はじめに
もはや量販メーカーは、大排気量エンジンを小型車に積む余地があるとは考えていないようだ。ただし、例外はある。
脱炭素化に対し、常に洗練されたマルチソリューションなアプローチを提唱してきたマツダは、いっぽうでまったく違う方向性のパワートレイン戦略も、ひっそりと手がけてきた。2022年には、中型SUVのCX-60を発表するにあたり、新開発の直6ターボディーゼルを投入している。
同じ年、直3ターボを導入してくる競合モデルもある中、売れ筋モデルのCX-5に2.5L直4自然吸気ガソリンを積んだ。
この独創的なエンジンの適正サイズ化は続いていて、Cセグメントのハッチバックであるマツダ3と、クロスオーバーのCX-30は、2025年モデルの装備内容を多少アップグレードするとともに、従来2.0Lだったエンジンを2.5Lへ変更した。
はたして、この手のクルマで過給化せず排気量拡大することに正当性は見出せるのだろうか。
意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆
2019年に登場したCX-30は、マツダが提案する理想的なサイズのクロスオーバー・ハッチバックだ。現行マツダ3と並行して開発されて同じ年に登場し、全長は4.4mほど。このクラスの基準に照らすと、全高は低めだ。
そのため、ライバルひしめく欧州CセグメントSUV市場にあって、今どきのSUVと一括りにしにくいところがある。ヴィジュアル的な軽快さに、われわれが予想した以上のスペースとバーサタイル性がうまく組み合わされている。
プラットフォームはフルにスティール素材のスカイアクティブ・スモールで、サスペンションはこのクラスでは標準的な、フロントが独立式でリアがトーションビームという組み合わせ。フロント横置きの4気筒は、6速のMTもしくはATを介して前輪を駆動する。
4WDは電子制御式パートタイムシステムのi−AWDで、2.0Lの上位機種に設定される。
興味深いのは下位機種のエンジンだ。これまでエントリーグレードは123psの2.0L e−スカイアクティブGだったが、2.5L自然吸気に変更。最高出力は140ps/5000rpm、最大トルクはおよそ10%増しの24.3kg-m/で、発生回転数は700rpm下がった。
マツダによれば、シリンダーの拡大で平均的な燃焼温度が下がり、燃焼コントロールの効率が上がったという。よりパワフルな2.0L e-スカイアクティブXのSCCI燃焼コントロール技術は採用されないが、24Vマイルドハイブリッドやアクティブ気筒休止を備え、リーンバーンでの巡航時には実質的に1.3Lの2気筒となる。
内装 ★★★★★★★★★☆
着座位置はあまり高い感じがせず、頭上空間は高さがあり、より実用的な5ドアハッチバックといった印象だ。荷室もそこそこのサイズで、前席は快適で広いスペースがある。後席は子どもや小柄な大人なら十分だが、ホンダ・シビックやスコダ・オクタビアには敵わない。若いファミリーや子育てを卒業した世代をターゲットとした、必要十分なクルマといったところだ。
テスト車のキャビンはダーク系で、ビジネスライクな雰囲気だが、マテリアルの質感は手触りがみごとで、使いやすさもよく考えられている。タッチ画面偏重ではない。空調やオーディオ、ナビとインフォテインメントにも実体コントロールが残されている。いまや、タッチ画面を操作系の基礎としないクルマは珍しい。
ステアリングホイール右側には、実体ボタンを設置。アイドリングストップやトラクションコントロール、パーキングセンサー、ADASのいくつかを素早く簡単に切ることができる。
マツダの細かい気配りは、アナログメーターの鮮明さや読みやすさ、二次的な操作系も内容や位置ばかりでなく、手応えや高価そうなフィールにも及んでいる。ウインカーとワイパーのレバーにも、フィードバックの感触にクオリティのよさがあって心地よく、ウインカーの作動音もソフトになっている。どことなく、00年代のフォルクスワーゲンを思わせるところがある。
マルチメディア ★★★★★★★★★☆
10.3インチのマルチメディア画面は、多数派である類似のシステムとは異なり、センターコンソールのロータリー式コマンダーで操作する。旧式のテクノロジーに思えるかもしれないが、この操作系のありがたみをすぐに知るところとなるはずだ。システムメニューが選びやすく、扱いにくい画面のアイコンへ手を伸ばす必要はなく、路上から1秒と目を離さずに済むからだ。
ネットワークやストリーミングといった点については他社のシステムほど充実していないが、使いやすく、重要な機能はすべてカバーしている。ナビの目的地送信など、スマートフォンアプリのマイ・マツダでリモート操作できる機能もある。
ワイヤレスミラーリングは、AppleにもAndroidにも対応。ワイヤレス充電もできる。
走り ★★★★★★★★☆☆
英国で、大きめの排気量の4気筒を積む量販ファミリーカーが一般的だったのはかなり昔の話。それらは概してうるさく、粗いクルマだったが、今回のCX−30はそうではない。
24Vマイルドハイブリッドの効果は間違いなくあり、普通に走らせていれば、2.5Lのパワートレインはすばらしくスムースで静かだ。元気に走っても暴れるような感じはなく、思い切りスロットルを開けてもラフさはほんのわずかで、高回転でも予想するほどノイズは大きくならない。非常にマナーのいい走りを見せる。
実用トルクが増した上に、マイルドハイブリッドを備えるおかげで、エンジンはどこまでもクリーンにクルマを走らせる。精力的な走りも、回転数に依存するものではない。活発というほどではないにせよ、中回転域でかなり力強い感じがするし、5000rpmあたりまでよく回り続ける。ただし、それ以上では勢いが落ちてくるので、回転を上げずに変速することになるのが、自然吸気のガソリンエンジンとしては奇妙な感じだ。
0−100km/hの公称値は9.7秒。だが、湿った路面で、ハイブリッドのバッテリーが尽きた状態で計測したもっとも遅いタイムでも1秒、最速タイムは2秒近く、マツダのデータより速かった。
24Vマイルドハイブリッドのアシストが最善のペースをもたらすのは短時間のみで、すぐに力尽きる。その上、充電量や、ブーストがどれくらい使えるのかメーター表示されないのは、ちょっと歯がゆいところだ。
操舵/乗り心地 ★★★★★★★★☆☆
低速でのパワーステアリングや、MTのシフトフィールは、手応え十分で人馬一体感が味わえる。この身が詰まったソリッドな感触は、比較的コンパクトな量販車からはどんどん消えていっているものだ。
時折、シフトレバーをローからセカンドへ入れる際に、クラッチペダルを1秒ほど踏み込んでおく必要がある。また、とくに駐車の際には、一般的なクロスオーバー・ハッチバックより操舵力が求められる。とはいえ、どちらもデメリットになるほどではない。むしろ、クルマがドライバーにコミュニケーションを図っているようで、真剣に運転する気にさせてくれる。
マツダが念入りに走りを煮詰めたと思わせるのが、公道を走ると無駄な硬さや神経質さを感じさせないことだ。ステアリングの速さはほどほどで、穏やかな感触や精確さ、直観的なところが失われることはない。低速でも高速でも快適な乗り心地で、引き締まった一体感のあるフィールがソワソワした感じを生むのは市街地くらい。それも、たまにのことだ。
18インチホイールと、パフォーマンス志向ではない55タイヤは、よほど荒れた舗装でもなければ、ほぼ穏やかな乗り心地を保ってくれる。グリップレベルはまずまずで、もうちょっとだけ高くてもよかったかもしれない。
ボディコントロールは十分に爽快で、ハンドリングレスポンスは適切で素早く、速めのコーナリングでも路面にあまり影響を受けない。そのため、安定していてブレることなく、グリップはそうあるべきようにフロントから先に限界を迎える。ただし、コーナーでの粘りやバランスを見せる前に、だが。
コミュニケーションは豊かで、グリップの状態をはっきり伝えてくれる。この手のクルマでは珍しい。
購入と維持 ★★★★★★★★☆☆
英国での価格は2万5000ポンド(約473万円)をわずかに超えるくらいからはじまり、最上位のe−スカイアクティブXタクミi−AWDは3万8000ポンド(約718万円)近い。少なくとも車両価格だけなら、トヨタC−HRやフォルクスワーゲンTロックといった直接の競合になりそうなモデルより、フォード・プーマのほうが接近している。
燃費計測の結果は、平均が14.3km/L、ツーリングで16.0km/L、日常使いで17.1km/L。このクラスで最良とはいかなかった。とはいえ、許容できないとか、排気量拡大が悔やまれるとか、そこまで悪いわけではない。
スペック
エンジン
駆動方式:フロント横置き前輪駆動
形式:直列4気筒2488ccターボチャージャー、ガソリン
ハイブリッドアシスト:24V、ISG
バッテリー:0.22kWh
最高出力:140ps/5000rpm
最大トルク:24.3kg-m/3300rpm
馬力荷重比:99ps/t
トルク荷重比:17.3kg-m/t
エンジン比出力:56ps/L
ボディ/シャシー
全長:4395mm
ホイールベース:2655mm
オーバーハング(前):915mm
オーバーハング(後):825mm
全高:1540mm
足元長さ(前列):最大1080mm
足元長さ(後列):690mm
座面~天井(前列):最大980mm
座面~天井(後列):950mm
積載容量:430-1406L
構造:スティール、モノコック
車両重量:1407kg(公称値)/1422kg(実測値)
抗力係数:-
ホイール前・後:7.0Jx18
タイヤ前・後:215/55 R18 95H
ブリヂストン・トランザT005A
変速機
形式:6速MT
6速・70/80マイル/時(113km/h/129km/h):2256rpm/2578rpm
燃料消費率
AUTOCAR実測値:消費率
総平均:14.3km/L
ツーリング:16.0km/L
日常走行:17.1km/L
動力性能計測時:7.2km/L
メーカー公表値:消費率
低速(市街地):-km/L
中速(郊外):-km/L
高速(高速道路):-km/L
超高速:-km/L
混合:16.7km/L
燃料タンク容量:-L
現実的な航続距離:727km(平均)/816km(ツーリング)/871km(日常走行)
サスペンション
前:マクファーソンストラット/コイルスプリング、スタビライザー
後:トーションビーム、トレーリングアーム/コイルスプリング
ステアリング
形式:電動機械式、ラック&ピニオン
ロック・トゥ・ロック:2.8回転
最小回転直径:11.4m
静粛性
アイドリング:40dBA
全開時(3速):75dBA
48km/h走行時:59dBA
80km/h走行時:64dBA
113km/h走行時:68dBA
発進加速
テスト条件:湿潤路面/気温4℃
0-30マイル/時(48km/h):2.8秒
0-40(64):4.3秒
0-50(80):5.9秒
0-60(97):7.6秒
0-70(113):10.3秒
0-80(129):13.6秒
0-90(145):17.2秒
0-100(161):25.9秒
0-402m発進加速:16.1秒(到達速度:142.3km/h)
0-1000m発進加速:-秒(到達速度:-km/h)
0-62マイル/時(0-100km/h):8.0秒
30-70マイル/時(48-113km/h):7.6秒(変速あり)
30-70マイル/時(48-113km/h):13.7秒(4速固定)
ドライ制動距離
30-0マイル/時(48km/h):8.2m
50-0マイル/時(64km/h):23.5m
70-0マイル/時(80km/h):46.3m
60-0マイル/時(97km/h)制動時間:2.50秒
ウェット制動距離30-0マイル/時(48km/h):9.5m
50-0マイル/時(64km/h):26.5m
70-0マイル/時(80km/h):53.9m
60-0マイル/時(97km/h)制動時間:2.86秒
結論 ★★★★★★★★☆☆
マツダCX-30は、ありふれたコンパクトなファミリーカーではない。もちろん、いい意味でだ。高級SUVのサイズダウン版を目指したクロスオーバーのような、無気力で無感覚なクルマではないのだ。
万能性や便利さだけではなく、限定的だが実のある野心を感じさせるクルマだ。パフォーマンスにもハンドリングにも、そこそこエネルギッシュさや痛快さがあり、運転が楽しく、ドライバーに寄り添ってくれる。
しかも操作性にも優れ、質感も高く、デザインも魅力的な一台だ。
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みんなのコメント
PM規制の厳しさから考えると大排気量でパワーを出さないのが吉
またカタログスペック用の「アクセル全開領域」の数値は捨て、実用領域であるスロットル開度1/6~1/2辺りの効率を重視するとこれまたある程度の排気量が必要になる