共用空港化に潜む地域格差
茨城空港は2010(平成22)年、航空自衛隊百里基地を活用するかたちで開港した。自衛隊と民間の共用空港としてのスタートだった。
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開港当初、「首都圏第三空港」として大々的に喧伝されたが、定期便の就航はゼロ。政策的な目論見とのズレは大きかった。
茨城県と地元14市町村は1996年に推進協議会を設立し、開港に向けた準備を進めた。しかし、開港後の周辺自治体による支援は、いま振り返れば積極的だったとはいい難い。
第三空港構想の背景には、羽田・成田両空港の過密に加え、自衛隊基地を活用しながら地域振興を図りたいという茨城県の思惑があった。
直通100分の到達困難
定期便ゼロという状態から始まった茨城空港は、その後スカイマークを中心に国内線の路線網が徐々に整備されていった。スカイマークにとっては、すでに多くのライバルがひしめく羽田や成田ではなく、あえて未知の領域ともいえる茨城に活路を見出した格好だ。
しかし、2025年5月時点での発着路線と便数は、羽田が50路線・約500便、成田が19路線・約120便に対し、茨城は神戸・札幌・福岡・那覇の4路線・18便のみ(空港ウェブサイトやJTB時刻表などをもとに集計)。第三空港と呼ぶには、現実との乖離が大きい。
東京から茨城空港までは直通バスで約100分かかる。一方、羽田空港には2本の鉄道が乗り入れ、浜松町からモノレールで最速18分。2031年には新たなアクセス線も開通する予定だ。「遠い」といわれてきた成田空港でさえ、スカイライナーを使えば日暮里から最速36分で到着できる。
交通アクセスの面でも、茨城空港は大きなハンデを抱えている。事実上、第三空港という看板はすでに下ろされた。いま問われるべきは、
「茨城空港は誰のための空港なのか」
「どこから来る利用者を想定しているのか」
という根本的な問いである。
石岡駅経由バスの利便性向上
当初、茨城空港は鉄軌道が直接乗り入れていなかったため、アクセスの切り札として東京からの直通バスを開設した。しかし、2025年5月現在、その運行は週5日で1日2往復のみである。
茨城県はこの路線に補助金を出し、片道500円という低運賃が話題となったが、2020年度に補助を打ち切った。輸送実績も2016年度以降は県から公表されていない。なぜ利用者が少なかったのか。その答えは明白だ。羽田や成田に比べて距離が遠いことに加え、国内線の発着路線が少なく、バスの本数も限られている。さらに鉄軌道に比べて渋滞のリスクもある。
一方で、JR石岡駅から茨城空港へ向かう路線バスの整備は着実に進んでいる。2025年5月時点で、同路線は1日16往復(土日や片道便を含む)運行されている。水戸駅からの直通バス(1日13往復)と並ぶ主要なアクセス路線である。石岡駅前ではバス乗り場や待合室も整備されており、列車到着のたびに大きな荷物を持った乗り換え客が待合室へ向かう。バスは石岡駅前を出発後、旧鹿島鉄道の廃線跡を利用したバス専用道路をしばらく進み、約35分で茨城空港に到着する。
本数や所要時間の面で非常に便利とはいい難いが、東京からの直行バスの“無理筋”感に比べると、常磐線経由のゆるやかな利便性の再設計は概ね成功しているといえるだろう。
首都圏依存からの脱却模索
こうしたアクセスの動きを見ると、茨城空港は首都圏志向から県内志向へと、空港機能の内向きシフトが進んでいることがわかる。茨城県の人口は2024年時点で280万人だ。2000(平成12)年をピークに減少傾向にあるが、人口100万人に満たない県にふたつの空港がある例もある。そう考えると、地方空港として成り立つ母数としては決して少なくない。
もちろん、羽田や成田に近いことから、空港需要の大部分が東京都や千葉県に流出する状況は変えられない。だが、県は北関東3県で700万人、空港半径80km圏で1800万人を茨城空港の周辺人口と見込んでいる。1800万人は大風呂敷だが、地方空港として需要を掘り起こすには十分なマーケットだといえる。
また、茨城県には筑波研究学園都市や鹿島臨海工業地帯など、首都圏の3都県にはない需要の発信源がある。観光面はさまざまにやゆされているが、茨城空港をゲートウェイとすることで需要の掘り起こしに期待できる。
なお、2025年5月現在、茨城空港の国際線は台湾(台北)、中国(上海・西安)、韓国(清州)線がある。2024年の実績では、国内線が65万人に対し、国際線は6万人だ。
ここにも地方空港として独自の需要を掘り起こす余地があるだろう。
ロケ誘致で狙う空港ブランディング
茨城空港に限った話ではないが、空港の利用者は搭乗客や送迎客だけではない。全国各地の空港は、今や地域にとって有力な観光施設や集客拠点のひとつとなっている。離発着する飛行機を眺めるという空港特有の体験に加え、施設内には飲食店や土産物店が並ぶ。宿泊施設や温浴施設を併設する空港も珍しくない。
茨城空港のターミナルビルは決して大きくないが、複数の飲食店や土産物店が営業している。土日祝日にはそれなりの賑わいを見せている。石岡駅前と茨城空港を結ぶ路線バスにも、搭乗客や送迎客以外に、往復乗車券を購入し空港観光を楽しむ目的の乗客が見られた。
また、茨城空港は自衛隊との共用空港であり、その特性を活かして敷地内の公園に航空自衛隊の飛行機を展示している。その一画は、ちょっとした航空公園といった趣だ。非定期の分野でも、茨城空港に限らず、航空ショーなどのイベント開催や修学旅行、スポットチャーター便、ビジネスジェットの誘致といった展開が考えられる。
さらに、茨城空港は羽田や成田に比べて余裕があるため、過去に何度かテレビドラマのロケ地として使われ、大きな話題となった。ロケ地誘致は直接的な需要の多寡よりも、空港の認知度向上やブランディングに直結する。聖地巡りと連動すれば、観光振興にもつながる可能性がある。
茨城空港の旅客数は、開港した2010年度が20万人だった。コロナ禍前のピークである2019年には78万人に達し、緩やかに伸び続けてきた。コロナで一時落ち込んだが、2023年度には75万人まで回復している。
この数字が今後どこまで伸びるかは見通せない。だが、大規模インフラとしての空港ではなく、地元需要を吸収する地方空港としての役割を明確にすれば、その成長余地は十分にあるといえる。
貨物333tが語る空港物流の停滞感
多くの地方空港は、中心市街地から離れた場所にある。そのため、十分な広さの無料平面駐車場を併設している。茨城空港では、3600台分の無料駐車場を確保している。搭乗客や送迎客のためのスペースとしては、明らかに過剰ともいえる台数だ。
もっとも、空港に限らず、道の駅や新幹線の新駅でも潤沢な無料駐車場は集客装置として機能している。地方ではクルマが主な移動手段だ。そのため、駐車場ありきの施設設計が、周辺の多様な需要に波及する行動様式を生む。
しかし茨城空港の場合、現時点では空港周辺の商業施設や物流関連の開発を誘発しているとはいいがたい。石岡駅前から空港へ向かう路線バスの車窓を眺めると、市街地を抜けた先は、さすがに無人地帯とはいえないが、まだまだ開発の余地が感じられる。
茨城空港の貨物取扱は、2015年の上海便就航を機に本格化した。衣類や雑貨などの輸入により、2017年には333tを記録した。しかし、2020年以降、上海便の減便や運休により貨物便は一時休止となった。2025年1月に再開されたものの、取扱量は依然として多くはない。空港周辺に物流施設を誘致するには、まず貨物取扱量そのものを増やす必要がある。ただし逆の発想もある。先に物流施設を整備し、
「倉庫が揃っている空港周辺」
という実績をつくる。そうすることで、結果的に貨物取扱量を呼び込むという戦略も考えられる。
国内線18便の中堅空港像
茨城県は第三空港という看板を完全に下ろしたわけではない。ただ、その意味合いは大きく後退し、実態としては
「マイルドな地方空港」
へと大きくシフトしたといえる。羽田や成田との役割分担が明確でなかったことが、ブランディングの失敗を招いた面もある。
そもそも第三空港という言葉は、空港政策におけるポジションを言語化したものだ。だが、茨城空港に限っていえば、その呼び名はすでに陳腐化しているといわざるをえない。
もっとも、平時のブランディングとは別に、茨城空港には注目すべき要素がある。それは、災害時などの有事に機能するバックアップ空港としての意義である。茨城空港は、県内だけでなく、首都直下地震など広域災害時に、周辺地域の支援拠点となることを目指している。実際、2011(平成23)年の東日本大震災では、羽田空港や神戸空港との臨時便を運航し、緊急支援物資の受け入れなどを行った実績がある。
では、「マイルドな地方空港」とは何か。現在、茨城空港の国内線は1日4路線・18便。地方空港としては、決して大きくはないが、かといって小さすぎるわけでもない。拠点空港ではないが、過疎空港ともいい切れない。その中間的な立ち位置こそが、「マイルドな地方空港」とされるゆえんだ。
第三空港の看板を今後も掲げるかどうかはともかく、これからは
・北関東の地方空港
・バックアップ空港
といった、相対的な役割の位置づけが重要になる。
地方空港政策を揺さぶる市場原理
さらに留意すべき点は、成田第3ターミナルとの競合である。成田第3ターミナルは、主に国内線格安航空会社(LCC)が発着する拠点だ。都心からのアクセスや路線数、便数では羽田に劣る。ただし安さという明確な武器があり、羽田との差別化には一定の成功を収めている。
成田は羽田よりも茨城県に近い。特に茨城県南部のマイカー利用者にとっては、アクセスしやすい空港といえる。茨城空港に発着するスカイマークは、厳密にはLCCではない。とはいえ、成田第3ターミナルを使う国内線LCCとの競合は、羽田発着便以上に起こる可能性がある。
競合か、棲み分けか――。この問題は、空港政策という行政の領域にとどまらない。民間航空会社同士の競争という側面も大きく、今後の動向を注視する必要がある。
地方空港の運営主体は、一部を民間に委ねてはいるが、基本的には都道府県である。第三空港から「マイルドな地方空港」へとシフトした現在、その運用方針を決めるのも茨城県だ。
多くの地方空港では、インバウンド需要の取り込みや、国内線利用の拡大を狙い、LCCの誘致を積極的に進めている。しかし国際線はもともと不安定な要素が多く、国内線もLCCゆえに収益ラインが厳しい。短期間で運航停止に追い込まれた路線も少なくない。
茨城空港に限らず、地方自治体とLCC各社の駆け引きは、今後もしばらく続くとみられる。茨城空港はこのまま、ゆるやかに成長を続けるのか。それとも、静かに限界を迎えるのか。
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みんなのコメント
東京まで500円をやってる間は石岡まで650円もするのに東京だと500円とかふざけた価格設定になって反感を買っていたのを知らないのか
実は柏・我孫子・松戸周辺だと成田や羽田に行くのとさほど変わらない運賃と時間で、基本的に通勤ラッシュとは逆方向に向かうため石岡まで意外と楽に移動が出来る
つくばという大きな需要もそうだが「対千葉県東葛常磐線エリア」に向けて開港してから一度でもプロモーションしただろうか?
アントラーズもホーリーホックもロボッツも対東京のアクセス案内はあるが対県南、つくば(ロボッツはチーム発祥の地な故に案内しているが)からの集客が必要だと思う。
成田発より台湾や韓国行きLCCだと空いている分安いとか、札幌行ならスカイマークも羽田発より安いとか繁忙期も取りやすいのに