが、ヴェルファイアやアルファードに比べると25%程度にとどまる。
それにしてもフルモデルチェンジをしないのは、トヨタに迷いがあるからだ。多額の開発費用を投入してエスティマを一新しても、好調に売れる自信が持てない。
しかし地道に売れていることも事実で、廃止するのも惜しい。またエスティマは保有台数が多く、トヨタ店とトヨタカローラ店の大切な顧客でもあるから、囲い込んで需要を将来に繋げたい。そこで中途半端なマイナーチェンジとなった。
現状でも力を入れれば売れ行きを伸ばせるが、トヨタ店はエスクァイア、トヨタカローラ店はノアも用意するから、販売力が分散されて伸び悩む。いろいろな意味で中途半端だ。
日本市場を本気で考えるなら、ヴェルファイア&アルファードのプラットフォームを使ってフルモデルチェンジすべきだ。それに見合う需要を開拓すればよい。この意気込みを持てないのは、トヨタも海外中心の戦略になっているからだろう。
■トヨタプレミオ 2017年11月販売台数1229台
かつて高い人気を誇ったコロナの後継車種で、姉妹車のアリオンもカリーナの後継に当たる。両車ともに混雑した市街地で運転のしやすい5ナンバーサイズのセダンで、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2700mmと長いから、後席を含めて居住性が優れている。後席にリクライニング機能も設けた。運転のしやすいボディと広い車内の組み合わせは、実用セダンの王道を行く。
それなのに現行型はアリオンも含めて2007年に発売され、この後にフルモデルチェンジを受けていない。2016年に比較的規模の大きなマイナーチェンジを実施してフロントマスクを刷新したり安全装備のトヨタセーフティセンスCを加えたが、1か月の販売台数はプレミオが1000台、アリオンが600台前後だ。今はセダンが全般的に落ち込んだから、このカテゴリーでは堅調な部類に入る。
従ってプレミオ&アリオンは、エスティマと同様に廃止はできないが、多額の投資を要するフルモデルチェンジを行うには販売規模が小さい。そこでマイナーチェンジで中途半端に継続させている。
またプレミオ&アリオンでは5ナンバーサイズに価値があるが、トヨタの新しいプラットフォームは、ヴィッツやアクアのタイプを除くとすべて3ナンバーサイズになってしまう。この点にも難しさがある。
それでもトヨタが国内市場に本気で取り組むなら、ヴィッツやアクアよりも大きくて重いクルマに対応できる5ナンバーサイズのプラットフォームを開発すべきだ。そうなれば商品力の高いミドルサイズの5ナンバー車が開発され、国内市場を必ず活性化できるだろう。
■トヨタマークX 2017年11月販売台数460台
マークXはLサイズセダンの主力車種。かつて高い人気を誇ったマークIIの後継で、トヨペット店のみが扱う。
以前のセダンは居住性の優れた実用的なカテゴリーとされ、マークIIを含めて好調に売れたが、1990年代の後半にミニバンが急増すると状況は一変した。実用的なクルマを求めるユーザーは、ミニバンを選ぶようになった。ほぼ同時期に背が高く車内の広いコンパクトカーも続々と登場したから、相対的にセダンの実用性は低下した。
そこでセダンには新しい価値が求められた。それは背が低く、剛性の高いボディが生み出す優れた走行安定性と乗り心地だ。表現を変えれば楽しさ/安全/快適になる。
この「ミニバン時代におけるセダンの価値」を追求したのがマークXで、運転感覚とデザインの両面でクルマの楽しさを表現した。サイズはマーク2と同等だが、性格を変更したから車名も変えた。
現行型は2代目だが、2009年に発売されてから大きな変更を受けていない。そのために1か月の販売台数は600台前後で低迷する。
プラットフォームはクラウンに近いので、技術的には2.5Lのハイブリッドや2Lのターボを搭載できるが、エンジンは相変わらず旧態依然のV型6気筒で実質的に放置された状態だ。
ハイブリッドやターボを搭載しない理由として「カムリやクラウンの売れ行きを守るため」という話も聞かれたが、それは違うだろう。マークXにこれらのパワーユニットを搭載しても、クラウンやカムリの売れ行きは影響を受けない。まったく違うクルマであるからだ。
マークXが放置される理由は、次期型の計画がなく、終了する車種になるからだ。今後のトヨタは車種を減らし、一般ユーザー向けの乗用車はトヨタ店のクラウン、トヨペット店のハリアー、トヨタカローラ店のカローラ、ネッツトヨタ店のヴィッツを除くと、全店の併売車種になる。
つまりトヨタの戦略が海外優先になり、1968年に初代モデルを発売したマーク2の伝統を受け継ぐ国内向けのマークXが廃止されるわけだ。トヨタを世界に通じる自動車メーカーに育てた主力車種と、そのユーザーが、忘れ去られていく。歴史とか伝統といった言葉も、空しく響く。
■日産キューブ 2017年11月販売台数344台
「キューブがフルモデルチェンジを受ければ、必ず好調に売れる」
という言葉は、日産とその販売店の社員から頻繁に聞かれる。全高が1650mmに達する車内の広いコンパクトカーで、全長は3890mmに抑えたから狭く混雑した街中でも運転がしやすい。内装はソファ風のシートを装着するなどリラックスできる雰囲気が特徴だ。
初代と2代目が好調に売れて2008年に現行型へフルモデルチェンジされたが、その後はほとんど手を加えていない。緊急自動ブレーキも用意されない。そのために1か月の販売台数は600台程度に落ち込んだ。
以前、日産の社内では、次期キューブ、シエンタのような新型コンパクトミニバンも計画されたが、2000年代終盤のリーマンショックが影響して立ち消えになった模様だ。
しかしキューブのコンパクトなサイズとリラックスできる広い室内、低燃費や求めやすい価格は、日本の市場にピッタリだ。冒頭で触れたように、多くの日産関係者がフルモデルチェンジを希望するのは当然だ。
最近は業界を問わず「選択と集中」という言葉が聞かれるが、行き過ぎも目立つ。そのひとつが日本の自動車メーカーの、海外重視と日本国内の手抜きだ。キューブの実質的な放置もそこに含まれる。フルモデルチェンジが理想だが、それが無理なら、せめて緊急自動ブレーキくらいは装着すべきだ。キューブにはそれだけの価値がある。
■ホンダN-ONE 2017年11月販売台数1320台
ホンダは2011年に先代N-BOXを発売して、エンジンやプラットフォームを共通化した軽自動車のNシリーズをそろえている。それが2012年に発売されたN-ONE、2013年のN-WGNだ。
この内、N-ONEの1か月の販売台数は1200台前後。販売不振とはいえないが、OEM車のフレア(マツダが扱うスズキワゴンRの姉妹車)と同程度で、N-WGNの30%程度だ。フルモデルチェンジされたN-BOXと比べれば10%以下にとどまる。
N-ONEが不調なのは、車内が抜群に広いN-BOX、収納設備に力を入れて価格が割安なN-WGNに比べて、魅力が分かりにくいからだ。外観は1967年に発売されてホンダの社名を世間に広めた軽乗用車のN360をモチーフにするが、N-ONEは背が高すぎてプロポーションが崩れた。
こうなった原因はエンジンにある。Nシリーズのエンジンは空間効率を重視して設計され、補機類の配置も含めて前後方向に短く縦方向に長い。そのためにボンネットを下げられず、プラットフォームの制約もあって全高を1610mmにせざるを得なかった(全高が1545mmのローダウンもボンネットは高い)。
ちなみにN360の全幅は1295mm、全高は1345mmだったから、全幅を今日の軽自動車の1475mmに拡幅すると、全高は同じ縦横比率なら1533mmになる。全長はN360が2995mmだから、同じ比率で拡大すると3414mmだ(N-ONEの全長は軽規格限界の3395mm)。
つまりN-ONEローダウンのボンネットと、そこから後ろに繋がるウエストライン(サイドウインドーの下端)を下げれば、N360のかなり忠実な拡大コピー(拡大率は114%)を実現できた。ホンダライフの古いエンジンでも良いから引っ張り出して、ボンネットとウエストラインを引き下げ、N360ソックリに再現すれば、オジサン世代感涙の逸品になっただろう(私も欲しいです!)。
それでも好調に売れたとは思えないが、ホンダのブランドイメージは高められた。そして何より、多くのホンダファンに喜ばれ、感謝された。いいかえればN-ONEは、惜しい、非常に惜しいところで中途半端だったのだ!
■三菱デリカD:5 2017年11月販売台数1042台
デリカD:5の受け取り方は難しい。1か月の販売台数は900台くらいで、(11月はたまたまリードしたが)平均するとエスティマよりも若干少ない。
ただし今の三菱の販売店は約620店舗だから、エスティマを扱うトヨタ店(約1000店舗)とカローラ店(1300店舗)の合計2300店舗に比べると27%くらいだ。デリカD:5の売れ筋は、価格が350万円を超えるクリーンディーゼルターボ搭載車になり、1台当たりの粗利も多い。620店舗にとっては効率の高い優秀な商品になっている。
デリカD:5を何台も乗り継ぐファンも多く、今のままでも良いといえるが、発売は2007年だから10年以上を経過した。緊急自動ブレーキも装着されず、このままではユーザーが減ることも心配される。
またデリカD:5を乗り継いでくれる非常に有り難いユーザーに対しても、何も進化させないのは失礼だ。
そこで2018年には比較的規模の大きなマイナーチェンジを実施する可能性が高い。フロントマスクをダイナミックシールドのデザインに改め、機能もクリーンディーゼルターボを主力に刷新する。
デリカD:5のプラットフォームは、アウトランダー、エクリプスクロスと共通だから、最近になって開発されたメカニズムや装備の採用も比較的容易だ。今は商品力が中途半端だが、マイナーチェンジとはいえ機能が刷新されると、デリカD:5のファンが喜んで乗り換えられる新型車となるだろう。
同じことは、この企画で取り上げたほかの5車種にも当てはまる。国内市場を重視してフルモデルチェンジするのが理想だが、それが無理なら、可能な範囲内の改良を施して欲しい。それは歴代モデルを購入した顧客に対する礼儀でもあるだろう。多少なりとも新しくなれば、販売店もユーザーに乗り換えを推奨できる。
何もしない不作為が一番ダメだ。たとえ中途半端でも良いから、今後も改良を加え続けて欲しい。景気の良かった時代には、まさかこんな原稿を書くことになるとは、思ってもみなかった。
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