ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、メルセデスがアルピーヌF1チームの株式取得を一時検討したことに関連し、ひとつの企業が複数のF1チームを所有することは果たして公平といえるのか、という問題に目を向けた。
────────────────
メルセデス、アルピーヌF1チームの株式取得計画を断念。高すぎる提示価格と複数チーム所有問題が理由か
アルピーヌF1チームの株式24%を現在のオーナーであるアメリカの投資グループ、オトロ・キャピタル(複数の米国セレブが関与している)が売りに出しており、メルセデスがそれを購入することに関心を持っているという話が、数カ月前から注目を集めていた。ルノー・グループは残る76%を保有しているが、伝えられるところによれば、こちらは売却対象ではないという。
結局、メルセデスは株式購入を断念したと伝えられたが、そもそもライバルチームの株式を取得することに興味を持った理由は何か。それは、舞台裏での政治的駆け引きにおいて味方を得るためであり、さらに、メルセデス育成ドライバーをアルピーヌのレースシートに送り込む機会を得るためだったかもしれない。もちろん、現在アルピーヌがメルセデス製エンジンを搭載していることも無関係ではない。
■複数チーム保有に理解を示すブリアトーレの過去
アルピーヌのエグゼクティブアドバイザーであるフラビオ・ブリアトーレは、メルセデスが24パーセントの株式を取得することに、何も問題はないと述べていた。
「レッドブルは、すでにこの10年から15年にわたって(F1で2チームを保有することでの)先駆者だった」
ブリアトーレの考え方は驚くべきものではない。1994年、彼はベネトンのチーム代表を務めていた際、フランスのリジェ・チームの過半数株式を取得した。さらに1996年12月には、ブリアトーレが率いるコンソーシアムがミナルディの株式を取得している。つまり1996年冬の時点で、彼はベネトンのチーム代表であり、リジェのオーナーであり、さらにミナルディの共同オーナーでもあった。
ブリアトーレは1997年2月にリジェをアラン・プロストへ売却し、その年の後半にはミナルディの株式をガブリエーレ・ルミに売却した。
■レッドブル体制が象徴する“2チーム所有”の影響力
メルセデスによるアルピーヌ株式取得の噂は、根本的な疑問を提起した。すなわち、あるチームがライバルチームに対して直接的な影響力を持つべきなのか、という問題である。
しかしこの問いは、本来20年以上前に提起されるべきものだった。
2005年、レッドブルはミナルディを買収し、トロロッソ(現在のレーシングブルズ)へ改称した。それ以来20年以上にわたり、レッドブルは2チームを所有し、さまざまなメリットを享受してきた。
技術やコンポーネントに関しては、明確なルールが存在する。F1レギュレーションには、2チーム間でどの程度、どのように協力できるかについて詳細な条項が盛り込まれている。
コース上において、2チーム所有による明確な利益が存在する証拠はない。確かに、トロロッソ/アルファタウリ/レーシングブルズのドライバーが、レッドブル所属ドライバーを助けたと思われる場面はあった。しかし、それが明白だったことはなく、FIAスチュワードによって問題視されたこともない。その点において、レッドブルはF1レギュレーションに違反していない。
しかし、レッドブルは、長年2チーム(全グリッドの20%)を保有することで、F1政治の舞台で大きな影響力を持つ存在となってきた。レッドブルの2チームは、FIAのF1委員会において常に同じ投票行動を取る。他チームを完全または部分的に所有することが、舞台裏での権力拡大につながることは疑いない。
■エンジン供給と育成制度が生む関係
レッドブル/レーシングブルズは、競争相手同士が互いに影響を及ぼしている最も分かりやすい例だ。しかし、エンジンサプライヤーもまた、カスタマーチームに対して一定の影響力を持っている。
ドライバーは多くの意味でチームにとって最も重要な存在だが、それでもなお、あるチームが競合チームのドライバー人事を多かれ少なかれ左右することは完全に容認されている。例をいくつか挙げよう。
フェラーリは2018年、シャルル・ルクレールのF1デビューをアルファロメオ/ザウバーで実現させ、その後、彼の後任には別のフェラーリ育成ドライバーであるアントニオ・ジョビナッツィが起用された。また、元フェラーリ育成のオリバー・ベアマンが現在ハース・フェラーリで走っているのも偶然ではない。
メルセデスは、2016年に自らのカスタマーチームであるマノーからパスカル・ウェーレインをF1デビューさせるうえで重要な役割を果たした。さらに2019年から2021年にかけて、メルセデス育成のジョージ・ラッセルは、長年メルセデスのカスタマーであるウイリアムズでF1の修行を積んだ。
2020年サクヒールGPを前にルイス・ハミルトンが新型コロナウイルス陽性となった際、メルセデスはわずか数時間前の通知でウイリアムズからジョージ・ラッセルを引き抜いた。そして空席となったウイリアムズのシートにはルーキーのジャック・エイトケンが起用された。これは、あるチームがライバルチームを直接弱体化させ得ることを示す明確な例である。
■ドライバーマネジメントにも及ぶチーム間の複雑な利害
原則論としては、チーム代表が他チームのドライバーに影響力を持つことも問題である。透明性が重視される現在のF1においては、例えばメルセデス代表トト・ウォルフが、今もバルテリ・ボッタス(キャデラック)やエステバン・オコン(ハース)に対して利害関係を持っているのかどうかは、明らかにされるべきだろう。また、アルピーヌのフラビオ・ブリアトーレが、アストンマーティンのドライバーであるフェルナンド・アロンソのマネジメントにどのように関与しているのかも同様である。
他チームにマネジメント上の利害関係を持っているのはチーム代表だけではない。アロンソ自身、ドライバーマネジメント会社『A14マネジメント』の創設者のひとりであり、同社はアウディ所属ドライバーのガブリエル・ボルトレートのキャリアを支援している。
つまり、本来は競争相手であるはずの2チームが協力関係にある例は数多く存在するのである。しかも、この慣行は一般的に受け入れられている。それは問題ないのだろうか。
■「健全ではない」――マクラーレンが突きつけた問題提起
マクラーレンのCEOザク・ブラウンによれば、答えは「ノー」である。彼は最近、FIA会長モハメド・ビン・スライエム宛に6ページに及ぶ強い調子の書簡を送り、チーム間の提携関係を排除するよう求めた。
なお、ブラウンは、この書簡がアルピーヌ/メルセデスやレッドブル/レーシングブルズを直接攻撃するものではないと強調している。
「これは特定のチームや個人を狙ったものではない。誰にでも当てはまる問題だ。Aチーム/Bチーム体制や共同所有について、相手が誰であれ私は好ましく思っていない。スポーツにとって健全ではないと考えている」
欧州連合(EU)の最高政治機関である欧州理事会も、マクラーレン代表の考えに同意しているように見える。2000年の欧州理事会の声明には、次のように記されている。
「欧州理事会の見解では、同一競技・同一大会に参加する複数のスポーツクラブを単一主体が所有、あるいは財政的支配を行うことは、公正な競争を損なう可能性がある。必要に応じて、スポーツ連盟にはクラブ運営を監督する仕組みを導入することが推奨される」
欧州理事会の声明に法的拘束力はない。F1やFIAが欧州理事会に従う義務もない。しかし、この声明は明確な政治的メッセージを発している。
本来はライバル関係にあるはずの2チームが裏で協力しているのではないかという疑念が生じるなら、その状況がF1というスポーツの素晴らしいイメージを損なう要因になることは間違いないだろう。
[オートスポーツweb 2026年06月05日]
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
アストンマーティン・ホンダAMR26は失敗作なのか? ニューウェイ作の”お蔵入り”マシン、マクラーレンMP4-18との共通点
ホンダF1、PU性能改善の時期見通しを示す「2027年中か2028年にはトップの競争相手になりたい」
【独自】角田裕毅、インディカーのメイヤー・シャンクと交渉中。チーム側は「あらゆるカテゴリーのドライバーと話をしている」とコメント
市街地レースはMotoGPの進むべき方向!? 「ほかの開催地がアデレードの例に続くことを願っている」と名将ブリビオ
ウェーレインは「本当に汚い動き」でフォーミュラE王者になった! タイトル争うライバルに故意に追突したとダ・コスタが批判
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!
みんなのコメント
この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?