2009年1月にマイナーチェンジされた3代目アウディA6。4.2L V8に換えて3L V6スーパーチャージャーエンジンを投入し、従来の価値観をばっさり切り捨てるなど、このセグメントでもアウディの提案は痛快だった。ここでは、その3.0TFSIエンジンを搭載するモデルを中心とした試乗レポートを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年4月号より)
ゆとりをどう表現するか、メリハリのある二面性
欧州では、現時点で世代的に最も新しく、内外装のクオリティの高さが好評を得ていることから、ライバルのメルセデス・ベンツ EクラスやBMW 5シリーズと互角の人気となっているアウディ A6。だが、日本における認知度はそこまで高くはない。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
言い換えればポテンシャルはまだまだあるわけで、それをどう引き出すかに、未来がかかっているといえる。
それだけに2009年1月のマイナーチェンジで、日本仕様のA6ラインアップからV8モデルをドロップさせて、トップモデルにV6の3.0TFSIを据えるという決断が下されたことは、とても大きな意味を持っていると思う。
まず、Eセグメントにありがちな「V6よりV8が偉い」というヒエラルキーをばっさりと切り捨てた点が痛快だ。こうしたダウンサイジングにいち早く着手できたのは、プレミアムブランドの新興勢力であるアウディならではと言えよう。新しい顧客に向けた新しいEセグメントカー、そんな提案がこのA6から感じられるのである。
そしてその提案は、新しいエンジンの実力によって支えられている。Vバンク内の上部にルーツ式スーパーチャージャーを収めてコンパクトさを追求したCAJ型と呼ばれる3L V6 TFSIエンジンは、最高出力213kW(290ps)、最大トルク420Nmで、これは従来の3.2FSIを軽く上回るだけでなく、4.2FSIのV8に迫る実力。それでいて燃費は10・15モードで9.4km/L。3.2FSIから0.7km/L、4.2FSIとの対比では2.4km/Lもの向上を果たしている。まさに「技術による先進」という社是を、身をもって表現しているエンジンなのだ。
そのドライブフィールは、静々と、しかし速い!という印象だった。
ともかく、アクセルを踏んだ瞬間から豊かな力が沸き上がる。ペダルへの操作に対する初期応答がシャープなので、ラフな踏み方をすると「やや飛び出し感が強い」と感じる部分もあるが、ここを削り過ぎるとダルな印象が強くなるので難しいところ。3.0TFSIは、粗暴さは抑えつつ、適度にメリハリの効いた所作に躾けられている。
最大トルクを2500~4850rpmという広いレンジで発生するためか、あまり回転を上げなくとも、スルスルと速度を乗せていく。スーパーチャージャーも、軽くアクセルに力を込めるとトーボードの向こうからヒュルヒュルという抑えめのトーンが聞こえてくることでその存在が知れるが、よほど気をつけていないとわからないレベル。逆に気になったのはタイヤが発生するロードノイズと反響音の方で、静粛性もおしなべて高いと評価して良いだろう。
スーパーチャージャーの過給により290psを実現した3L V6エンジンというと、何やら激しい性格を予想する向きもあろうが、この3.0TFSIは、アウディの基幹ユニットに相応しいエレガントな仕上がりである。
たとえば高速道路でアクセルペダルにやや力を込めると、即座にドンと来るのではなく、遠くから引っ張られるような伸びの良い加速を味わわせてくれる。ちなみに100km/h巡航でのエンジン回転数は1850rpm。6速ティプトロニックATの制御も含めて、しっかりと燃費を意識したチューニングだと感じる。
それでいて、パワーをリリースさせた時は十二分に速い。パドルシフトを2クリックし、右足を深く踏み込めば、7000rpmのレブリミットに向けてエンジン回転数は一気に跳ね上がる。このときのモリモリと来る力強さはなかなかの快感だ。このように3.0TFSIはアクセルの踏み方によってかなり性格が変わるのである。
ひとつ気になったことがあった。それは、30~50km/hといった速度域からジワッと右足を踏んでいくと、そのストロークの半分あたりまでは明快な反応を見せないことがあるのだ。エンジンそのものの力量はすでに確認済みなので、これはおそらくペダル特性の制御によるものだと思われる。
3.0TFSIを活き活きと走らせるには、メリハリの利いたアクセルワークが肝要というわけである。
ところで、今回はこの3.0TFSIを搭載するセダンとアバントに加えて、2.8FSIを搭載するアバントも同行させた。先のマイナーチェンジでA6はすべてクワトロモデルとなったので、この2.8FSIクワトロがA6のベースモデルになる。
バルブリフト機構を備える自然吸気の2.8L V6エンジンは改良が施されて、最高出力が+10psの220psになり、10・15モード燃費も0.4km/L改善されて9.7km/Lとなった。
3.0TFSIのスペックと比較してみると、パワーで70ps、トルクで140Nmも低い。したがって、あのモリモリと力が湧き出る感覚は望めない。積極的に走らせようとすると、ついついアクセル開度は大きくなる。ワゴンボディのアバントはセダンよりも60kgほど重いので、なおさらである。
しかし、実用上はこれでもとくに不足は感じられなかった。浅いアクセルワークでグングンと速度を乗せる3.0TFSIと同時に走ったからかなり大人しく感じられたが、2.8FSIもまた、Eセグメントモデルへの期待値を裏切らないだけの力量は備えている。何より、自然吸気らしいリニアリティあるパワーフィールが魅力的だ。これはこれで、十分に存在意義のあるベースモデルになっていると思う。
魅力のわかりやすさと体感的な部分の熟成
さて、次にハンドリングを考えて行こう。A6はアウディの伝統に則ってフロントにエンジンを縦置きし、その後方にトランスミッションを搭載するというレイアウトを採っている。後輪駆動モデルであれば、加速時の荷重は後方に移動するため、十分なトラクションが得られる。したがってエンジン位置を極力ホイールベースの内側に入れて前後重量配分をイーブンに寄せても問題ないのだが、クワトロシステムによる4WDとFFモデルを両立させる必要性があるA6の場合は、あまりエンジンを後方に寄せてしまうとトラクションが不利になるおそれもある。
最新のA4などではディファレンシャルユニットの位置を見直すことでフロントアクスルをそれまでよりも前方へ移動させているが、ひと世代前にあたるA6では、パワーユニットはかなり前方に搭載されている。つまり、パッケージングの基本構成がそもそもフロントヘビーなのである。
前寄りに重量物があれば、ノーズの動きはどうしても重くなる。直進性に優れるが、曲がるのは苦手となる。もちろんアウディは、そんなことは先刻承知。解決策としてツインバルクヘッドとするなど、フロントまわりの剛性を徹底的に高め、その特性を少しでも曲がりやすい方向に仕立ててきた。
そうした経験が十分に生かされているのだろう、A6は表層的には、フロントの重さを感じさせない軽快なハンドリングを得ていた。操舵フィールも少しゲインの高い特性として、フロントの重さを感じさせない、キビキビとした味わいが強調されていた。
今回のマイナーチェンジが施された新しいA6でも、その基本的な味付けは変わっていない。ただ従来モデルに較べると、ハンドルを切り込んだ時のヒラヒラとした軽さは若干薄まった。
これは、もちろん良い方向への進化だと思う。敏感なハンドリングというのは軽快で面白い反面、長距離移動などでは神経質な部分も出てくる。新しいA6はフロントのショックアブソーバー径をアップするなどの改良が行われたのだが、これが功を奏したのか、操舵フィールにいい感じの落ち着きが出てきている。
また、コーナリング中の所作もいくぶん軽快になり、狙ったラインに乗せやすくなった。これはクワトロシステムの前後駆動力配分を、標準状態でフロント40:リア60という設定にしたことも大きく関係していると思われる。
ただ、そうは言っても本質的な部分は変わっていない。ハンドルの操舵力は相変わらず軽めだ。車格から想像する以上に軽い設定とするのは、フロントヘビーという宿命を背負ったアウディの特徴みたいなものなのかもしれないが、個人的にはもう少し重みがあった方が安心感が湧く。
もっとも、この辺はドライバーの好みにもよるだろう。操作系は軽いほど楽だと考える人も少なくない。スマートなルックスとこの軽やかなフィールを、ひとつのセットとしてアウディの魅力だと捉えている人も多いはずだ。
気になったのは、操舵力の軽さよりも、ハンドルを介して伝わってくる接地感が時として希薄になることである。A6の場合、浅い切り角での反応と接地感は明確だ。しかし大きく舵を入れた時に、瞬間的にフッと抜ける感じがある。とくに90度以上切り込むような場面では前輪に相当なストレスが掛かっているはずなのだが、その辺のフィードバックが希薄なのだ。
これをとくに強く感じたのが、うねりのあるワインディング路を走ったときである。ギャップを越えてフロント荷重が抜けた場合も、ステアフィールは軽いままで、あまり多くの情報を与えてくれない。旋回中でそんな場面に出くわすと、本来の特性であるアンダーステアが唐突に現れて驚かされることがあった。
もちろん即座にESPが介入するので問題はないのだが、そうした特性を知っていた方が、A6をよりスムーズに気持ちよく走らせられるはずだ。
多様な目的に応じられる幅広い価値観を備える
基本的な性格には大きな変化は見られなかったが、新エンジンの搭載でA6の魅力はさらに高まった。ちなみに今回試乗を行ったセダンの3.0TFSIクワトロ、アバント3.0TFSIクワトロSライン、アバント2.8FSIクワトロでは、それぞれ微妙に仕様が異なった。最後に、その紹介と印象を記しておこう。
Sライン最大の特徴は、アダプティブエアサスペンションが装備されることだ。255/35R19サイズのタイヤを履くが、従来のSラインモデルにあったパツパツとした乗り味の硬さはなくなった。エアサスペンションはダンピングの連続可変制御も行う一方で、モードを選択することも可能。とくに、コンフォートモードを選んだ時の当たりの優しさが印象的だった。ダイナミックモードでは相応に締まってくるが、その場合は硬さよりも、フロアに伝わるフルフルとした微振動の方がやや気になった。
一方、セダンの3.0TFSIには245/40R18サイズのタイヤとコイルスプリング式のスポーツサスペンションが組み合わされる。味付けはかなりスポーティな方向に振られており、標準仕様のサスペンション(ダイナミックサスペンションと名付けられる)で同サイズのタイヤを履く2.8FSIよりも明確に硬い。しかしそれもけっして嫌な硬さではなく、ダンピングがよく、入力を一発でいなす。
その2.8FSIクワトロはというと、当たりはマイルドだが全体の動きにシャッキリとした印象が薄くなる。
というわけで、今回の3モデルではセダンの3.0TFSIがベストだと感じた。これは足まわりの仕様違いもあるが、セダンとアバントの重量差、そしておそらくボディ剛性の違いが大きく関係していると感じた。
セダンの3.0TFSIでは、アバントSラインのエアサスペンションで感じたフロアの微振動はまったく確認できなかったし、コーナリングで追い込んだ際のリアの接地感もより明確。さらに付け加えるならブレーキもよりコントローラブルで、それこそ真綿でギュッと締めるような絶妙のタッチが味わえた。もしA6にダイナミックなスーツ性を期待するなら、おすすめはやはりセダンモデルだと思う。
もちろん、ユーティリティを求めればアバントという選択肢になるが、ここでひとつ残念なことがあった。
マイナーチェンジと同時に、クロスオーバーモデルであるA6オールロードクワトロが日本市場ではその役目を終えて、ひっそりとラインアップから消えていたのだ。価格設定が高かったこと、そしてアウディのイメージとクロスオーバーSUVという存在感が日本ではいまひとつミスマッチだったのかも知れない。しかし、このモデルに3.0TFSIエンジンが組み合わされたら、その魅力はさらに高まったのではないか。そう思うと、なおさら残念に感じられてならない。(文:石川芳雄/写真:小平 寛)
アウディ A6 3.0TFSI クワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4925×1855×1435mm
●ホイールベース:2845mm
●車両重量:1840kg
●エンジン:V6DOHCスーパーチャージャー
●排気量:2994cc
●最高出力:213kW(290ps)/4850-6800rpm
●最大トルク:420Nm/2500-4850rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・80L
●10・15モード燃費:9.4km/L
●タイヤサイズ:245/40R18
●最高速度:250km/h (リミッター)
●0→100km/h加速:5.9秒
●車両価格:780万円(2009年当時)
アウディ A6 アバント 3.0TFSI クワトロSライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4925×1855×1475mm
●ホイールベース:2845mm
●車両重量:1910kg
●エンジン:V6DOHCスーパーチャージャー
●排気量:2994cc
●最高出力:213kW(290ps)/4850-6800rpm
●最大トルク:420Nm/2500-4850rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・80L
●10・15モード燃費:9.4km/L
●タイヤサイズ:255/35R19
●最高速度:250km/h (リミッター)
●0→100km/h加速:6.1秒
●車両価格:893万円(2009年当時)
アウディ A6 アバント 2.8FSI クワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4925×1855×1475mm
●ホイールベース:2845mm
●車両重量:1850kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2772cc
●最高出力:162kW(220ps)/5750-6800rpm
●最大トルク:280Nm/3000-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・80L
●10・15モード燃費:9.7km/L
●タイヤサイズ:245/40R18
●最高速度:235km/h
●0→100km/h加速:7.9秒
●車両価格:677万円(2009年当時)
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