G20型のBMW 3シリーズツーリングをベースとしたBMWアルピナモデル「D3 S」が日本へ導入され、試乗する機会を得た。ハンドルを握りながらアルピナが調律したディーゼルエンジンの世界にひたった1日だった。(Motor Magazine2021年5月号より)
高級さと快適さを追求するアルピナブランド
BMWのハイパフォーマンスモデルと言えば、Mモデルとアルピナがすぐに思い浮かぶが、その性格はまったく異なっている。Mモデルは、モータースポーツからの技術的なフィードバックなど、そのままサーキットにも持ち込めるピュアスポーツマシン。そしてアルピナは、究極のラグジュアリーを追求したモデルと言えるだろう。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
こだわりは速さよりも高級と快適性にある。またM3やM5にディーゼルエンジンはないが、アルピナにはD3 SやD5 Sがあることも、そのクルマづくりの思想の違いからくるものだろう。
アルピナは、50年以上にわたり高性能モデルを作り続けている。アルピナマジックと表現されるほど、まるでクルマに魔法をかけたように感動的な乗り心地が味わえるのが特徴だ。それは年間1700台という少ない生産台数だから実現できることでもある。
希少価値に加え、まるで精密機械に乗っているような完成度に根強いファンも多い。近年ではSUVの展開も積極的で、XD3やXD4、そして3月25日には、XB7がジャパンプレミアを果たしている。
これまでアルピナのガソリンエンジンモデルにも試乗しているが、高回転までまったくストレスなく一気に回り切るエンジンという印象。それがディーゼルになるとどうなるのか。XD3もXD4には試乗しているが、それがリムジン(アルピナはセダンをこう呼ぶ)やツーリングではどうなるのだろうか、とても興味深い。
日本の公道でD3 S本来の性能は解き放てない
世界的にディーゼルエンジンが減少している中、今回試乗したDS 3やD5 Sは貴重な存在と言えるだろう。長距離を走るユーザーはディーゼルを好む人も多く、アルピナはユーザーのそうしたライフスタイルに応えているのだろう。ラインアップを見ると現在10モデル中6モデルがディーゼルエンジンモデルである。今後もこうした状況は続くと見られる。
走り出してすぐにアルピナのディーゼルエンジンが実に気持ち良く回ることを実感できた。レスポンスも素晴らしくディーゼルのネガがまったく感じられない。ひとつひとつのパーツの精度の高さが感じられ、まるで精密な機械式時計のような感性を持つ。
搭載するのは3L直6ディーゼルツインターボエンジン。最高出力355ps、最大トルクは、なんと730Nmもある。ディーゼルエンジンで気になる高回転域での頭打ち感が少なくアクセルペダルを踏み増したときのタイムラグも感じることなく即座に反応する。
アルピナ初採用となる48Vマイルドハイブリッド技術も採用され、効率がさらに向上している。制動時のエネルギーは、48Vバッテリーに蓄えられ、ベルト駆動式のスタータージェネレーターを介して駆動力として再利用でき、最大8kW(11ps)の回生電力を瞬時に活用できるという。
ワインディングロードでは、アルピナの本領のほんの一部を解き放つだけでいい。本来持つパフォーマンスをすべて使い切ることは日本の公道では無理だ。サーキットに持ち込めば可能だろう。駆動方式はxDriveをベースにアルピナ流に開発された4WDとなる。スポーティな走りを実現するため後輪重視の設定だ。
通常は、ドライビングモードをコンフォートにするだけでアルピナらしい走りが味わえる。ほとんどの場面はこれでいいが、スポーツを選択するとさらに足は引き締まる。ワインディングロードでぜひ試してほしいモードだ。ちなみにコンフォートプラスモードは、アルピナ独自のドライビングモードとなる。
ベースとなる3シリーズは、路面が粗くなるとそれがダイレクトに乗員に伝わるが、D3 Sはそうした部分が薄まりどのような場面でもしっとりとした乗り心地を伝えてくる。サスペンションがいい仕事をしてくれていることがよくわかる。クルマとの一体感も濃密で饒舌なD3 Sとの生活を夢想しながら楽しいひとときが過ごせた試乗だった。(文:Motor Magazine編集部 千葉知充/写真:井上雅行)
BMWアルピナ D3 S ツーリング 主要諸元
●全長×全幅×全高:4720×1825×1445mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:1890kg
●エンジン:直6 DOHCディーゼルターボ
●総排気量:2992cc
●最高出力:261kW(355ps)/4000-4200rpm
●最大トルク:730Nm(74.4kgm)/1750-2750rpm
●トランスミッション:8速AT(スウィッチトロニック)
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:軽油・59L
●WLTPモード燃費:13.2km/L
●タイヤサイズ:前255/35R19、後265/35R19
●車両価格(税込):1170万円
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