1月23日から27日まで、マレーシアのセパンサーキットでミシュラン主催のウインターテストが行われ、いよいよ本格的に2020年シーズンに向けて動き出したスーパーGT。すでに東京オートサロン2020で体制発表を行ったホンダNSX-GT勢では、大きなサプライズとしてTEAM MUGENが笹原右京を起用したが、その笹原もこのセパンテストに参加し、初めてのGT500マシンを体験した。
1996年群馬県生まれの笹原は、2003年にレーシングカートデビュー。日本で活躍した後、ヨーロッパに渡りロータックス・マックス・ジュニアでワールドチャンピオンに輝くなど、本場欧州で素晴らしいキャリアを残した。
スーパーGT:11台のGT500車両が参加し恒例のセパンでのウインターテストがスタート
F1を目標にヨーロッパで四輪にステップアップし、速さはみせてきた笹原だったが、孤軍奮闘を続けるも大きなスポンサーをなかなか得られず。2016年にふたたび日本に戻り、F1へのチャンスを掴むべくSRS(鈴鹿サーキットレーシングスクール)のスカラシップを獲得。2017年にはFIA-F4でランキング2位を獲得し、2018年にはThreeBond Racingから全日本F3選手権に参戦。ランキング3位となっていた。
しかしその後、笹原はSRSのスカラシップドライバーの先達たちが歩んできた“レール”から一度外れてしまう。その理由は明かされておらず、「自分としてはやるべきことをやってきたつもりだったので『なんでだろう』とは思いましたが、すぐに切り替えて次のプログラムに動いていきました」と新たなキャリアを求めていった。
そんな笹原が2019年に選んだのは、ポルシェカレラカップ・ジャパン。チャンピオンを獲り各国王者たちのセレクションを通ることができれば、ポルシェ・モービル1・スーパーカップを経て、ポルシェワークスドライバーになるチャンスがあった。もちろんWEC世界耐久選手権や、フォーミュラEへのチャンスにも繋がるルートだ。さらに2019年は同時にF3アジアにも参戦し、チャンピオンを獲得した。
笹原は自らに課せられたミッションをこなしカレラカップ王座を獲得すると、ヨーロッパで行われたセレクションを受けた。日本ではABSつきのカップカーをドライブしていた笹原は、欧州でABSなしのマシンに対応しつつも好タイムを記録したというが、ポルシェジュニアに選ばれたのは、トルコ人ドライバーのアイハンカン・ユーベン。笹原は残念ながら選ばれなかった。
■忙しいオフがさらに忙しく
ただ、笹原のもとには「ありがたいことにいろいろなお話をいただきました」と数多くの魅力的なオファーが届いたという。さらにそれに加え、TEAM MUGENからGT500参戦のオファーがやってきた。スーパーGTファンならば少々驚く話かもしれないが、数多くの話が届くなかで、笹原は内容を吟味するべく「すぐにお返事ができなかったんです」という。
ただその後さまざまな話を聞き、「皆さんが背中を押してくださったこともあり、こちらにお世話になることを決めました」とGT500参戦を決断した。それが2019年末のことだったという。
そして迎えた1月10日。2019年F3アジア王者の笹原は、ハイテックGPからの依頼もあり、ゲストドライバーという扱いながらF3アジアのドバイラウンドに参戦していたが、いよいよ予選日という夜だった。時差の関係で眠りについていた笹原の電話の画面に「見たことがないくらいの通知が一気に来ました。それで目が覚めてしまって(笑)」と知人・友人たちからの祝福と驚きのメッセージが入る。日本でホンダの2020年体制発表が行われたのだ。それほどの反響に自身も驚いたという。
ドバイ、さらにアブダビでのレースを終えた笹原は、セパンに入り走行1日目のシェイクダウンテストで初めて16号車ホンダNSX-GTのステアリングを握った。「今年は例年に比べて忙しかったのですが、ただでさえ忙しいのにさらにとんでもなく忙しくなって(笑)。今回セパンにいて、ドライブするまであっという間でした」と笹原は笑った。
笹原はこのテスト期間中、チームメイトとなる武藤英紀と行動を共にしていたが、外から見ていても笑顔が絶えず、非常にいい雰囲気ができていることが感じられた。
■クルマは軽いし速いし楽しい!
そんな笹原に、セパンテストでのGT500マシン初ドライブの印象を聞いたが、意外な返答がきた。
「エアコンが効きすぎていてビックリしました。ピットではそれほど感じなかったのですが、ピットレーンから出てアクセルを踏んだとたんに背中から効いてきて、鳥肌立っちゃいました(笑)。それが最初の印象です」と笹原。GT500マシンはシートやヘルメットの導風ダクトから冷風が出てくるが、まずそれに驚いたというのも“らしい”話か。
「1日目はトータルで20周も乗っていないくらいだと思いますが、クルマ自体は最初の3~4周くらいで慣れることができました。もちろんタイヤ等、これから学ばなければならない点はたくさんあるのですが、クルマは楽しかったですね。軽いし速いし、グリップする」
車両に対するコメントの面でも、武藤とは「感じていることも基本的に同じ」とドライビングの面で苦労することも少なそう。「タイヤやクルマもどうしなければいけない……という点も、自分もかなり分かって来ています。ここからどんどん伸ばすことができたらと思っています」と笹原は語った。
FIA-F4時代、そしてカレラカップ時代にもスーパーGTの“現場”は体験しているが、いきなりGT500という世界が注目するトップカテゴリーに参戦することになった。その“重み”は自身も理解している。
「スーパーGT自体は、タイヤ戦争もありますし、GT500はとんでもなくレベルが高いのも分かっています。チーム、クルマ、そして僕たちが使うヨコハマタイヤがうまく密にお互いが繋がって、素晴らしいタイヤを作れたらと思います。それにしても普通の人なら乗れないカテゴリーに、いきなりGT300を飛ばして参戦できることになったので(笑)、ワクワクしています。すごく楽しみですね」と笹原は意気込みを語った。
ちなみに、過去に笹原がドライバー交代をしたレースは2019年に参戦したFIAモータースポーツ・ゲームスとautosport web sprint cupしかない。「『ドライバー交代ちゃんとできるかな』という不安があります(笑)」と笹原は笑う。それほどGTカーのレースとはあまり縁がなかった存在ということでもあるが、いまやGT500はフォーミュラに近い存在。これまでカート、ミドルフォーミュラで魅せてきた笹原の速さを、今年は最高峰の舞台で堪能できるはずだ。そしてその活躍が“次の舞台”に繋がることも、笹原は理解している。
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