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自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第19回

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自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第19回

カーデザイナーの由良拓也に託された新オリジナルスポーツカーのデザインは当初、“ドアなし”だった。ところが正式発表の1年ほど前になって、急遽、ドアを付けることに。すでに予定販売価格も決まっていた時点でのそれは大変更である。そして富田が長年抱き続けた夢がいよいよカタチになろうとしていた。プロトタイプ第1号車が完成したのだ。

新しいスポーツカーの名は爺?

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毎週月曜日に本社へ役員が集まって何やらヒミツの会合を開いている。トミタ夢工場の若い社員たちはいつしか、「爺たちの集まり」と呼んでいた。それを聞きつけた富田と解良は怒るどころかその語感に面白みを感じ取った。ふたりの爺さん(といっても40歳代後半だったが)が造るスポーツカー。車名はトミーカイラZZと決まった。

シャシーは完成したものの、エクステリアデザインがいっこうに固まらない。業を煮やした富田は、旧知のデザイナー由良拓也に全てを託すことにした。当時から遡ること20年も前に富田と由良は林(みのる)と一緒にスポーツカー造りを試みたことすらあったのだ。解良とも仕事上の接点があったことも幸いした。

すでにテレビコマーシャルに起用されるほど著名なレースカーデザイナーになっていた由良から、早速いくつかのアイデアが舞い込んだ。最終的に2案にまで絞り込まれ、5分の1クレイモデルが製作される。最終2案の違いは主にヘッドライトまわりとフロントフェンダー、サイドインテークのデザインだった。

いずれの完成度も高かった。なかでもルーフを取り外してリアにそのまま載せることができるというアイデアに富田は唸った。後年、このアイデアはポール・フレールをはじめとする多くの専門家が絶賛している。

どちらの顔立ちを選ぶか。富田には長い間思い続けてきた“あるイメージ”があった。それは「動物的な愛着のもてるカタチ」だった。

トミタオートの黎明期に扱った数々のスポーツカーのなかで富田が最も心を奪われたのは実はアルピーヌA110だった。量産車のエンジンをリアに積んだ小柄で圧倒的に背の低いスポーツカーは富田を魅了した。ばかりか将来、自分にだってスポーツカーを造ることができるかもと思わせたのもアルピーヌだった。

“ドア無し”から“ドア有り”へ

カーグラフィック誌の1995年1月号で、トミタ夢工場の㊙プロジェクトが初めて公になった。そこには由良拓也による黄色いトミーカイラZZの、なるほど動物的な愛くるしささえ感じるスタイリングが描かれていた。

けれども、そのイラストにはまだドアがなかった。カーグラフィック誌も「ドアもない!? 」とその違和感を正直に記している。実はこのとき、トミタ夢工場の社内検討会でも、ドア無し派とドア有り派で意見がふたつに割れていた。解良は軽量化と生産性を考えてドア無しにこだわった。けれども富田はドア有りを主張した。

デザイン検討用に5分の1クレイモデルが完成したとき、富田にはある違和感があった。ルーフを付けた状態では車高が妙に高く見えて、スポーツカーらしさに欠けると富田の目には映っていたのだ。ドアが無いため、乗降性を考えてルーフを高い位置に置いた結果、フロントスクリーンがとにかく大きくなったのだ。

フロントスクリーンを3分の1ほど削りたい。そうすると必然的にドアが必要になる。だから富田はドア有りを主張した。

もちろん富田にしてもこの時点でドアを新たに加えることの無謀さは理解していた。たかがドアというなかれ。実は自動車においてパワートレーンの次に最も金が掛かるのは開閉機構のついたパートである。発表予定まで1年と少し。しかも価格は誰もが頑張って買える400万円台にする、とすでに社内で合意を得ていた(富田は反対だったが)。生産性や原価コスト、スケジュール、重量など、ドアを付けることで増える問題点を考えるだけで気が遠くなる。

それでも富田はドア有りを選んだのだった。

“5分の1”から“1分の1”へ

最終のドア付きスタイルが決まった。シャシーは完成済み。いよいよ1分の1の雄型を製作する行程となった。オリジナルスポーツカーを造るという富田の夢が少しずつカタチになっていく。そのプロセスは至福の時であったとともに、悩み多き葛藤の時間でもあった。

実車の大きさになったときそれは本当にカッコいいのか? はたして無名のスポーツカーを欲しいと思ってくれる人がいるのか? オーダーが沢山入ったとして間に合う生産体制を取れるのか? そもそもあの厄介な運輸省を相手に予定どおり許認可を得ることができるのか?

本当に完成したら絶対に買うよ。そう言ってくれる理解者も多かったが、量産するとなれば富田のことを知らない人にも注目されなければならない。スタートダッシュに掛かっていると言ってよかった。

プロジェクトがスタートした頃は、ただ「良いクルマを造りたい」「楽しいスポーツカーを造りたい」という一心だったが、こうして1分の1の実車が少しずつカタチになってくると、「実物大のプラモデルで終わってしまうのではないか?」という不安が次から次へと富田を襲ったのだ。

いよいよ1分の1が完成した。これ(雄型)をベースにこんどはメインボディとパーツごとに分けて雌型を製作する。それゆえ最初の雄型の仕上がりは最も重要なパートというわけだが、さすがに由良拓也率いるムーンクラフトは手慣れていた。

お披露目用の1号車、完成す!

1分の1の雄型から抜かれた雌型を使って、もういちど実車用のボディパネルやパーツを成型する。ボディパネル素材は軽くて丈夫なFRPだった。

ムーンクラフトで製作されたパネルが京都の塗装工場へと送られてきた。トミタ夢工場の未来はすべてこの発表用初号機の仕上がりに掛かっている。塗装工場の職人たちは意気に感じていた。

シルバーにペイントされたトミーカイラZZが完成した。雄型の原型からは想像できないほど、それは輝いていた。ツルツルピカピカのボディを撫でまわしては、眺め直してしばしうっとり。富田はしばらくそんなことを繰り返しながら、4年にわたったプロジェクトの軌跡を思い出していた。

完成した車体は早速、スタジオへと持ち込まれた。カタログ用撮影を行うためだった。以前からチューニングカーの撮影に通った場所だった。スタジオの社長以下スタッフ全員がZZ撮影の応援団と化した。朝から晩までぶっ通しだった。アルミモノコックボディを見せるため、スタジオ内でZZをバラしたりもした。1台しかない発表用の個体。傷でも付けたら大変だ。苦労の多い作業だったはずなのだが、富田には不思議と楽しい時間だったという記憶しかない。

最後にプロジェクトに関わった全員で記念撮影をした。カタログ用に撮影されたものだったが、世界中のプレスにも配信されている。誇りに充ちた男達が映っていた。彼らに囲まれて生まれたばかりのZZが恥じらいながら微笑んでいるように見える。それはZZプロジェクトの総仕上げにふさわしい1枚だった。

【次回予告】
いよいよ富田の夢が実車とともに披露されることになった。発表会には国内外のプレスがかけつけ、そのデビューにはすさまじい反響があった。予約受付開始と同時にトミタ夢工場の電話は朝から鳴りっぱなしだった。けれども富田はもう一つ、大きな問題を抱えていた。トミーカイラZZの生産をどこで行なうか、である。富田の心はZZが完成するはるか以前から固まっていたのだが……。

文・西川 淳 編集・iconic

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みんなのコメント

4件
  • イギリスではこういうのが沢山ありそれなりに成功してるが、日本じゃなかなか成功しないね。
  • >「動物的な愛着のもてるカタチ」
    これが、今一歩の原因だったのかな?
    スポーツカーは、速さや楽しさも必要だけど、単純なカッコよさって必要でしょ。
    エリーゼは、売れてるし、そんなに負けてないと思うけど売れなかったのは、カッコよさが足りなかったんだよね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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