フェラーリの最高峰として光り輝いたF40
週刊プレイボーイで第二章として復活を遂げた『サーキットの狼II モデナの剣』は、バブル最盛期のスーパースポーツと主人公である“剣・フェラーリ”を描いた物語である。
池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第5回:7年越しで手に入れたF40】
ここでは『サーキットの狼』の作者であり、日本におけるスーパーカーの第一人者である池沢早人師先生と共に『モデナの剣』が描かれた1990年代の名車たちを振り返る。今回はバブル時代の象徴として大きな話題を提供してくれた「フェラーリ F40」にスポットライトを当て、当時の思い出を語っていただく。
当時の憧れはフェラーリ F40とポルシェ 959
『サーキットの狼』連載終了から10年後、スーパーカー少年が大人になった1989年から週刊プレイボーイで連載を始めた『サーキットの狼II モデナの剣』は、バブル景気の真っただ中で描いた作品だけに、登場するクルマも凄かった。当時は輸入車が大きなブームになり、週末の六本木にはBMWやメルセデスが当たり前のように走りまわって、フェラーリやポルシェが時代の象徴として自動車雑誌の表紙を飾っていた。
『サーキットの狼』を描いた当時、スーパーカーは「手の届かない憧れ」も多かったけど、『モデナの剣』を連載していたバブル期は、スーパーカーは「欲しいクルマ」になっていた。日本経済が上向きになって所得も上がり、ポルシェやフェラーリも夢のクルマでは無くなっていたってことだね。そんなイケイケの時代でも「憧れ」として簡単に手に入れることができないクルマが存在していた。1台は「ポルシェ 959」、そしてもう1台が「フェラーリ F40」だ。
ポルシェとフェラーリは『サーキットの狼』では双璧のライバルとして描いたけど、この2台は世界中の自動車ファンを熱狂させ、作中だけでなく実際にも互いに史上最強のライバルであったことは間違いない。日本ではバブル経済の象徴であり、市場価格では1億円以上になったこともあったからね。ボクとしてはポルシェ 959も気になっていたけど、どうしてもフェラーリ F40に乗ってみたかった。
でも、発売が開始された1987年には世界中の大富豪たちがF40の争奪戦を繰り広げ、簡単に手に入れることはできなかった。市場価格が急上昇してしまい、億単位のクルマを手にすることなんて夢の世界の話しになってしまった。
フェラーリの40周年を記念して誕生したF40は、エンツォ・フェラーリが最後に関わったクルマということもあり、その人気は衰えることがなかった。でも、ボクにチャンスが巡ってきたのはF40の生産が始まってから7年後の1994年。友人のクルマ屋さんがイタリアのオーナーに話をつけてくれて、譲ってもらえることになった。そのオーナーは2台のF40を持っていたこともあり、その1台がボクの愛車として日本へと輸入された。
7年越しのラブコールが叶い、目の前に姿を見せてくれたF40の姿は今でも忘れない。ピニンファリーナによってデザインされたスタイルは戦闘機のように精悍で、低く構えたフォルムはエンツォが目指した「そのままレースに出られる市販車」そのものだった。2936ccのV型8気筒DOHCにツインターボを装着したエンジンはまさにレーシングカー。でも、フェラーリらしい甲高いエキゾーストノートを響かせるものの、12気筒のような官能的な美しさが感じられなかったのは残念なポイントかな。
納車されてすぐに友人のレーシングドライバーを誘って箱根へドライブに出かけたんだけど、その日は生憎のセミウェットコンディション。薄く濡れた路面でアクセルワークをラフに行えばスピンすることは間違いなかったから緊張した。その友人にも試乗してもらったんだけど「このクルマは市販車じゃなくてレーシングカーだね」と驚いていたよ。
当時はVシネマ『モデナの剣』を撮影している時期で、土屋圭一さんにお願いしてエビスサーキットでF40のドリフトシーンを撮らせてもらった。豪快にスライドさせるドリキンのテクニックは凄かったねぇ。横向きでコーナーを駆け抜けていくF40なんて、日本映画では『モデナの剣』だけだと思う(笑)。
F40のドライブフィールは正真正銘の「ドッカンターボ」。ポルシェ 930ターボに近い感覚があり、繊細なアクセルワークが必要なクルマだ。ステアリングを切った状態で無神経にアクセルを踏み込むのは危険。ステアリングの切り角とアクセル開度をしっかりと把握しながら運転しないと、どこに飛んでいくか分からない暴れ馬。まさにミリ単位のアクセルワークが肝なんだ。
F40は運転することが楽しくもあり、怖くもあるクルマだった。特にタイヤが冷えている状態では真っすぐ走らせるのも至難の技だからね。
ちなみにボクが手に入れたF40は真紅のボディに上質なアルカンターラの内装を持つ一台。エアコンは装備されていたけど灰皿の装備は無い。愛煙家のボクは缶コーヒーの空き缶を灰皿代わりにしてドライブをしていた。多分、F40の車内に空き缶の灰皿を置いてタバコを吸っていたのはボクだけかもしれないね。
F40は憧れのクルマではあったけど、ガレージに飾っておくのはボクの流儀ではない。時間があればサーキットやワインディングに連れ出して心ゆくまで走りまわった。乗りこなしていくうちにF40を理解できるようになったんだけど、サスペンションの味付けがエンジンに対してソフトなことが弱点かな。走行中のピッチングが大きいことと、ロードクリアランスが低すぎて一般道では走る道が限られる。
でも、サーキットに持ち込むと数周でブレーキがフェードしてしまうんだよなあ・・・。パフォーマンスは高いのに、しっかりと走らせるフィールドが日本にはない。日本にアウトバーンがあれば楽しめるんだけどね。そんなわけで、F40を走らせることにフラストレーションが溜まったボクは、7年間も恋焦がれていたF40とは1年もしないうちに別れることになる。でもボクの人生の中で最高に燃え上がった濃密な1年間だった。F40は歴代のフェラーリの中でも印象深い一台として、今でもボクの心の中に鮮明に焼き付いている。
Ferrari F40
フェラーリ F40
GENROQ Web解説:エンツォ・フェラーリの遺作となった傑作
イタリアの名門「フェラーリ」の総帥エンツォ・フェラーリが1989年にその生涯の幕を閉じる寸前、結果としてエンツォ生前最後の作となったフェラーリ F40。フェラーリ社の創業40周年を記念して製作されたスーパースポーツであり、エンツォの「そのままレースに出られる市販車」という意思を具現化したモデルである。
1987年にマラネロで開かれた新車発表会にはエンツォ・フェラーリも登壇し、F40の誕生に喜びを表した。コードネーム「LM」の名前で開発が始められたF40は、ピニンファリーナによるボディデザインを纏い、フェラーリの伝統でもある鋼管チューブラーフレームをベースにカーボンなどの新素材を使用した半モノコック構造を採用する。
リヤミッドに搭載されるパワーユニットは2936ccの排気量を持つV型8気筒DOHCにIHI製のツインターボで武装することで478hp/7000rpmの最高出力と、58.8kgm/4000rpmの最大出力を発生。トランスミッションは5速MTのみが設定され、その最高速度は324km/hを誇り、発表当時は世界最速の市販車として大きな話題を提供してくれた。
精悍なボディは既存のフェラーリとは一線を画するエキサイティングなもので、スラントしたノーズと大型のリヤウイングが特徴的。ボディディメンションは全長4358×全幅1970×全高1124mmとなり、ホイールベースは2450mm。車両乾燥重量は1100kgと超軽量に仕立てられている。
製造期間は1987年~1992年とされ、フェラーリ・スペチアーレとしては異例の長寿モデルとなる。1987年の発売当初は約400台を目標にしていたものの、世界各国から膨大な注文が殺到し、そのバックオーダーの多さを受けて1992年までに1311台ものF40が世に放たれた。
F40にはモータースポーツを意識した複数のバージョンが存在する。「F40 LM」は1988年にル・マン24時間レースに参加するために製作されたモデルだが、エントリーを予定していたGTCクラスがカテゴリーされずF40 LMはIMSA GTへと舵を切る。大幅なチューニングが施されたパワーユニット「F120B」は780psの最高出力を発揮し戦闘力の高さを見せつけた。その活躍を受け、愛好家たちに向けて作られたモデルが「F40 コンペティツィオーネ」だ。その生産台数は19台といわれ、幻のF40として存在する。
さらにフェラーリではイタリアスーパーカーGT選手権に出場するため7台の「F40 GT」を製造した。またBPR GT選手権に出場するために6台の「F40 GT-E」がミケロットによって作り上げられている。最終進化モデルでは排気量を3.5リッターまで拡大し、最大800psオーバーの最高出力を叩き出したという。
フェラーリの創立40周年を記念したF40は、エンツォ・フェラーリが最後に関わったロードゴーイングモデルとして今もなお絶大な人気を誇っている。後に50周年記念モデルとして誕生した「F50」をしても、エンツォの血統を受け継ぐ最後の名車の前では霞んで見える。
TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)
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