日本には東京をはじめ北は北海道札幌市、宮城県仙台市、名古屋市や京都市、神戸市、福岡市、そして大阪市など9つの都道府県に地下鉄が走っており、日々さまざまな場所で活躍しているが、今回ご紹介する大阪メトロの地下鉄は、相互乗り入れ区間を含めると地上を走行する路線が複数存在することや、リニアモーター式の駆動で走行する車両など、ユニークな運用形態が特徴的な鉄道会社である。今回はその知られざる実態に迫っていこう。
文・写真/有村拓真
リニアモーター路線もある! 新型車両も続々登場。商都大阪を支える地下鉄路線の最新事情にとことん迫る
市営地下鉄から継承された大阪メトロとは?
大阪メトロの正式名称は大阪市高速電気軌道株式会社という。2017年に設立され、2018年の大阪市交通局の民営化に伴い地下鉄事業などが承継された。
大阪市に地下鉄は、前述のとおりもともと大阪市交通局が運営する公営地下鉄で、その歴史は古く、現在の御堂筋線となる「1号線」の梅田~心斎橋間の開業は1933年(昭和8年)5月20日のことであった。ちなみに日本で最初の地下鉄は、東京地下鉄道株式会社(その後の営団地下鉄。現在の東京メトロ)が浅草~上野駅間で開業させた現在の銀座線の一部である。
大阪市営地下鉄として最初の梅田~心斎橋間が開業したのは89年前の1933年5月20日のことであった。現在の御堂筋線には開業当時を偲ばせる構造物が残る。大阪万博後、高度成長時代を支えた10A系電車は残念ながら引退した。写真は7月4日の午前10時前に天王寺駅を終点なかもず駅に向けて出発した10A系電車。午前中での運行を終え、引退となった。
現在の大阪メトロの駅の数は地下鉄のみではなく、ニュートラムを合わせて133駅、在籍車両は約1360両だ。また、大阪市営バスの承継会社である大阪シティバスを子会社としているほか、新規で不動産事業などを行い現在に至っている。
市営地下鉄でおなじみであったシンボルマーク「マルコマーク」は大阪メトロのシンボルマークに打って変わり、新たな時代の幕開けを象徴している。マルコマークは現在でも地下鉄駅や案内表示、駅の設備の一部でひっそりと生き残りが存在し、鉄道ファンらの間でマルコ探しも行われてるようだ。相互乗り入れ区間は少ないが、関西を代表する近鉄や阪急などの列車が乗り入れている路線が存在する。
新車両も登場‼ 港湾部から東大阪、さらには奈良県までを結ぶ中央線・けいはんな線
中央線は1961年12月に大阪港‐弁天町間で開業した。開業当初は市内中心部を走る御堂筋線の利用客の多さと比較すると少なく、マイナー路線だった。1986年には長田駅から近鉄けいはんな線と相互乗り入れが開始され、当時は奈良県の生駒駅までを結んだが、その後2006年には学研奈良登美ヶ丘駅までを結び、現在に至る。
一方、大阪側は1997年にOTSテクノポート線が開業(当時は別会社、後に市交通局が運営)し、大阪港-コスモスクエア間が開通した。ちなみに九条から大阪港までの間と、けいはんな線の吉田(よした)から奈良方面へは地上路線となる。
大阪メトロ中央線で活躍する20系電車。30000A系の登場によりその役目を終えつつある
今年の7月22日には30000A系が中央線でデビューし、今後の活躍が期待される。これに伴い、後述する10系をベースに製造された20系が1984年にデビューし現役で活躍中だが、徐々に引退していくことになる。
阪急電鉄と相互乗り入れを行う堺筋線
堺筋線は1969年に開業した。直後より阪急千里線・京都本線との相互乗り入れ運転も開始された。西成区の天下茶屋と日本一長い商店街を有する天神橋筋六丁目(北区)を結ぶ路線だ。地下鉄同士の乗換駅も充実しており、御堂筋線、谷町線、千日前線、中央線、長堀鶴見緑地線と多くの路線に乗り換えが可能だ。天神橋筋六丁目以降は阪急の路線となるため、地上を走行する路線となる。
また、相互乗り入れのため、阪急電車の車両もメトロ区間に乗り入れているので、ホームで待っていると阪急の車両が来て戸惑う他県の方も多い。また、御堂筋線などで採用される第三軌道方式と異なり一般的な架空電車線方式を採用するためパンダグラフが車両に備わっており、地下鉄線内も架線が備わっている。
大阪メトロ堺筋線で活躍する66系電車。天神橋筋六丁目で阪急の乗務員に交代、阪急電鉄の運行となり、淡路駅から地上を走行する。北千里駅や高槻市駅まで大阪メトロの車両が走行することになる
リニアモーター駆動のミニ地下鉄 長堀鶴見緑地線
1990年に国際花と緑の博覧会(花博)が大阪市東部の鶴見緑地で開催された。会場へのアクセスのため、京橋-鶴見緑地間で開業したのが長堀鶴見緑地線だ。
特徴的なのが日本初の『鉄輪式リニアモーター』という動力方式だ。通常車体側に搭載する駆動用モーターを搭載していない。地上側軌間中央に直線的に敷設した磁石と、車両側車軸間に搭載した電導コイルの誘導力(これがリニア=直線的モーター)で走行するシステム。いわゆるミニ地下鉄(中流軌道輸送システム)で、このリニアモーターを動力源として、車輪によってレール上を走行する。この方式はその後に開業した都営地下鉄大江戸線でも採用されている。
大阪メトロ長堀鶴見緑地線の70系電車。前面にはリニアモーターを表す「LIM」ロゴマークが入っている。2006年に開業した今里筋線でもリニアモーター車両の80系が活躍している。長堀鶴見緑地線の軌道の中央部分には、リニアモーターを動かす機構である金属製のリアクションプレートが配されている。車体台車部分に電気を流すとこのプレートとの間に磁力が発生し、車両を推進させている
現在建設中のリニア中央新幹線に代表される、直線距離を超高速で走行する、一般的にイメージされる『浮上式リニアモーターカー』とは大きく異なる点だ。また、建設費用を抑えるためにトンネル断面を小さくしており、そのため車体断面も小さく設計されており、車内は狭く、背の高い人が乗車すると少々圧迫感がある印象なのは都営大江戸線と同様だ。
大阪人の移動手段といえば御堂筋線‼ 7月には長年の馴染みだった車両が引退
大阪メトロで一番代表的な路線といえば御堂筋線である。その歴史は古く、1933年(昭和8年)5月に梅田(仮駅)‐心斎橋間の路線が開通した。当時は2両編成で運行され、大阪の栄華の時代である大大阪時代を支えた。
昭和初期の建設当時は大変な苦労があったという。特に現在の大阪駅周辺、梅田地域は地盤が弱く地下鉄建設には技術的な課題が多かった。梅田の地名は諸説あるものの、江戸時代に湿地を埋め立てて田畑を造ったことから「埋田」(うめだ)という地名が元だったともいわれる。
その後なんばや心斎橋など徐々に路線を拡張し、相互乗り入れ区間を含め、なかもずから千里中央までの24.5キロメートルを結んでいる。さらに2023年度中には箕面市までの延伸を予定している。(北大阪急行電鉄との乗り入れ区間)
御堂筋線では今年の7月4日には50年という長きにわたり活躍した10系電車(正式には10A系)が引退し、御堂筋線の歴史がまた一つ幕を下ろした。
大阪人にとっては非常になじみ深い車両だった同車は、1973年に試作車がデビューし、その後量産された。将来の冷房需要を見越して冷房装置を取り付けられるように屋根にはスペースを設けており、地下トンネル内でも放熱が少なく、冷房装置自体も薄型で稼働できるタイプのものが取り付けられ、日本の地下鉄かつ第三軌条式車両(線路横にある給電用のレールから電力を取る)としても初となる冷房搭載車両が誕生した。
地上区間を走行する御堂筋線10A系電車。撮影地は桃山台駅なので、相互乗り入れの北大阪急行路線となる。50年近く大阪人の移動を支えた存在だ
1980年代後半には、御堂筋線と相互乗り入れをしている北大阪急行が最新型の8000形電車、通称ポールスターを導入したため、大阪人の間では、10系車両が来たら「ハズレ」と言われていた。10系の車内は薄暗く、パッとしない印象を抱いていた人が多かったのだ。
半面、北大阪急行は阪急電鉄の子会社でもあるため、阪急の車両と同様にポールスターの車内は明るく、木目調の化粧板やオリーブ色の座席など高級感があり、連結部分の扉も自動扉を採用しているため、こちらは「アタリ」とされていた。現在でこそ、どの車両も居住性が向上しているが、この当時はこのような話がよく聞かれたのである。そんなポールスターも2014年より後継の9000形電車、通称ポールスターIIが誕生し、両車とも活躍中である。
西中島南方駅から江坂、その先の北大阪急行路線でも地上区間があり、新御堂筋(道路)の間を地下鉄が並走しており、このような風景も大阪人にとってはなじみ深いものである。また、新大阪駅から大阪の中心部に向かう他県民の方は地下鉄が地上を走っているため、JRや他社線に乗ってしまったのではないかと戸惑う光景も時折見られる。
7月22日から稼働を開始した中央線の30000A系。同線では27年ぶりの新車となり、2022年度中には10列車の導入を予定しており、8月中旬現在で3編成が導入済みだ。大阪万博の輸送力強化を目的として導入され、万博終了後は谷町線への転属が決まっている
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みんなのコメント
天神橋筋六丁目を出てから地上走行だろ。