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無資格者完成検査問題の後始末と責任は

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無資格者完成検査問題の後始末と責任は

 2017年9月に端を発した、無資格者完成検査問題。この件を継続的に報じていた本誌ベストカー編集部に、某日産ディーラーに務める営業マンから1通のお手紙をいただいた。
 そこには本件にまつわる実質的な対応を担う「現場」の苦労が滲んでいた。
 当記事ではそのお手紙を紹介するとともに、この問題の責任がどこにあるのか。この先よりよい制度作りのために、どのような対策が必要なのかを考えてみました。
文:ベストカー編集部、渡辺陽一郎
ベストカー2017年12月26日号より

 完成検査の不正運用で、121万台のリコールを出した日産。その対応をしなければならないディーラーの負担は増すばかりだが、その現状を現場のディーラー社員はこう語る。

トヨタ「2025年頃までに全車種を電動専用車もしくは電動グレード設定車に」と発表

■リコール入庫時期によって得する人と損する人が出る

 今回のリコールは作業タイミングでお客さんの「損得」が出ます。一番得なのはリコールと車検の時期が合う人で、車検の整備費用がタダになります。法定点検、安心6カ月点検も費用をサービスしますが、金額的には車検が一番得ですよね。で、車検、点検と関係ないタイミングのお客さんはまったく得できないんですよ。

 だから(リコールのハガキを受け取ったお客さんには)「車検のタイミングまでリコールに出すのは待ったほうがいいですよ」と言ってあげたいんですけど、日産からディーラーには「車検まで延ばさせず、なるべく早く入庫させろ」という指示が出ていて、入庫進捗率も見られています。

 出世しか頭にないウチの店長などは、成績を意識して「お客の都合ではなく、こちらで入庫日を決めるんだ!」と叫ぶ始末で、お客さんに直接連絡する営業が頭を悩ませています。

 日産の社員が下々のディーラーに詫びにくるわけでもなく、当然メーカーの検査員が店に援助にくるわけもありません。指定工場のメカニックはこれからくるリコールの波に戦々恐々です。

記者会見で謝罪した日産の西川廣人社長。報酬を一部返上し、自工会会長としての活動を一部自粛した

 中途半端な整備代の返還や詫び金(日産の指定工場以外で車検をするユーザーに一律2万円)を出すくらいなら、そのお金で臨時の整備士や検査員を雇ったり、外注を使ってでも「いかに早くリコールを終わらせるか」を考えるべきではないでしょうか? ディーラーの現場、特に車検整備をできる店舗や施設に負担を強いているのが現状です。

 先日、給与明細をツイッターで晒して辞めていった神奈川日産のメカニックがいますが、今回のリコール騒動で辞めていく日産メカニックは多数出ると思いますよ。

 日産自動車の対応は「普通に気持ちよく乗りたい」というユーザーの気持ちと、ディーラーの現場を完全に無視しているとしか思えません。

☆     ☆     ☆

 2017年12月中旬時点で、日産のリコール処理はまだ完了していない。本来は繁忙期である年末を迎え、販売現場の混乱は続いている。

 すでに多くのメディアではこの問題を取りあげる機会が減ってきているが、しかし、こうした「現場の声」を聞くとまだまだ継続中の問題であると再認識するし、何より改善に向けて、責任範囲をより明確にしてほしいとも思う。

 日産、スバルはそれぞれトップが謝罪会見を開き、対象車の全面リコールに踏み切っているが、はたして本件の責任はそれですべてとったことになるのか? 行政側に責任はないのか? 自動車ジャーナリストの渡辺陽一郎氏に分析していただいた。

■国土交通省にも当然責任はある 文:渡辺陽一郎

 2017年9月に、日産で完成車の検査を無資格者が行っていたと発表。10月にはスバルの制度不備も明らかになった。いずれも完成検査を偽装する意図はなく、検査自体は滞りなく行われていたが、正規の検査資格を持たない者が印章の貸与を受けるなどして業務を進めていた。商品に問題がなくても検査方法に不正があった。

 さらに遡ると2016年4月に、三菱が燃費計測を行う時の走行抵抗値に不正があったと発表した。この時は燃費を実際よりも優れた数値に見せる意図があり、悪意が伴った。同年5月には、燃費偽装の意図はないものの、スズキも国土交通省が定めるのとは違う方法で走行抵抗を計測していたことを発表している。

 以上の不正の責任は、いずれも自動車メーカー側にあるとして謝罪しているが、(国交省はいっさい謝罪も釈明もしておらず)「国交省の責任はどうなるのか」という疑問も生じる。

 なぜならメーカーの完成検査については「型式指定を受けた自動車は、国が行う新規検査に代えて、自動車製作者等が行う」としているからだ。燃費計測についてもJC08モード燃費は「国土交通省審査値」だから、審査を行うのはメーカーではなく国交省だ。

■「メーカーのために便宜を図っている」?

 新聞等の報道によれば、一連の問題に関して、国交相などが「非常に問題」と述べている。問題とする理由は「国のチェックをメーカーが代行する際の性善説が裏切られた」というものだ。

 しかし国民や消費者の常識では、受け取り方が違うだろう。本来は国交省が行うべき検査や計測をメーカーが代行して、そこに問題が生じたのであれば、国交省にも責任がおよぶと考えるのが妥当であるからだ。国交省に取材すると、完成検査に関しては次のような返答であった。

「本来はメーカーが国の施設に車両を持ち込み、完成検査を受けることになっている。しかし生産台数が膨大だから、すべてを持ち込んで検査を受ける方法は現実的ではない。そこでメーカーが自社で完成車の検査を行えるようにした」という。

 つまり「国交省がメーカーのために便宜を図っている」というわけだが、同時に国交省の省力化にもなっているだろう。双方の利便性のために、メーカーが国交省の完成検査を代行しているのだから、責任も双方に生じる。

 国交省は一連の問題を受けて、メーカーのデータ測定時の抜き打ちチェックを行うなど、2016年から技術的な検証を開始した。2017年6月には改正道路運送車両法が施行されて、虚偽の報告をした時の罰則も強化している。

 それでも先般の完成検査問題では、日産は過去約40年、スバルも30年以上にわたり、問題にされた方法で検査を行ってきたことが明らかになった。国交省はメーカーに検査を代行させながら、誤った方法を長期間にわたり放置してきたことになってしまう。

 国交省は、車両に型式を与えることから完成検査まで、すべての業務を監督する立場にあるから、メーカーの業務をチェックしなければならない。そこに手落ちがあったのだから、責任は国交省とメーカーが連帯して負うべきで、今後は国交省によるチェック体制の見直しも求められる。

 また完成検査問題では、不正な方法とはいえ長期間にわたり安全が確保されてきた経緯もあるから、検査方法を見直す余地も生じているだろう。

■クルマや社会の進化に「制度」が追いついていない

 燃費計測における走行抵抗の算出にも、複数の意見がある。国交省が定めるのは惰行法と呼ばれるギアをニュートラルに入れた状態で車両を走らせる方法だが、あるメーカーの開発者は、

「今の車両開発では、さまざまな抵抗を計測する。これをベースに走行抵抗を算出したほうが、風の影響などを受けずバラツキも少ない。正確性が高まるから、海外では個別に計測した抵抗値を使うこともある」

 という。

自動車自体はもちろん、検査の仕組みも変わっているのに、制度は古いまま

 車両やその開発/実験方法は急速に進歩しているのに、国の制度は前述のとおり30~40年も変更を受けていない。内容によっては、戦後の自動車産業が発足した約70年前から使われているものもある。道路交通法も含めて、旧態依然とした制度を今日の自動車技術とクルマ社会に合った内容に是正していくことが大切だ。

 何よりもまず開発現場で働く人たちの意見を聞いて、公平でムダのない制度を確立させる必要がある。

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