最新のトヨタ「アクアGRスポーツ」に 『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキが乗った!
エントリーだからといって妥協はしない──新型トヨタ アクアGRスポーツ試乗記
新型トヨタ アクアGRスポーツの特徴
1.シャシー&ボディ剛性チューニング
2.しなやかな乗り心地
3.POWER+モード
4.バイポーラ型電池と快感ペダルの調和
5.総評
1.シャシー&ボディ剛性チューニング
(前のページから続く)アクア GR SPORTの真髄は、目に見えない車体の骨格と足回りに施された専用チューニングにある。現代のクルマにおいて、優れたハンドリングと快適な乗り心地を両立させるための条件は「強靭なボディ剛性」だろう。ボディが路面からの入力に対して歪んでしまうと、サスペンションが設計通りのストロークを果たせず、タイヤの接地性が失われてしまうからだ。
ベースとなる2代目アクアは、TNGA GA-Bプラットフォームを採用したことで、初代アクアに対して基本骨格の剛性向上を果たしている。GR SPORTの開発陣は、この強固な土台をさらに引き上げるため、専用のブレース(補強部材)を車体各所に追加。具体的には、フロア下のフロントセクションに専用のフロアブレースを新設し、中央部にはセンターブレース、さらに後方にはリヤブレースを配置して、フロアトンネルおよびフロアパネル全体のねじり剛性と曲げ剛性を向上させた。加えて、リヤバンパーの内側には専用のリヤバンパーロア補強材が組み込まれており、リヤ周りの開口部の変形を抑制し、後輪の追従性とリヤタイヤの接地感を決定づける剛性を確保している。
この強靭無比なボディを前提として、サスペンションシステムにもGR SPORT専用のチューニングが施された。サスペンション形式は、フロントがマクファーソンストラット式コイルスプリング、リヤがトーションビーム式コイルスプリングというレイアウトを踏襲しながら、スプリングレート、ショックアブソーバーの減衰力特性、スタビライザーのバネ定数が見直されている。
フロントサスペンションにおいては、ショックアブソーバーの減衰力を専用に立ち上げ、コーナリング初期の微小なロール領域から正確に減衰力を発生させることで、ステアリング操作に対する車体の応答遅れを低減。さらに、ロアアームのブッシュ類の剛性を高めることで、コーナリング時にタイヤから入力される横力によるアライメント変化を最小限に抑え、リニアで正確無比なステアリングフィールを実現したという。
リヤサスペンションのトーションビーム構造においても、専用のスプリングとショックアブソーバーのマッチングが煮詰められている。リヤサスペンションがしっかりとストロークしながらも、不快な突き上げを瞬時に収束させる減衰特性が与えられており、リヤタイヤが常に路面を捉え続ける強固なスタビリティを構築。
ステアリングシステムには、専用チューニングが施された電動パワーステアリング(EPS)が組み合わされている。ステアリングコラム自体の剛性向上と相まって、微舵角領域から操舵トルクがリニアに立ち上がり、フロントタイヤが路面をグリップしている感触が手のひらを通じてクリアに伝わってくるのだ。
これらのシャシーチューニングの功績は、日常域での快適性を犠牲にすることなく、限界領域でのコントロール性を引き上げている点にある。サーキット走行のみをターゲットにしたようなガチガチに固められた足回りではなく、路面の凹凸を柔軟にいなしながら、ドライバーの意図に寸分違わず反応するしなやかなシャシー。これこそが、TGRが目指す「意のままに操る楽しさ」を具現化したシャシーセッティングだ。
2.しなやかな乗り心地
いよいよスタートボタンを押し、ハイブリッドシステムを始動させる。電気式無段変速機のシフトレバーをDレンジに入れ、アクセルペダルをわずかに踏み込むと、まずはモーターのスムーズなトルクによって、まるで滑るようにボディが滑らかに動き出す。
市街地へ繰り出し、標準の「NORMAL」モードで走行を重ねていく。最初に驚かされるのは、専用チューニングサスペンションと17インチの低偏平タイヤを履いているとは思えないほどの、乗り心地のしなやかさだ。舗装の継ぎ目やマンホールの段差を乗り越えた際、サスペンションのストロークがスムーズに動き、鋭いショックの角を丸めてキャビンへと伝えてこない。ボディ剛性が高いため、衝撃を受けた瞬間にボディ全体がきしむことなく、サスペンションのダンパーとスプリングだけで瞬時に吸収し、ボディを水平に保ち続けようとするイメージだ。
スポーツモデルにありがちな、路面のアンジュレーションを拾って常に車体が上下に揺すられるような不快感は無い。適度な引き締まり感とコシの強さは明確に感じられるものの、それは乗員に不快感を与える硬さではなく、ボディが常に引き締まった姿勢を保っているという安心感へと昇華されている。この乗り味であれば、助手席や後席に乗る家族から乗り心地に対する不満が出ることはないだろう。
市街地走行で特筆すべき進化として挙げられるのが、「スムースストップ」と呼ばれる先進のブレーキ協調制御技術の存在だ。一般的にクルマを停止させる際、ドライバーがブレーキペダルを踏み込んで完全停止する直前にペダルを緩めないと、車体が前後にピッチングを起こして「カックン」と頭が揺り戻される現象が発生する。スムースストップは、ドライバーが特別なペダル操作を行わなくても、車両側が停止寸前のブレーキ油圧をミリ秒単位できめ細かく電子制御し、減速度を滑らかにゼロへと収束させる技術だ。
この機能の恩恵は大きい。信号が多い日本の都市部において、ストップ&ゴーを繰り返すたびに発生していた乗員の頭の無意識な揺れが低減。ドライバー自身もブレーキ操作に神経をすり減らす必要がなくなり、同乗者にとっても揺れが少なく快適な移動空間が提供される。日常の移動を洗練されたものにするこの制御技術は、スポーツモデルであるGR SPORTの懐の深さを象徴する機能と言える。
さらに、市街地での取り回しの良さと軽快感も秀逸。最小回転半径は小さく抑えられており、細い路地での右左折やUターン、狭い駐車場での車庫入れも難なくこなすことができる。静粛性も極めて高く、エンジンが始動した際にも、3気筒特有の振動やノイズがしっかりと遮音材によって封じ込められている。街乗りを上質かつ快適にこなすその基本性能の高さに、まずは感銘を受けることとなった。
3.POWER+モード
市街地を抜け、ワインディングロードへとステージを移す。ドライブモードセレクターを操作し、ノーマルモードから「POWER+(パワー+)」モードを選択。メーター内のグラフィックが切り替わる。
アクセルペダルを深く踏み込んだ瞬間、アクア GR SPORTはそれまでの穏やかな表情を一変させ、猛然たるダッシュを披露する。システム出力116psから想像する加速力を遥かに凌駕する、トルクの立ち上がりだ。M15A-FXEエンジンの高効率な出力特性に加えて、高出力な駆動用モーターが瞬時に大電流を放出してアシストを行うため、ペダルを踏み込んだ瞬間のタイムラグがゼロ化されている。背中がシートのバックレストへとグッと押し付けられるような加速フィールが持続し、あっという間に制限速度へ。
この俊敏なレスポンスを支えているのが、アクアに採用されている高出力な「バイポーラ型ニッケル水素電池」の存在だ。従来の電池構造に比べてセル内の電気抵抗が低く、大電流を一瞬にして充放電できる特性を持っているため、アクセル操作に対するモーターの追従性が向上している。この電気の瞬発力が、内燃機関だけでは決して味わえない、EVライクな鋭いピックアップを生み出す。
さらに、POWER+モードの醍醐味は、アクセルペダル操作のみで加減速を意のままにコントロールできる「快感ペダル(アクセルオフ減速度ブースト)」の機能だ。アクセルペダルを踏み込めば鋭く加速し、ペダルをパッと離すと、通常モードよりも格段に強力な回生ブレーキが立ち上がる。これにより、ワインディングのコーナー手前でブレーキペダルへと右足を頻繁に踏み替えることなく、アクセルの踏み戻し加減ひとつで前輪へ荷重を移動させ、狙った通りの進入姿勢を作り出せるのだ。ペダル操作に対する減速Gの立ち上がりがリニアで自然なため、ドライバーの意思とクルマの挙動がシンクロする快感を味わえる。
コーナーへのアプローチでは、専用チューニングされた電動パワーステアリングの正確性が光る。ステアリングを切り込むと、フロントノーズが躊躇なくスパッとイン側を向き、狙った走行ラインをトレースしていく。専用ブレースによって補強された強靭なボディがフロントセクションの剛性を担保しているため、ステアリング操作に対して車体が遅れることなく、一体となって旋回を開始する。
コーナリング中の車体のロール挙動も洗練されている。車体をガチガチに固めてロールを力尽くで抑え込むのではなく、サスペンションがしっかりとストロークしながら、適度なロールを許容するセッティングとなっているのだ。この「適度なロール」が存在することで、ドライバーはタイヤの接地限界やサスペンションにかかっている荷重の大きさを把握できる。外側のサスペンションが綺麗に縮み、タイヤが路面にしっかりと押し付けられながら、吸い付くように旋回していく感覚は心地よい。
コーナーのエイペックスを通過し、立ち上がりで全開加速に移行する際にも、リヤの接地性が破綻する気配はない。専用のリヤバンパーロア補強材とトーションビームの絶妙な減衰特性によってリヤタイヤが路面を掴み続け、FFモデル特有のアンダーステアを抑え込みながら、力強く車体を前方へと押し出す。
タイヤがエコピアEP150であることも、ワインディングでの楽しさをスポイルするどころか、むしろドライビングプレジャーを高める要素として機能しているように思う。ハイグリップタイヤのように絶対的なグリップ力が高すぎて公道では限界域を試せないということがなく、日常的な速度域であってもタイヤが綺麗にたわみ、グリップの限界点に向かっていく過渡領域のインフォメーションが手のひらと腰を通じて手に取るように伝わってくるのだ。ドライバーがクルマと対話しながら、シャシーのポテンシャルを余すところなく引き出して走る楽しさこそが、アクア GR SPORTが提供してくれるスポーツドライビングの境地である。
4.バイポーラ型電池と快感ペダルの調和
アクア GR SPORTの卓越した走りを語る上で欠かせないのが、パワートレーンとブレーキシステムの統合制御である。1.5リッター直列3気筒のダイナミックフォースエンジン「M15A-FXE」は、ロングストローク化とレーザークラッドバルブシートの採用、高速燃焼技術の投入によって、最大熱効率40%以上という世界トップレベルの燃焼効率を誇る。
このエンジンは、単独でも十分なトルク特性を持っているが、低回転域から瞬時に最大トルクを発生する駆動用モーターと協調することで、フラットで息の長い加速フィールを生み出す。エンジンの回転上昇と車速の伸びがリニアに一致するよう電子制御が無段変速機をコントロールするのだ。
そして、このパワートレーンに瞬発力を授けているのが、先述した「バイポーラ型ニッケル水素電池」だ。集電体の片面に正極、もう片面に負極を塗布した「バイポーラ電極」を複数枚積層することで、部品点数を削減しながらコンパクト化を果たし、従来型ニッケル水素電池の約2倍の最高出力を実現。この電池のレスポンスの高さが、アクセルを踏んだ瞬間に間髪を入れずモーターを駆動し、力強い加速Gを立ち上げる原動力となっている。
一方、減速系を司るブレーキシステムの完成度も高い。回生ブレーキと油圧ブレーキをシームレスに協調させる電子制御ブレーキシステムは、ペダルを踏み込んだ初期から剛性感のあるしっかりとしたタッチを提供。回生ブレーキから油圧ブレーキへと移行する際の踏力変化や減速Gの段差は消し去られており、ドライバーは踏力に応じて自在に減速度をコントロールすることができる。
特にPOWER+モード選択時における快感ペダルとの組み合わせでは、減速初期の荷重移動をアクセルのオフ操作だけでスムーズに行い、さらに強い減速が必要な場合にはブレーキペダルを踏み増す一連の動作が自然に完結。ブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み替え回数が減少し、ワインディングでのスポーツ走行はもちろんのこと、加減速が頻繁に発生するワインディングの下り坂や高速道路の合流などにおいても、意のままの速度コントロールが可能となっている。
さらに、急激な加減速を行った際にも、ボディが前後に大きく揺れるピッチング挙動が抑えられている。これは専用ブレースによる車体剛性の高さと、サスペンションの伸び側・縮み側の減衰バランスが完璧に調律されている賜物であり、走りのダイナミクス全体に圧倒的な安心感と上質さをもたらす。
5.総評
新型アクア GR SPORTの試乗後、胸に残ったのは、このクルマの背後にある開発陣の情熱と誠実さだ。
かつて、日本のコンパクトカー市場において「廉価な大衆車」カテゴリーは、コスト削減と実用性の追求が優先され、走りの楽しさや内外装の質感は二の次にされがちであった。しかし、GA-Bプラットフォームを得て刷新された2代目アクアをベースに、TGRの手によって徹底的に磨き上げられたこのGR SPORTは、そうした過去のステレオタイプを過去のものへと葬り去った。
GA-Bプラットフォームの基本素性の高さを引き出す専用ブレース補強、しなやかさと路面追従性を両立させた専用サスペンション、バイポーラ型電池と快感ペダルがもたらす電光石火のレスポンス、そして乗員の快適性を飛躍的に高めるスムースストップコントロールなどがソフトウェアが見事に調和し、コンパクトなボディの中に凝縮されている。
日産ノート オーラ NISMOのような尖ったプレミアム電動スポーツや、ホンダ フィット RSのような伝統のパッケージングとは異なるアプローチで、アクア GR SPORTは高い環境性能と、誰もが笑顔になれる操縦安定性の融合を極めているように思う。
車両価格は300万円を超えるが、そこに盛り込まれた技術の深さ、専用パーツの投入、標準装備の充実度、そして何よりステアリングを握るたびに得られる満足感を鑑みれば、この価格は決して高価すぎるものではなく、むしろ費用対効果の高いバリューフォーマネーを示しているように思う。
モータースポーツの頂点からエントリーモデルに至るまで、一貫した哲学をもってクルマをつくり続けるトヨタとTGRの底力には驚くばかり。アクア GR SPORTは、現代の日本において最も身近なホットハッチだ。
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