BMW ALPINA B7 BITURBO
BMW アルピナ B7 ビ・ターボ
アウディの内燃機関モデル最高峰「R8」と次世代を担う「e-tron」。両車を富士スピードウェイで検証
アルピナ、最高峰の味。
“最高峰のサルーン”といえば数多のブランドが思い浮かぶだろうが、エレガントさとスポーティを併せ持つという条件ならアルピナが最右翼だ。そのフラッグシップであるB7 ビ・ターボ・・・まさしく最高峰の1台に迫る。
「今どきの自己主張の強いクルマを見慣れた目には、地味にさえ感じる」
アルピナの初体験はもう30年も前のことだ。確か5シリーズベースで3.5リッター直6ターボを積んだ「B7 ターボ」だったと思うが、箱根での取材のお手伝いについていったのが最初である。CG編集部に入りたての頃で右も左も分からない新入りは、ただただ濃密で滑らかで、かつ引き締まったセダンに驚き、こんな世界もあるんだ、とショックを受けたのを思い出す。
2015年創立50周年を迎えた「アルピナB・ボーフェンジーペンKG」は、相変わらず恐ろしく滑らかで汲めども尽きぬようにパワーが湧き出すエンジンを、上質だが控えめな設えのボディに積んだスーパーセダンを造り続けている。その最新作がB7 ビ・ターボである。かつては「B」が6気筒エンジンベースを表し、数字はチューンのレベルを意味していたものだが、現在はそのものずばり、ガソリンエンジンの7シリーズベースのアルピナを示す(ちなみに「C」はスモール6ユニット・ベース。1999年から呼称ルールが変わったという)。
2016年のジュネーブ・ショーで発表されたB7 ビ・ターボは、一見すると600psを超える超高性能セダンには思えない。フロントのエアダム(という言い方も懐かしいが)、ボディサイドのストライプ、そしてアルピナ伝統の繊細な20本スポーク・ホイールが隠しきれない迫力を発しているものの、今どきの自己主張の強いクルマを見慣れた目には、どちらかと言えば地味にさえ感じる。
「凝りに凝った細部にエクストラを払う、いわば“コニサー”向けだ」
スタンダードのBMW 750Liより700万円ほども高いのに、それだけの“威張り”がない、と感じる人にはその端正さが物足りないだろうが、派手さは極力抑えるのがアルピナの流儀である。裏地や縫い目や生地そのものにこだわる人のように、控えめな上質さと凝りに凝った細部にエクストラを払う、いわば“コニサー”向けである。たとえば、上品なデザインのアルミ鍛造ホイール(標準で20インチ!)にはセンターカバーが廃止され、さらにスポーティな印象と共に優美さと軽快感を与えている。
B7 ビ・ターボは、15年に発表された現行G11型BMW 7シリーズがベースモデルである。750iに搭載されている4.4リッターV8ツインターボエンジンは330kW(450ps)、650Nm(66.3kgm)という大パワーを生み出すが、アルピナ B7 ビ・ターボのピークパワーは447kW(608ps)、最大トルクは800Nm(81.6kgm)と超弩級、これはM760Li用6.6リッターV12ツインターボのスペックと事実上同じだ。
「ただ圧倒的に滑らかで、必要な時には川の流れに押されるように加速する」
それを可能にするためにVバンクの中に収められた2基のツインスクロール・ターボはもちろん、インタークーラーを含む吸気系や排気系、冷却系、さらにピストンまでも専用コンポーネントに換装、簡単に言えば別物に作り変えられている。トランスミッションは「スイッチトロニック」と称する8速ATで、強大なトルクに対応すべくZFと共同開発したもの。ステアリングスポーク裏側にマニュアルシフト用のボタンが仕込まれているのもこれまで通りだ。
ノーマルエンジンでもまったく文句がないのだから当たり前だが、B7 ビ・ターボはどんな瞬間でもただ圧倒的に滑らかで、必要な時には川の流れに押されるように加速する。一糸乱れず平穏なためにスピード感が分からなくなるほどだ。
間の悪いことに、山道を登る頃になって降り出した雨が路面を濡らすと、コンフォートモードでほんのちょっと踏み増しただけでも、295/35ZR20という巨大なリヤタイヤが瞬間的にズルッとグリップを失うような状態で、その実力のすべてはとても試せなかった。ちなみにランフラットタイヤを嫌うアルピナがエレガントな20インチホイールを選んだのは、ミシュラン・パイロットスーパースポーツである。決してピリピリと緊張感を強いるようなスロットルレスポンスではないが、実は全領域でスタンダードの750iよりずっと反応は鋭く、ハンドリングもリニアで軽快なおかげで山道でもその巨体を持て余す心配はない。
「石の床の上に敷いた絨毯の上を歩くような、硬い芯がある乗り心地が特徴だ」
アルピナ初というエアサスペンションにアダプティブ・ダンパー、アダプティブ・スタビライザーなど電子制御を満載した乗り心地はひと言で言ってラグジュアリーである。もちろん、以前のアルピナもゴツゴツビシビシ直接的なショックを伝えるような硬派一辺倒ではなかった。当たりはあくまで滑らかだが、力を加えると、石の床の上に敷いた目の詰まった絨毯の上を歩くような、硬い芯がある乗り心地が特徴だった。
それに比べると最新のB7 ビ・ターボは、どこまでもソフトに受け止めてくれる感じがする。そのうえでボディは常にピシッとフラットである。スポーツ・プラス・モードを選ぶか、230km/h以上になると車高が20mm下がるというから(低速では逆に20mm車高を高くすることも可能)、おそらくはそのぐらいの速度域になって初めて、噛むとその奥にしっかりとしたコシがあるうどんのような乗り心地に変化するのだろう。
インテリアは例によってクラシックなウッドパネルと最上級のレザー仕立てである。フルデジタルメーターではアルピナ独自の凝った仕事を見せる場所も限られるだろう、と思ったら、メーターのカラーリングにひと工夫してあった。コンフォートからスポーツ・モードに切り替えると、スタンダードの750iでは赤地になるメーターがブルーとグリーンのアルピナ・カラーに変化する(ついでに6500rpmからのゼブラゾーンが消える)。
「アルピナは相変わらず知る人ぞ知る名店と言うべきだ」
メルセデスAMGはもはや7万台、フェラーリでさえ7000台規模のビジネスを展開している中、アルピナは最大1700台の年間生産能力を拡大しようとはちっとも考えていないらしい。求める人がいるなら少しでも多くの顧客に届けようとするのはビジネスとしての正義かもしれないが、アルピナが一族で守る商売の倫理とは違うというわけだ。
本当は他人に教えたくない、隠れ家のような高級レストランと言いながら、その実宣伝に熱心な店も多いが、アルピナは相変わらず知る人ぞ知る名店と言うべきだ。控えめな行燈だけをひっそりと掲げた路地の奥の名店のようなもの。一見さんお断りではないけれど、どう見ても敷居が高そう。だが勇気を出して客になれば、この上なく心地良い時間が待っているのである。
REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
BMWアルピナ B7 ビターボ ロング
ボディサイズ:全長5250 全幅1900 全高1505mm
ホイールベース:3210mm
車両重量:2130kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4394cc
圧縮比:10.0
最高出力:447kW(608ps)/5750-6250rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/3000-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルトラックコントロール 後5リンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40ZR20 後295/35ZR20
巡航最高速度:330km/h
0-100km/h加速:4.2秒
燃料消費率:7.9km/L(JC08)
車両本体価格:2395万円
※GENROQ 2017年 1月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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