FFならではの広い室内と積載力はコスパ高し
お金の話から入り恐縮だが、600万円から700万円代の予算でクルマの購入を考えている方は、注目して損はない。レクサスが新たに登場させたESは、そんな誰にもオススメしたくなるし、クルマ選びの基準車として掲げるのに適した、満遍なくすべての性能を併せ持つ優等生モデルだ。
ボディサイズは全長4975mm、全幅1865mm、全高1445mm。ラージセダンに相当するが、これをFFパッケージで仕上げているのが特徴。それにより、広い室内と余裕のある積載力を備えている。とくに後席は広く、その余裕のスペースから生まれる居住性は、フラッグシップセダンのLSの後席に匹敵するレベル。それが冒頭の価格で手に入るとなったら、かなりお買い得に感じるはず。そう、レクサスは嫌がるかもしれないが、コストパフォーマンスの良さがこのESの大きな魅力なのだ。
とは言っても、価格優先で仕上げている訳ではない。流石に価格が2倍弱になるLSと比べてしまうと、使っている素材や加工の緻密さからくるデザイン性で質感の違いを感じてしまうが、そこはレクサスクオリティ。同価格帯のセダンなどと比べたら超を付けたいほど優れている。しかも、このESは、北米と中国へのレクサスの拡大販売に大きく貢献し続けており、安定してまとまった台数を販売し続けているからこそ、順調に進化熟成を果たせているし、量産効果も出せており、価格以上のクオリティを出せている。
さらに言えば、土台のシャシー部分は北米トヨタの人気車種であるカムリと共有できており、これもまた、いいものを安く提供できる土台を強固にしている。ちなみにカムリと共有といっても、走行中のクルマの揺れに大きく影響をするホイールベースが、カムリよりも45mmもESのほうが長く、さらに上屋であるボディの作りも構造用接着剤やレーザースクリューウェルディング、さらにはボディワークの見直しや素材置換などにより、ボディ剛性もカムリより高く、のちに詳しく述べるが車格がひとつ上の走りをする。
もちろんデザイン性の良さも大きな魅力。レクサスの象徴であるスピンドルグリルは、可能な限り広く、とくに下側を横方向に広くとるデザインで、見た目のワイド&ローの安定感やスポーティな雰囲気を漂わせている。ヘッドライトの精悍なデザインもあり、自己主張が強すぎに感じる方もいるだろうが、プレミアムブランドとしてほかに紛れてはならないことを踏まえたら当然の作りであり、個人的には好きなデザインだ。
横からの見た目は、やはり5m弱の全長と、2870mmという前後のタイヤ間の距離であるホイールベースがとても長いこと、さらには強めに入ったエッジプレスラインの効果や、窓枠後端の跳ね上がりの鋭さも相まって、伸びやかさと躍動感を備えている。もう少しだけフロントタイヤの後ろのフェンダーの距離を設けて、ロングノーズ感をだせたら理想なのに……とは思うが、それができないのはFFの宿命であり、その分、広い室内と居住性を持っているのだから良しとしよう。
version LとF SPORTはそれぞれに良さ! 悩ましい走りの考え方
さて、冒頭で「すべての性能を満遍なく併せ持つ」という書き出しをした理由は、走りの味付けのバランスも優れるからだ。
まず走り出しが、かなりスムースで、そのしっとり上質な感覚が妙に心地よい。とくにバージョンLの走り出しは、フラッグシップのLSをしのぐほど快適。要因は幾つもあるが、ひとつはロングホイールベースによりクルマ自体の揺れが少ないこと。そして、路面からの入力を的確に足まわりに集め、ダンパーを効率よく働かしている効果が大きい。
この背景には、ESより初めて採用されたスイングバルブという、低速でも的確に足まわりを動かせる(減衰力を発生できる)オイルダンパーの採用がある。個人的には、このアイテムこそが、2018年でもっとも驚いた乗り味に好影響を及ぼすもの。
そもそもオイルダンパーは、決められたオイル流入経路をオイルが流れる際の抵抗により、減衰力を発生させてクルマの動きを穏やかに収めるもの。高速領域も加味してオイル流入経路の形状を決めると、どうしても市街地走行など低速では上手く減衰力が出ない。それを打破するために、さまざまな仕組みが世にはあるが、レクサスESのスイングバルブは、100分の1mmのクリアランスを保ち円盤状のスイングバルブパーツを流入経路に組み付けることで、低速から高速まで見事な足まわりのしなやかで粘りのある動きが発生できている。ちなみに電子制御なども使わないので、ハンドルの操作フィーリングがスッキリしており、路面状況も掴みやすく、好みによるがFスポーツよりもスポーティに走りやすく感じる方が大勢いるはず。
また、バージョンLは、路面のつなぎ目などを超える際の、パコンとタイヤが叩かれて響く音がとても静か。これにより街中の走行がとても快適だ。ここにもカラクリはあり、パコンという突き上げ音は、タイヤ内部の空気で響き、ホイールからボディを伝って、車内に入る。もちろん車外から空気を伝って入る音もあるが、そこは当然のように防いでおり、若干ホイールは重くなるが、空洞部分をなくした消音効果の高い特殊ホイールを使用することで、ボディを介して伝達される音も、そしてタイヤ内部で共鳴する音も抑えこんでいるのだ。
まさにFスポーツも要らず、すべて豪華仕様のバージョンLで良いのでは? と思うところだが、ひとつだけ気になるのがクルマの揺れ。ロングホイールベースの効果と、どの速度域でも減衰力が的確に発生できるオイルダンパーにより、揺れは効果的に抑えられているが、速度が高い領域での“うねり”路面では、まだ若干FF特有のフロントだけフワフワと動く前後不調和感がある。目線がブレるし、体が前後に揺すられるし、旋回中にこれが起きると安定したハンドリング特性が得られなくなる。それも防いだ質の高い乗り味を堪能したいという方、そして当然ながら走りを予感させるスポーティ系のカッコよさが欲しいという方はFスポーツを選ぶとよい。
その乗り味は、各車輪の足まわりの硬さを自在に操れる電子制御サスペンションの効果により自由自在。流石に突発的なうねり路面や突き上げに対しては、電子制御サスペンションといっても受動的制御なのでフロントのフワフワとした動きは生じるが、収まりは速い。それにより走行ペースが速いときでもハンドリングが安定するし、車両の姿勢にフラット感がある。しかも、走行モードを変更すれば、ハンドルの重さに加えて、バージョンLではできない、電子制御サスペンションを使った足まわりの基本設定を強化することもでき、操作に対するレスポンスも上がるので、ロングホイールベースのFFで感じやすいハンドル切ってからの旋回姿勢が安定するまでのレスポンスも向上。気持ちよく走れる。
では、Fスポーツが良い! となりそうだが、二転三転申し訳ない……エンジンがバージョンLと相性がいいのが最大の悩みどころだ。ESが搭載する2.5リッターハイブリッドは変速ショックなどは機構として当然なく、そのうえ低速走行時はモーターのトルクもあり、静かで力強く速度コントロールもしやすい。さらにアクセルを踏むと、エンジンの力も加わり力強くどんどん速度が上がり、そこにストレスもなく、気がついたら速度が出ている、そんな上質な世界感に包まれる。
しかしながら、回転の上昇感などを含めて刺激や気持ちよさが若干薄いので、結果として、静かさを持ち合わせたバージョンLとの相性がいいと感じてしまう。燃費などは犠牲になるだろうが、スポーツモードを選択した際などは、もう少し回転上昇感などを過度なレベルで演出的に作ってくれたら、Fスポーツの世界にとても合うと思えたのだ。
Fスポーツでの刺激的な走り要素だけは若干残念ではあるが、それ以外は満点を挙げたいほど高い完成度に仕上がっているES。すでに、発売1カ月で月販目標350台の16倍に相当する5600台を売り上げており、日本でも好調に販売をスタートさせた。今後もその好調は続くだろうし、静かさや滑らかさや上質さの基準点を得るためにESに試乗し、同価格帯のクルマ選びの参考にするというのも、賢いクルマ選びとしてはアリだろう。
新兵器のデジタルアウターミラーは熟成が必要
ESでもう一つ話題にもなっている、デジタルアウターミラー。重要保安部品に関するのでハッキリと言おう。いまはオススメしない。とくに夜道を走る頻度が高い方には、なおさらオススメしない!
理由はいくつもあり、まずモニターが近いので、瞬間的に焦点が合いづらく目が疲れやすい。またモニター画像では、片目で見ているかのごとく、対象車との距離感が直感的につかめない。さらに画素数が低いので、昼は問題ないが夜になると後方車両の識別などがし辛い。そして、車両横の死角部の把握がし辛い。
サイドミラーが生じる風切り音低減や、交差点などで歩行者を隠す死角が少ないとか、雨の日のクリアな視界など、魅力は多いし、将来のARへの展開などまで踏まえたら絶対に必要になるアイテム。しかし今の完成度では、デジタルインナーミラーのように既存のミラーも設けて映像がミラーを使うか環境に合わせてオーナーが使い分けできるようにするべきだろう。
慣れれば使える…これも一理あるし、革新的なアイテムなので多少は慣れを要するのは仕方ないが、需要保安部品において今の“使いこなし”が要求されるレベルはなしだ。
こんな書き方をしておいて都合の良い発言をするが…とは言っても、将来は絶対に必要なので、レクサスには進化&熟成をお願いしたい。
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