月面調査探査プログラム「HAKUTO-R」の月面着陸は今回も成功しなかった。月着陸船が採用するチタンを提供するシチズンのチャレンジに、時計ジャーナリストの広田雅将は賛辞を送る。
HAKUTO-Rに使われるシチズン製チタン
日本初の宇宙ベンチャーであるispace。同社による民間初の月面調査探査プログラムが「HAKUTO-R」だ。ここで使われる月着陸船には、なんと時計メーカーであるシチズンのチタン素材が採用された。時計ならばわかるが、なぜチタンという素材が、しかもスペースシップに使われたのか。その経緯は、月面調査探査プログラムに負けず劣らず面白い。
今でこそ、時計業界では当たり前となったチタン素材。軽くて錆びにくく、アレルギーも起こりにくいこの素材は装身具にはうってつけだ。しかし、粘土のような性質を持ち、扱い方を間違えると簡単に発火するチタン素材は、極めつけに加工が難しい。かつて、軍需産業しかチタンを採用しなかったのは当然だろう。
そんなチタン素材を、腕時計に転用しようと思いついたのは日本のシチズンだった。1960年代から70年代にかけて、同社は様々な素材にトライ。そのひとつが、当時最先端の素材であるチタンだった。同社は苦心惨憺の末、1970年に「X-8」をリリース。しかし、完成した時計はお世辞にも出来がいいとは言えなかった。
そこからがシチズンの面白さだ。以降、チタンの研究に没頭した同社は、87年に、この素材を外装全面に用いた「アテッサ」コレクションをリリースしたのである。
正直、今でこそチタンの加工は難しくなくなった。というのも、アルミニウムやバナジウムを混ぜた、通称グレード5チタンが普及したためだ。この素材は、混ぜ物のない純チタンよりずっと加工しやすく、しかも光り方も上品だ。スイスの時計メーカーが、こぞってチタン素材をを使うようになったのは、新しいグレード5チタンが普及して以降だ。
しかし基本的にシチズンが好むのは、加工しづらく、色味も地味な純チタンだ。理由は、表面処理の「デュラテクト」のおかげだ。アレルギーが起こりにくく、錆びにくい純チタンに表面処理を重ねることで、シチズンは純チタンを、高級な素材に仕立て直すことに成功したのである。正直、今のシチズン製のチタンウォッチの外装は、グレード5並、あるいはそれ以上の質感を持っている。歪みのない鏡面や、均一に施されたヤスリ目などは、かつて、純チタンでは絶対に実現できなかったものだ。
チタンの開発に奔走した結果、今や金属メーカー以上のノウハウを持つに至ったシチズン。ここからがさらに面白い。かつてシチズンは、自社で部品を作る必要性に駆られて、そのための工作機械を製造するようになった。シチズンが使うぐらいだから出来映えは文句なし。そして同社はこの工作機械を、世界中に売るようになったのである。今や世界の名だたる時計メーカーでシチズンの機械を見かけないことが珍しいぐらい、その工作機械は時計業界ではポピュラーなものとなった。
チタンも同様だ。加工と処理のノウハウを蓄積し続けたシチズンは、その素材と技術を外販するようになったのである。そのひとつが、HAKUTO-Rの月着陸船に使われる「脚」だ。表面にデュラテクトを施したチタン製の脚は、軽い上、摩耗に強く、高温でも性質が安定している。55年前にチタンの開発に取り組んだシチズンは、試行錯誤の末、宇宙空間でも使えるほどの素材に仕立て上げたのである。手触りの粗さを改善するために黒塗りした素材が、驚くほどの滑らかさを持つようになるとは、誰が想像できただろう?
55年前、チタン素材が当たり前になると思った時計関係者は誰一人としていなかった。おそらく、シチズンの関係者もそうだったに違いない。しかし、今やチタンは、シチズンはもちろん、時計業界にとっても不可欠な素材となった。これはHAKUTO-Rも同じだろう。
残念ながら先日の月面着陸は最後の最後で失敗してしまったが、シチズンがチタンで続けた試行錯誤を思えば、その未来は決して暗くない。諦めない限り、過去の不可能はやがて未来の当たり前となる。チタンに取り組み続けたシチズンの歩みには、心から敬意を表したい。
広田雅将時計専門誌 『クロノス日本版』編集長
1974年生まれ、大阪府出身。時計ジャーナリスト。『クロノス日本版』編集長。大学卒業後、サラリーマンなどを経て2016年から現職。国内外の時計専門誌・一般誌などに執筆多数。時計メーカーや販売店向けなどにも講演を数多く行う。ドイツの時計賞『ウォッチスターズ』審査員でもある。
文・広田雅将
イラスト・室木おすし
編集・神谷 晃 AKIRA KAMIYA(GQ)
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