2025年シーズンのF1も、アメリカで3つのグランプリが開催される。そのうちの最初のレースが、今週末開催のマイアミGPである。
かつてアメリカは、F1不毛の土地と言えた。1990年代~2000年代にかけては、フェニックスとインディアナポリスを舞台に、散発的に開催されたのみ。安定して根付くということはなかった。
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しかし今の状況は、その頃とは大違いである。F1がどのようにしてアメリカ市場に食い込んでいったのかを探るべく、motorsport.comでは複数の関係者たちに独占インタビューを行なった。
「この5年間、アメリカのファンにとってF1をより身近にするために、非常に的を絞った戦略を実行してきた」
F1のステファノ・ドメニカリCEOは、motorsport.comにそう語った。
この戦略は成功したのか? 仮に数学者だったら、きっとこう言うだろう。「数字は嘘をつかない」と。やや強引な例えを続けるなら、F1はまるで1960年代のビートルズのように、アメリカ市場に進出したと言えるだろう。
F1のデータによると、現在アメリカには5200万人のF1ファンが存在するという。これは2024年と比較すると、10%以上の増加にあたる。またそのうちの半数は、この5年でF1ファンになった層なのだという。
■アメリカに根付かせるための明確な戦略
視聴者数も増加している。F1のアメリカでの放映権を持つESPNが今後もその座を維持するかどうかは不透明だが、ライブ中継の視聴者数は2018年以降で倍増しており、2025年シーズンの最初の5戦だけでも顕著な増加が見られる。
「F1は世界的にこれまでで最も強い状態にあり、アメリカでの成長は我々の近年の発展における主要な原動力のひとつだ」
ドメニカリCEOはそう指摘する。
「この5年間で、アメリカのファンにF1をより身近にするための非常に明確な戦略を実施してきた。レースがある週末に限らず、コンテンツ、イベント、新たなエンゲージメントプラットフォームを通じて年間を通して展開してきたのだ」
「重要なのは、ファンが求めているものを、彼らが消費したいと思う形で提供することだ。我々はスポーツであると同時に、リーチと提供範囲を拡大してきた存在でもある。そして今や、私たちは他のスポーツだけでなく、あらゆるエンターテインメントとも競い合っている」
「この分野は非常に競争が激しく、年齢層ごとに求める接し方や期待する体験が異なる。そんな中でF1を、1年中関心を惹きつける存在にすることが不可欠なのだ」
「今年は映画『F1』の公開も予定されており、これはF1にとって非常に大きな瞬間となる。これによって世界中の新たなファン層にリーチでき、特にアメリカ市場で大きな影響を与えることになるだろう」
「さらに、アメリカの消費者にF1ブランドを定着させるための新たなパートナーシップも控えている。そしてもちろん、アメリカを代表するブランド”キャデラック”が2026年からF1に参戦する」
「我々はアメリカにおいて文化的に存在感のある存在でなければならない……これこそが私たちの戦略の核心だ」
■F1はアメリカ市場は突破した?
この戦略には、現在のF1に参戦している全10チームも巻き込まれている。アストンマーティンのコマーシャルおよびマーケティング担当マネージングディレクターであるジェファーソン・スラックは、アメリカのファン層拡大について、独自の視点を持っている。
スラックはあの2005年アメリカGPの悪夢を、現場で経験した人物である。このレースは、ミシュランタイヤを履く14台が、安全性への懸念を理由にフォーメーションラップを走っただけでリタイアすることを選択。ブリヂストンタイヤを履いたフェラーリ、ジョーダン、ミナルディの計3チーム6台だけがレースを走ることになった。この3チーム間の戦闘力はまるで異なるため、レース中のバトルは一切なく……サーキットに集まった観客、そして視聴者からは強烈なブーイングが浴びせられた。
「まず最初に言いたいのは、F1はアメリカ市場を”突破した”ということだ。私はアメリカ人だが、若い頃はF1なんて身近な存在じゃなかった」
スラックはmotorsport.comにそう語った。
「(当時F1の代表を務めていた)バーニー・エクレストンは色々と手を打った。インディアナポリスのレースで、14台がピットに戻ったあの瞬間を今でも覚えているよ。あれじゃ、世界最高峰のスポーツが日常的に楽しめるアメリカの観客を惹きつけるのは無理だ」
では、スラックの見解では、F1がアメリカでブレイクした要因は何なのか? その最大の要素として挙げられたのは、やはりNetflixのF1ドキュメンタリー『Drive to Survive(邦題:栄光のグランプリ)』だ。
「Netflixの効果を見れば分かる。世界中でインパクトがあったが、特にアメリカではその影響が大きかったと思う。視聴者層も若返り、人気も急上昇した」
「私と同じような立場の人たちとよく会うのだが、彼らに『F1は好きか?』と聞くと、『いや、自分はそんなに興味ないけど、大学生の娘がF1が大好きで、よく一緒に観ているよ』という答えが返ってくるんだ」
■F1は世界屈指のグローバルスポーツ
特にアメリカのブランドは、自国で高まるF1人気の恩恵を得ようと、チームや選手権と提携する動きを強めている。今ではピットレーンのあちこちで、アメリカ企業のロゴを目にすることができる。
「2018年以降、アメリカを拠点とするパートナー企業の数は2倍以上に増加している」
F1の経済効果などを分析するスポモーション・アナリティクス社のビョルン・ステンバッカはmotorsport.comにそう語ってくれた。
「2024年には史上最多の115件に達し、その数字は2025年も維持されている。アメリカでの次の数戦に向けて新たなパートナーシップの発表も控えており、2025年には再び記録更新が期待されている」
「ただし、ここ数年の急成長はやや鈍化してきた兆しもある。それでもアメリカ系パートナーの数は、高水準で安定し始めているようだ」
「アメリカのブランドの影響力を示す好例がフェラーリだ。長年、スポンサーシップをもたらす第1位の国はイタリアだったが、昨年初めてアメリカがそれを上回った。そして今年も、イタリアとアメリカが並んでトップとなっている」
”作れば人は来る”……この古い格言は、アメリカにおけるF1ファン獲得や、それに伴うブランドの流入現象にぴったり当てはまる。またそれは、ラスベガスにF1専用施設を建設し、拠点とした現実にも通じるものがある。
「このような勢いが、F1をアメリカ企業にとってさらに魅力的な存在にしている。彼らにとってF1は、多様化する観客層に直接つながる手段であるだけでなく、24戦21か国で展開される唯一無二のグローバルネットワークへの特権的アクセスを提供する存在だ」
「グローバルなスポーツ界で、これほどの機会は他にない」
ドメニカリCEOはそう付け加える。
■メジャーリーグやNFLに勝つためには?
ステンバッカの指摘通り、アメリカ系ブランドのF1への参入は、一定の水準で落ち着きつつある。とはいえ、F1が今後も発展を続けるにあたってNFL(アメリカンフットボール)、NBA(バスケットボース)、MLB(メジャーリーグ)、NHL(アイスホッケー)、大学スポーツ、他のレースシリーズなど、既に確立されたスポーツとの競争が避けられない中で、どこまで伸ばせるかが焦点だ。
この点について、スラックはこう語る。
「これは“どちらか一方”の話ではない。NFLは史上最高のスポーツビジネスモデルかもしれないが、非常にアメリカ主導型だ。一方、F1が提供しているのは真のグローバルプラットフォームだ。NFLがどれだけ素晴らしくても、それは世界的なプラットフォームではない」
「F1は、世界中の主要市場のほぼすべてにリーチすることができる。アメリカの他のスポーツにはそれができない。だからこそ、まったく異なるモデルなんだ。(アメリカ国内で年間)3レースあれば十分だと思う。しかしアメリカは世界経済の25%を占めているので、経済的にはもう1戦追加しても不思議ではない」
ドメニカリCEOは「非常に的を絞った戦略」について語った一方で、アメリカのスポーツ文化に敬意を払うことの重要性にも触れた。
「アメリカには長い歴史を持つ確立されたスポーツがあることを、我々は十分に尊重しなければならない」
そう彼は言う。
「まず、F1は年間24戦しかないが、他のスポーツは週に何度も試合がある。つまり提供の仕方が異なるのだ」
「我々の目標は、情熱的なファンベースと優れた商業的パートナーシップを土台に、さらなる成長を続けることだ。そして私は、この分野で我々が達成できることに野心を抱いている」
「この5年間で、F1がどれほどのことを実現できるかが示された。私は、F1は他のスポーツには届かない文化的領域にも到達可能であり、唯一無二の商業的価値を提供できるグローバルスポーツだと信じている。アメリカでレースを行なうのが我々は大好きだし、アメリカのファンは非常に熱狂的だ。そして、我々はまだ“始まったばかり”なんだ」
一方ジョン・ロワディは、F1がアメリカの既存スポーツブランドと比較される中で、まだ不足している点に着目する。
「アメリカの伝統的スポーツリーグは、地域社会や文化に根ざしているため、それらとF1を直接比較することは、F1がアメリカで生み出した素晴らしい成果をむしろ過小評価してしまうかもしれない」
「F1の成長曲線で注目すべきは、どの層に届いているか”という点だ。アメリカのビッグ4(NFL、NBA、MLB、NHL)と比べて、F1ファンは若年層が中心であり、特に16~24歳の層に強い。女性ファンも多い。アメリカにおけるF1ファンの平均年齢は32~35歳で、NFL(50歳)、NBA(42歳)、MLB(57歳)、NHL(49歳)と比べて明らかに若い。つまりF1は、40~50代を追いかける必要はない。Z世代・アルファ世代という、未来の消費者層に既にリーチしているのだ。F1の未来はそこにある」
「さらに、多くのアメリカ企業がF1にスポンサーや商業パートナーとして関与することで、アメリカ経済の成長エンジンもF1に流入している」
「かつてのF1の“アメリカに一時的に参入し、すぐ撤退”という現象は、2018年を境に完全に終わった。ただし、アメリカのスポーツリーグが行っている“ファンの収益化”に比べると、F1にはまだ課題が残っている」
「たとえば、ライセンス商品やファン向けエンタメ体験(=F1を体感できる複数のタッチポイント)は、アクセスしづらい、存在しない、もしくは高額であることが多い」
「F1のライフスタイルブランドは憧れの対象だが、一般大衆にとっては“手が届きにくい”存在であることが多く、アメリカの他のスポーツのように大衆規模にまで浸透させるには障壁があるんだ」
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