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電車内に流れる爆音! SNSで「バズる」愚行、「静かな車内」は過去の遺物? 厳罰なき日本で加速する「音ハラ」を考える

掲載 更新 38
電車内に流れる爆音! SNSで「バズる」愚行、「静かな車内」は過去の遺物? 厳罰なき日本で加速する「音ハラ」を考える

ベアビーティングの拡大

 都市交通の静けさが壊れかけている。

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 電車やバスなどの公共交通で、スマホや携帯スピーカーから大きな音で音楽や動画を流す行為が問題になっている。これを「ベアビーティング(Bare beating)」と呼ぶ。英国では、これに罰金を科す法律を作ろうとしている。日本でも似た問題が出てきている。先日、電車内でスピーカーから音楽を流しながら体を揺らす女性の動画がSNSで話題になった。

 TikTokなどのSNSでベアビーティングの動画が広がっている。この動画は不快に感じる人の怒りを超え、制度の弱さや社会の共通の価値観が崩れていることを示している。

 ただの迷惑行為と片付けてしまうと、本当の問題が見えなくなる。今考えるべきは、なぜこんなことが起きるのかだけではない。

「なぜ制度がうまく機能しないのか」

も問わなければならない。ここには、都市交通の設計や社会のルール、そしてデジタル時代の承認欲求が複雑に絡んでいるのだ。

静寂を破る価値観対立

 日本の都市交通は、暗黙の了解と社会の同調圧力のもとで成り立ってきた。お互いに見守り合い、暗黙のルールがバランスを保っていたのだ。

 しかし、ベアビーティングのような行為は、そのバランスに正面からぶつかる。スピーカーから流れる音は、単なる音ではない。空間を一方的に支配し、他人の自由な行動を奪う手段だ。空間の自由を独り占めしてしまうようなものだ。問題は、この行為が「ルール違反」ではなく、

「価値観の主張」

として行われている点にある。従来のマナーでは、迷惑は無意識の間違いだった。しかしベアビーティングは意図的で自覚的だ。ときには挑発的な側面もある。こうした行為は、従来のマナー教育だけでは抑えられない。

 ここでの構造的な問題は、

「「無音を守る努力」と「音を出す楽しさ」の差」

にある。無音を守るには社会全体の努力が必要だが、音を出すのはスマホひとつで簡単にできるのだ。

立件困難化と制度の空白

 現行の法律は、こうした行為を十分に抑えきれていない。都道府県の迷惑防止条例は、

・痴漢
・盗撮

など、明確に加害性がある行為に特化している。軽犯罪法や刑法の威力業務妨害は適用の条件が厳しく、立件には詳しい事実の認定と警察や検察の積極的な関与が求められる。

 さらに、駅員や乗務員が注意しても、動画撮影やネット投稿を目的にしている場合は、その注意がかえって炎上リスクを生むこともある。ここからわかるのは、

「公共の場のルール作りを制度が主導できなくなっている現実」

 である。現場で迅速な対応が求められているにもかかわらず、それを支える制度設計は進んでいない。たとえば、乗務員に一時的な排除権限を与えたり、音を自動で検知するシステムを導入したりすることだ。

 その背景にはコストと責任の問題がある。公的機関は人権侵害の懸念を避けたがり、民間企業は過剰な管理を嫌う。こうした状況が空白を生み、抑止力を弱めているのだ。

再生数依存の迷惑行為増加

 ベアビーティングは、従来の犯罪やマナー違反とは違う。公共の場でルールを破ることで得られる利益がある、新しい仕組みの上に成り立っている。

 TikTokやInstagramで再生数やフォロワーが増えると、それが直接お金や社会的地位につながる。だから公共の秩序を乱すことは、単なる悪い行動ではない。むしろ計算された投資であり、コンテンツ制作の一部なのだ。

 この仕組みは、鉄道の空間が舞台に変わっていることを示している。公共の場は本来、いろいろな人が一緒にいる場所だった。しかし今は、視聴者に向けて演じる表現の場になっている。

 模倣が広がりやすいのもそのためだ。一度動画が話題になると、その行為は迷惑行為ではなく

「実績」

になる。不快であっても理にかなわなくても、プラットフォーム上の数字が成功を示している限り、やめる理由がない。制度による抑制がないかぎり、この行動は広がり続けるだろう。

音声センサー導入の効果

 問題の焦点を

・マナー教育
・個人の自制

に置いても、解決にはつながらない。音の暴力を防ぎ、広がる模倣行為を止めるには、交通事業者が自分の利益を守る戦略を立てる必要がある。

 現実的な対策としては、車両に音声検知センサーを設置し、異常な音量を自動で検知・記録する仕組みを導入することだ。こうして記録された事実をもとに乗務員が対応できる。行為の判断が主観ではなくデータに基づくため、対応の透明性と正当性が確保できる。

 さらに、投稿動画をSNS運営会社にすぐ報告して削除を求める専用の部署を設けることも考えられる。こうした対策には確かにコストがかかる。しかし、車内の快適さと安全を守ることは公共交通の収益基盤そのものであり、将来の損失を防ぐための投資になる。

 特に女性や高齢者が「安心して使えない」と感じると、その利用離れは取り戻せなくなる。事業者が防音技術と対応権限を明確に整備することは、経営の安定と収益の確保につながる。

持続可能な交通経営の再設計

 音を使ったルール違反は、公共交通の仕組みがどれだけ耐えられるかを試す“圧力テスト”だ。

 制度がきちんと機能していれば、ルール違反はめったに起きない。しかし制度が弱いと、ルール違反が当たり前になってしまう。ベアビーティングが世界中で広がっているのは、制度がこの新しい状況に対応できていない証拠だ。

 日本でも、厳しく罰すれば解決するわけではない。交通事業者が自分たちの価値を守るために動き出してこそ、公共の場での音の支配は変わる。

 これは持続可能な交通の仕組みを作り直すことにつながる。問題を解決するのは“常識”ではなく、仕組みの見直しである。

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