積極的にピュアEVへの転換ストラテジーをアピールする欧州の先進国において、その実態はどのような動きとして感じられるのか。2021年9月にドイツのミュンヘンで開催された「IAAモビリティ2021」の様子とともに、BEV(バッテリーEV)の捉えられ方についてお伝えしたい。(Motor Magazine2022年1月号より)
BEVのプレミアム性とハイエンドの高い親和性
ヨーロッパの自動車メーカーが今、急速なBEVシフトに向かっていることについては改めて説明する必要はないだろう。「いつまでに」「どれぐらい」に多少の違いこそあれ、すべてのメーカー、ブランドがそう公約している。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
その一番の目的が、カーボンニュートラルの実現であることは間違いない。しかし、それだけを理由と考えるのはおそらく間違いである。彼らはBEVシフトの先に何を見据えているのだろうか。
生産、販売するモデルを最終的にすべてBEVに置き換えていくという宣言が早かったのは、ハイエンド&プレミアムメーカーである。ベントレーは2020年11月に発表した事業戦略「ビヨンド100」で、26年までにラインナップをPHEVとBEVに切り替え、30年にはBEVだけにすると発表した。排気量6LのW12ガソリンツインターボエンジンを頂点に戴くブランドが、10年間で完全BEVに移行するというのだ。
ボルボも21年3月に、30年までにすべてのボルボ車をBEVにすると発表した。25年までに生産モデルの50%をBEV、残りをPHEVとして、さらにそこから5年で完全BEV化するというシナリオである。
同じような発表がジャガー、アウディ、さらにはメルセデスベンツなどからも続いた。いずれも30年にはBEVのみをラインナップするという点は、ほぼ一緒だ。ただし、少なくともアウディの場合は「中国は除く」と付く。
BEVなら圧倒的な高性能を、圧倒的にスムーズかつ快適に実現できる
極端な動きに出たのがロールスロイスだ。21年9月末にブランド初のBEVとして23年の第4四半期に発売するスペクターをチラ見せしたが、今後はPHEVを通り越して、ガソリンV12エンジンからいきなりBEVへと移行しようとしているのである。
「私たちの顧客は中途半端なものは求めていません。BEVシフトにより私たちは究極のラグジュアリーカーを提供できます」
新型ゴーストの日本上陸の際に同ブランドのエンジニアリングリーダー、ジョン・シムス氏はそう話していた。そう言われれば確かにそうかもしれないが、しかし大胆であることは間違いない。
これらのブランドにとってBEV化は確かに理にかなっている部分も多い。まず大前提として、絶対的な生産/販売台数が少ないことは、BEV化を後押しする大きな理由になる。充電環境が問題となりにくい、ということも言える。ベントレーやロールスロイスのオーナーは間違いなくガレージにクルマを収めているはずであり、公共駐車場を使っていたり、あるいは道路脇に停めていたりというユーザーよりも、はるかにハードルが低くなる。
しかし、それ以上に大きいのはBEVが今、カスタマーにとって新鮮な驚きをもたらす商品だという事実だ。内燃エンジン車のパワー競争はエスカレートしていて、今や600psあっても驚きはなく、それが650psになったとしても興味を惹くのは難しい。
それがBEVならば同等の出力にさらに圧倒的なレスポンス、スムーズさ、静粛性といった新たな価値が加わる。昔なら8気筒の次は12気筒に乗りたいと思ったように、今や8気筒の次は高出力電気モーターのBEVというわけだ。
メルセデスAMGが求めるのは、あくまで高いパフォーマンス
「ハイパフォーマンスブランドにとって、瞬時に大きなパワーが得られる電動化は脅威ではなく大きなチャンスです。EV航続距離を求めるユーザーのためにはメルセデス・ベンツのブランドに多くの選択肢を用意しています。メルセデスAMGが求めるのは、あくまでパフォーマンスです」
IAAモビリティで発表されたメルセデスAMG初のPHEVモデル、GT63 Eパフォーマンスのわずか24kmというEV航続距離について聞いた時の、メルセデスAMGチーフテクノロジーオフィサー、ヨッヘン・ヘルマン氏からの返答である。
PHEVについてだけでなく、電動化全般について彼らの考えは同じだろう。要するに電動化はプレミアムブランドにとっては、新しいマルチシリンダー高出力エンジンと同じような位置づけなのだ、ユーザーを驚かせ、乗ってみたいと誘引するための。そうした発想の転換を促したのは、もちろんディーゼルゲートであり、環境意識の高まりであり、さらにはハイブリッド技術をモノにできなかったという現実であることも間違いではない。
しかし一番の後押しとなったのは何と言ってもテスラの台頭だろう。彼らにとっては2作目のモデルに過ぎないモデルSはプレミアムカー市場を席巻する大ヒットとなり、続くモデルX、モデル3などがそこにブーストをかけた。20年の年間販売は約50万台。それが21年にはほぼ50%増の75万台まで増える勢いなのだ。無視することなどできるはずがない。
ポルシェが最初のBEVとして4ドアスポーツカーのタイカンを投入したのは、まさにテスラモデルSに対抗するためだ。メルセデス・ベンツEQSのターゲットもここであることは明らか。パナメーラもSクラスも、モデルSにやられてしまっているだけに一矢報いる必要がある。
BEVの魅力は目新しさ。課題はバッテリーのコスト
先に書いたとおり、このセグメントのユーザーは、何か新しい、他では味わえない体験ができるものを常に探している。周囲から一目置かれるクルマはないかと常に物色しているのだ。結果としてモデルSからのテスラ車は、そこへ見事に適応した。
環境意識の高まりでそれらを選んでいるというわけではなく・・・いや、もちろんそういう意識のユーザーも存在するには違いないが、あくまで新しい面白いクルマが、たまたまBEVだったという話なのである。そして今、ようやくテスラ包囲網ができつつあり、ここでのパフォーマンス競争はこれからが本番といった雰囲気を漂わせているのだ。
一方、プレミアムブランド以外のメーカー、コンパクト/ミディアムサイズのモデルについては、まだまだBEV化のうねりはそこまで大きくはなっていない。現実問題として、掛け声は大きくてもユーザーはそこに追いつけてはいない、という状況である。
フォルクスワーゲンは21年7月に開催したオンライン発表会「NEW AUTO」で、30年にはBEVの販売割合がほぼ50%になるとした。現状は10月に発表された21年1月~9月のBEV販売台数として16万7800台という数字が出ている。20年の年間販売532万8000台に照らし合わせると、ざっと4%あたり。これから10年で倍強にしていくことになる。
フォルクスワーゲングループでは26年以降、プラットフォームをSSP(スケーラブルシステムプラットフォーム)1本に集約し、バッテリーのギガファクトリーを増設していくなどして、しっかり利益を出していく方針が明らかにされている。
少なくともメーカー側では、BEVシフトに向けた態勢は着々と整えられていると言っていい。ちなみにバッテリーの素材はリン酸鉄、マンガン、ニッケルをセグメントごとに使い分けしていくという。リチウムイオンバッテリーだけですべてを賄うのは無理というわけだが、そうなると性能的には不安が出てくるのも確かだ。
ステランティスもやはり26年までには、BEV所有コストを補助金なしでICE車と同等にするという方針を示した。これも鍵を握るのはリチウムイオンバッテリーのコストだろう。実際、生産量の拡大とともに下がる下がると言われ続けて何年も経ち、結局下がらずリン酸鉄やマンガンが再浮上している状況を見れば、それが容易ならざることは明らかだ。
そう考えればおそらく今後も引き続き、BEV化の流れはハイエンド&プレミアムのセグメントから進んでいくことになりそうである。続くのはおそらくシティコミューター的な小型車。その間に位置するクルマがすべてBEVになるまでには、まだ相当な時間がかかると見るのが妥当だろう。
カーボンニュートラルを合成燃料で実現させる
難しいのがスポーツカーだ。それこそフェラーリやランボルギーニ、アストンマーティンなどを見れば、内燃エンジンから脱却することは情緒的にも簡単ではないわけだが、実際問題としていくらパワーとレスポンスを容易に得やすいとは言え、大容量のバッテリーを積めば車重増を避けられないのが現状のBEVだ。よほどのブレイクスルーがない限り、それは不可能に近い挑戦となる。
そこで注目されるのがeフューエル、つまり合成燃料だ。すでに手掛けているポルシェは、他のモデルはすべてBEV化しても911だけは最後までフラットシックスで走らせるつもりでいる。内燃エンジンをそのまま使いながらCO2排出量を最大90%削減できるこの燃料は風力発電で水を酸素と水素に分解し、その水素をCO2と組み合わせた合成メタノールが原料。プラントはチリに建設中で、22年中盤から生産が始まる。価格は、30年までに1L当たり2ドルを目指すという。
将来のスポーツカー、あるいは内燃エンジンについて考える上ではF1世界選手権の動向も無視することはできない。23年よりeフューエルを導入予定のF1にポルシェとアウディが関心を示していることは、もはや公然の秘密。BEVシフトと言っているのになぜ内燃エンジンを・・・というところに、彼らのしたたかさ、あるいは二枚舌が見えてくる。
市販車は当面とりあえずBEVへの移行を進めつつ、モータースポーツの最先端の場でeフューエルを含む内燃エンジン技術はしっかり蓄積しておき、いざという時に備えようという意図がそこにはありそうだ。さらにその先のF1には、水素エンジンという噂もある。さて、21年で撤退してBEVに邁進しようというメーカーは、本当にそれで良かったのだろうか、というのは余談である。
あちこち話題を飛ばしながらここまで来たが、BEVあるいはカーボンニュートラルに向けたヨーロッパの自動車メーカーの雰囲気は、ざっとこんなところだ。
ユーザーとしては、ハイエンドやプレミアムではこれまで見たことのないような面白いBEVに出会えるだろうし、スポーツカーにはまた違う未来がありそうだ。そして普及モデルについては、まだまださまざまなパワートレーンが乱立する状況が続くというのが筆者の見立てである。それはけっして退屈になどならず、これまで以上に面白いクルマに出会わせてくれそうという気がしているのだ。(文:島下泰久/写真:IAAモビリティ、ダイムラーAG、ステランティス)
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みんなのコメント
知識と常識は昭和から変わらぬ価値観の日本の自動車雑誌だけ、世間知らずのまま自動車雑誌編集部下っ端からいつの間にか先生に。
知識も見識もないから、この記事も欧州でわーってバカみたいに書いてるだけ。