日本のレースファンにとって馴染みのあるところではブランパンGTアジアシリーズやスーパー耐久、そしてニュルブルクリンク24時間といった、多くのレースに出場可能なジェントルマンドライバー向けのレース車両として、目下世界で注目されているのが「GT4」カテゴリーである。市販車からの改造範囲が狭く、それ故に価格は抑えられるが、一方でベース車両の素性の良さが戦闘力に直結するこのクラスにポルシェが投入したケイマンGT4クラブスポーツは、この3年間に世界で421台を販売する優れた実績を残した。
GT4クラブスポーツはPSCJ(ポルシェ・スプリント・チャレンジ・ジャパン)への参戦を前提としたコンペティションモデル(2361万9600円)とブランパンGTシリーズへ参戦するためのFIA GT4モデル(2714万400円)の2モデルが設定されている。ベース車のマイナーチェンジに伴って登場した718ケイマンGT4クラブスポーツは、その進化版だ。大型の固定式リアウイングを装備する外装は、従来よりダウンフォースを大幅に向上。また面白い試みとして、このリアウイングのマウントや左右ドアには、亜麻や麻の繊維などの天然素材を用いたファイバーコンポジット材が用いられている。農業副産物であるこの素材、重量も剛性もCFRPと同等だという。
車体には溶接固定のロールケージ、燃料タンク、ルーフの緊急脱出口などFIA規格に則った装備が追加されており、耐久レースでは欠かせないエアジャッキも備わる。メーターはデータロガー内蔵。クイックリリース式のステアリングホイールは911GT3R譲りで、ピットレーン速度リミッタースイッチもここに置かれる。
FIAなどの規定に準じたロールケージやタイヤ空気圧モニタリングシステム、ピットスピードメーターなどが用意されている。他にもマルチファンクションモータースポーツステアリングなども備えている。キャビン背後にマウントされる水平対向6気筒3.8ℓエンジンは、最高出力が従来より40ps引き上げられ、425psに。トランスミッションの6速PDKはこのエンジンにブッシュなどを介さずリジッド結合されている。サスペンション、ブレーキは当然、レーシングスペックで強化されているが、市販車では標準の車両姿勢制御装置、PSM(ポルシェ・スタビリティ・マネージメント)は廃されず残され、トラクションコントロールと別個にオン・オフできる。タイヤは溝の無いレース用スリックである。
当然ブレーキまわりも大幅に強化。直径380mmのスチール製ブレーキディスクやフロント6ピストン、リア4ピストンのアルミニウム製モノブロックキャリパーを備えている。車両価格が納得できる圧倒的な性能富士スピードウェイを走らせて、思わず唸ったのがその走りの軽快さだ。自然吸気らしくアクセルワークに即応して鋭く吹け上がるエンジンのレスポンスと爽快な伸びが、市販車とはひと味違った6速PDKのカツン、カツンとダイレクトな変速ぶりと相まって、まさに弾けるような加速感に繋がっている。絶対的な速さは特筆すべきほどではないが、この全域での反応の良さは、タイヤが摩耗した時でも、レース中のバトルの際にも有効に違いない。
サスペンションもフロントに911 GT3カップ用という軽量ストラットサスペンションを採用。コンペティションモデルのショックアブソーバーは3段階の調整が可能となっているという。シャシー性能も同様で、やはりフットワークの軽やかさが光る。市販車と同じく911のようなトラクション性能はない代わりに、とにかく俊敏によく曲がる。今回乗った車両は試乗用ということでコーナー進入時のアンダーステアが強めにセットされていたが、それでもきっかけを作って一旦曲がりだしてしまえば、優れた前後バランスを活かして、気持ち良いコーナリングを楽しませてくれた。
レカロ製のレーシングバケットや6点式シートベルトなどその内容はまさにレーシングモデル。それこそ911のようなある種のクセがない操縦性は間口が広いけれど、直線よりもコーナーでタイムを稼がないといけないマシンだから、決して簡単なわけではない。たとえば、その先にポルシェ・カレラカップ・ジャパンへのステップアップを見据えるジェントルマンドライバーの愛機としても、若いドライバーの教習用としても、なるほど最適な1台となりそうである。
リアウイングと2枚のドアには農業副産物の亜麻や麻の繊維を使った有機繊維の混合物を使用。レーシングカーにこうした素材を組み込むのは極めて珍しい。この718ケイマンGT4クラブスポーツは日本ではポルシェジャパンが取り扱っており、プライスリストも用意されている。今回試乗したポルシェ・スプリント・チャレンジ・ジャパン(PSCJ)参戦用の“コンペティション”は、税込み2405万7千円。ブランパンGT、スーパー耐久などに対応する“GT4”は、同2764万3千円となる。
決して安いとは言わないが、ポルシェのレーシングカーには長く楽しめるイベントが用意されているし、それ故にリセールバリューも高い。興味をもたれた方はお近くのポルシェディーラーに問い合わせを。パーツ供給などの各種サポートも含めて相談に乗ってくれるはずだ。
文・島下泰久 写真・ポルシェジャパン 編集・iconic
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