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「マイカー大国」九州の悲劇? なぜ鹿児島市の道路混雑度は68%に達したのか──年間410億円の経済損失が示す財政・政策・都市設計の“三重苦

掲載 更新 11
「マイカー大国」九州の悲劇? なぜ鹿児島市の道路混雑度は68%に達したのか──年間410億円の経済損失が示す財政・政策・都市設計の“三重苦

九州都市部に拡がる兆候

 2025年5月1日、鹿児島市は年間の経済損失額が410億円に上ると発表した。県庁所在地としては「全国ワースト1位」の道路混雑度が、地域経済に深刻な影響を与えている。

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 鹿児島市の人口は約58万人。ひとりあたり年間約7万円の損失が生じている計算だ。市の2024年度予算(約5142億円)と比較すると、約12.5%に相当する。

 混雑による経済損失は鹿児島市だけの問題ではない。他の九州地方の県庁所在地でも、以下のような損失額が報告されている。

・那覇市:約1455億円(2023年発表)
・熊本市:約1764億円(2024年発表)
・福岡市:約1106億円(昼12時間換算、2023年発表)

那覇市や熊本市では市街地の慢性的な渋滞が続き、福岡市も九州最大の都市として交通量が集中している。県庁所在地クラスの都市では、渋滞による経済的ロスが共通課題となっている。

 とはいえ、抜本的な解決策を導くのは容易ではない。だが、多額の経済損失を放置することもできない。今後、各都市が直面する課題を整理し、渋滞緩和の可能性を探る必要がある。

人口減と車依存が生む悪循環

 渋滞と聞くと、首都圏や関西圏といった大都市圏を思い浮かべがちだ。しかし、実際には地方の中枢都市でも、平日の朝夕や週末などを中心に日常的な渋滞が発生している。

 背景には、地方都市における公共交通の脆弱さがある。多くの地域で鉄道やバスの本数が減少しており、十分に機能しているとはいい難い。人口減少が進むなか、利用者の減少によって便数の削減や路線の廃止が相次いでいる。

 その結果、住民は自家用車に頼らざるを得ず、道路の交通量が増加。慢性的な混雑につながっている。九州地方3県の1世帯あたりの自動車保有台数は以下のとおりだ。

・鹿児島県:約1.18台(全国33位)
・熊本県:約1.30台(全国22位)
・沖縄県:約1.28台(全国23位)

全国平均は約1.03台であり、3県はいずれもこれを上回っている。なお、全国平均を下回っているのは、東京都・大阪府・愛知県・京都府・兵庫県・埼玉県・千葉県・北海道の8都道府県のみだ。いずれも大都市を抱えており、自動車依存度が相対的に低い。

 さらに鹿児島市の場合、地形的な制約も大きい。市域は桜島や周囲の山々に囲まれ、南側は鹿児島湾に面している。都市設計に自由度が乏しく、道路の本数も限られる。そのため幹線道路への依存が高くなり、局所的な渋滞が起きやすい構造になっている。

 県庁所在地には、県庁や裁判所、市役所といった行政機関が集中している。加えて、大学や病院などの大規模施設も集まる傾向にある。多様な目的の施設が集積すること自体が、県庁所在地の役割といえる。

 そのため、平日の日中には人口が集中しやすく、それが渋滞の一因となっている。公共機関を周辺地域に分散させることは、混雑緩和の手段として有効だ。しかし、県庁所在地に集約されているからこその利便性もあり、単純な分散は難しい。

 さらに分散を進めるには、土地や費用といった新たな課題も生じる。理想は段階的な移行だが、地域全体のバランスを見極めながら、慎重に政策を進める必要がある。

移動停滞が招く経済損失

 鹿児島市だけでなく、九州地方の県庁所在地では市街地の渋滞が深刻だ。2022年度の都道府県庁所在地別・市街地部における混雑度の高い道路の割合をみると、以下のような結果となっている。

・鹿児島市:68%(全国1位)
・大分市:33%(全国10位)
・長崎市:30%(全国13位)
・那覇市:27%(全国17位)
・佐賀市:25%(全国20位)

鹿児島市のように、各方面から交通が集中する都市では混雑度が高まり、幹線道路の渋滞が常態化する。

 では、この渋滞は地方経済にどのような影響を及ぼすのか。最大の問題は、労働力の低下である。道路の混雑により通勤や業務移動に時間を取られ、生産活動に費やせる時間が減少する。その結果、ひとりあたりの労働時間が短くなり、間接的に事業コストの上昇にもつながる。

 物流面でも影響は大きい。本来の到着時間が遅れることで、商業活動や商品流通に支障が生じる。例えば台風や大雪の際には、物流が止まり消費や産業に混乱をもたらす。渋滞の影響はそこまで極端ではないが、日常的に同様の支障を引き起こしている点は見逃せない。

 さらに、観光業への影響も無視できない。観光に力を入れる地方都市が増えるなか、交通混雑は観光体験の質を下げる。限られた滞在時間のなかで、混雑のために本来訪れたかった場所を諦めざるを得ないケースもある。観光消費の機会損失は、地域経済にとって痛手となる。

地方財政に迫る交付税の限界

 渋滞緩和に向けた対策のなかで、まず想起されるのは道路インフラの整備である。バイパス建設や立体交差化は物理的な解消手段として効果が見込まれるが、その実行には

・用地取得
・地元合意
・環境評価

といった多段階のプロセスがあり、構想から完成まで十年以上を要する事例も少なくない。初期投資が大きく、財政負担の継続性も問われる。こうした構造的制約から、短期的な対症療法としては機能しにくい。

 対照的に、一部の自治体では移動手段の転換を通じたアプローチが試みられている。公共交通の利用促進や自転車インフラの整備がその一例だが、都市構造や地形条件が選択肢を大きく左右する。

 例えば鹿児島市のように急峻な坂が多く、年間を通じて降水量が多い地域では、徒歩や自転車での移動が持続的な選択肢になりにくい。これに加え、地方の公共交通は採算性の問題から輸送能力を縮小しており、ダイヤの密度も都市部と比較して著しく低い。

 バスや鉄道が日に数本しか運行されていない地域もある。利用頻度が低いため運行本数が減り、さらに利用が減るという負の循環に陥っている。地方における移動の実態は、個人所有の車両が実質的な唯一の手段となっており、この構図を短期間で逆転させるのは困難である。

 そのうえで問題となるのは、インフラ整備に要する財源の確保である。中央政府からの交付税や補助金に依存する地方財政において、新規インフラ投資は義務的経費の残余でしか賄えないことが多い。2024年度の鹿児島市の地方交付税は約370億円。これに対して、教育、福祉、災害対策といった基礎行政機能の維持に多くが割かれており、新たな道路整備に資金を回す余地は限定的である。

 しかも渋滞による社会的コストは、明確な金額で換算しにくい。例えば

・物流の遅延
・人件費の無駄
・企業活動の効率低下

といった影響は存在しても、税収への即時的な影響としては可視化されにくい。このため、行政内部でも費用対効果の評価が曖昧になりがちで、結果として優先度は低下する。

 加えて、既存の道路整備は政治的利害とも密接に絡む。新たな幹線道路の建設は住民や事業者との調整を伴い、地元選出の議員の影響力が色濃く反映される場合もある。つまり、制度上の問題だけでなく、政策決定プロセスそのものにも制約がある。

勤務時間分散による渋滞緩和

 その一方で、都市構造に着目した再配置の発想は、有力な代替策となり得る。多くの県庁所在地において、

・行政機関
・医療施設
・教育機関

などが中心市街地に過度に集中している現状は、車での移動を前提とした構造を強化してしまっている。施設の機能的分散によって人の流れを拡散させれば、道路への負荷も相対的に下がる。

 ただし、この拠点分散は既存の土地利用や交通結節点との整合性を要し、単純な転居や再開発で実現できるものではない。コストを抑えるには、既存施設の転用や時間帯別の機能分化といった柔軟な運用も必要である。

 また、行動の分散を図る手段として注目されるのが勤務時間の調整である。テレワークや時差出勤といった選択肢は、設備投資をともわずに渋滞の集中を緩和できるため、費用対効果の面でも優れている。

 とりわけ鹿児島市では、テレワークの導入と並行して時差出勤の普及が進んでおり、特定時間帯の交通量を抑制する効果が確認されている。企業の協力が前提となるが、通勤時間の分散は労働生産性や従業員満足度の向上にもつながる。

 つまり、移動コストの低減が、就業環境全体の最適化にも波及するという構造的な利点を持つ。このような取り組みは、単なる交通施策ではなく、都市運営全体の効率性を高める試みと位置づけるべきである。

利用者・管理者共通意識

 渋滞問題では、利用者も管理者も自分だけでなく周囲にも影響が及ぶという意識を持つことが重要だ。利用者と管理者がお互いの立場を理解し、行動することがカギとなる。

 利用者は渋滞をつくらない運転や行動を心がける必要がある。例えば時差出勤のほかに、以下のような工夫が求められる。

・上り坂で速度を落としすぎない
・渋滞や混雑している道路を避ける
・事故や工事などの交通情報をこまめに確認する

ひとりひとりの意識と行動が渋滞緩和につながる。

 管理者側は渋滞対策を利用者任せにしがちだが、それだけでは不十分だ。鹿児島市のように渋滞による経済損失を試算し、予算に応じた対策を講じることが求められる。渋滞解消には、小さな改善から長期的な計画まで、可能な限り手を打つことが第一歩となる。

 渋滞にはネガティブなイメージが強い。しかし、交通量が多いことの裏返しともいえる。つまり、経済効果を伸ばす潜在力があるとも考えられる。これをどう活かすかが、地方都市の今後の発展に大きく影響するだろう。

 また、渋滞のもうひとつの問題は、所要時間が読みづらいことだ。運転中に次のような経験をすることが多い。

・渋滞を予想し早めに出発したが、順調で思ったより早く到着した
・予想外の渋滞に巻き込まれ、大幅に遅れてしまった

この時間の読みづらさは、現状の大きなデメリットである。今後はこの確実性を高めることも課題となるだろう。

中心地集積の活用戦略

 地方都市の渋滞問題は、目に見えにくい要素が多く、後回しにされがちだ。しかし、現状では大きな経済損失を招いており、住民の生活の質に直結する課題であることを認識すべきだ。

 地方都市の多くは自治体運営に経済的な困難を抱えている。それでも各都道府県の中心地には人が集まっているのも事実だ。これをどう活かすかが今後の重要なポイントとなる。

 まずは利用者と管理者がお互いを尊重し合うことが必要だ。利用者は国や自治体の動きや情報に敏感に反応し、適切な行動をとることが求められる。

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みんなのコメント

11件
  • わっち
    鹿児島に住んでいたことがありますが、はっきり言って道路の作り方が下手です。


    車線(右折・左折レーンなど)、信号、幹線道路… ちょっと変えるだけで車がスムーズに流れそうな場所がいっぱいあります。

    警察、行政の交通計画が大きな原因だと思います。
  • Sato
    15年もすれば1400万人人口が減るとの予測もある対策も必要だがバランスをとることも大事
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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