ホンダが一挙に国内の3モデルを廃止する。ホンダは、当サイトの取材に対して「グレイスとジェイドは7月、シビックセダンは8月に生産終了となります」とコメント。
「事業性を考え、日本のラインナップを再検討した結果」というが、今やN-BOXが国内のエースとなっているのが現状。そうしたなかで軽以外のホンダ車、そして国内戦略はこのままで良いのか? 御堀直嗣氏が解説する。
レビン/トレノ GTO GT-R 歴代最強!!! 国産暴れん坊グルマ列伝
文:御堀直嗣
写真:編集部、HONDA
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グレイス、ジェイド、シビックの国内向け3車が生産終了
4ドアセダンの人気が落ちていることは、国内の販売台数の推移を見ても明らかだ。
2019年度の乗用車ブランド通称名別販売ランキング(日本自動車販売協会連合会)で上位にいる車種は、カローラを筆頭に、プリウス、シエンタ、ノート、ルーミー、アクア、フリード、セレナ、ヴォクシー、フィットの順だ。
カローラにセダンは含まれるが、ほかはワゴン的なクルマやミニバン、コンパクトカーであり、その傾向はSUV(スポーツ多目的車)を含め20位どころか50位まで続く。
そのなかで明らかに4ドアセダンとわかるのはクラウンとカムリだけだ。50位のシビックにも、カローラ同様にセダンも含まれる。
それでもなぜ、クラウンやカムリは、1500~2500台平均/月で売れ続け、ほかは1000台/月を切るほどの不振なのだろうか。
2014年12月に発売されたグレイス。2019年には海外で同モデルのシティが発売されたが、国内導入はなく2020年7月に生産終了となる
輸入車では、メルセデスベンツやBMW、あるいはジャガーなどで4ドアセダンが健在であり、テスラ モデルS(ハッチバックだがセダン的な姿)やモデル3も目に付くようになっている。
こうした市場の情勢を受け、ホンダは、「事業性を考え国内販売の構成を見直す」として、グレイス、ジェイド(ステーションワゴン)、シビックセダンの生産をこの夏には終えることを公にしたという。
グレイスは、2014年に5ナンバーの4ドアセダンとして誕生し、モデルチェンジすることなく初代で消えることになる。
グレイスは、アジアとオセアニアを中心に販売されるシティと共通性を持たせたセダンとして、国内に導入された。シティのほうは、2019年にタイでモデルチェンジを行い、横幅が広がって国内基準としては3ナンバーセダンとなっている。
国内では2019年にカローラは3ナンバー化されたが、同時に前型の5ナンバーセダンも併売することとなり、その際、グレイスが5ナンバーセダンであることを強く打ち出せば、販売に動きが出る可能性もあったのではないか。
ストリームの後継車に近い位置づけで登場したジェイド。2列/3列シート仕様、ターボエンジンのRSとハイブリッドなど多彩にラインナップしたが、2020年7月で国内向けは生産終了
ジェイドは、2015年に日本で発売された、3列シートを持つステーションワゴンとも、背の低いミニバンともいえるクルマだ。3代目で背を低くしたオデッセイに近い車高を持つ。2014年でなくなった、5ナンバーミニバンのストリームを受け継ぐような存在ともいえる。
こちらは、車幅が1.7mを超えるので3ナンバー車だが、5ナンバー車に近い存在であった。これもモデルチェンジをすることなく消えることになる。
シビックは、2010年にいったん国内販売を終え、2017年に再びハッチバックとセダンの2車種で導入された。だが、セダンはわずか3年で消えることになった。
カローラが、2019年ようやく国内でも3ナンバー化されたが、そもそもシビックは2005年に3ナンバー化し、それが2010年の販売中止につながった要因の一つと考えられる。それをなぜ、2017年に再び国内販売したのか、国内における輸入車セダンなどの動向を参考にしたかもしれないが、確固たる理由は定かでない。
セダンなど整理縮小で軽依存ならぬ「N-BOX依存」加速?
シビックシリーズは、ハッチバックとタイプRを継続販売するものの、写真のセダンは2020年8月に国内向けは生産終了予定
今回、販売車種を絞り込むことにより、ホンダのセダンはインサイトからクラリティまで、比較的大柄な車種のみとなる。ステーションワゴンは5ナンバーのシャトルのみだ。ほかは、軽自動車とコンパクトハッチバック、ミニバン、そしてSUVである。
2019年度の国内販売ベスト50に、ホンダの登録車は6台(フリード、フィット、ヴェゼル、ステップワゴン、シャトル、シビック)のみで、トヨタの22台と比べ大きな開きが生じている。
軽自動車販売では、N-BOXの圧倒的強さが目につくが、実は2019年度一年間の販売ベスト15のうち、ホンダ車は2台のみ(もう1台はN-WGN)で、スズキが5台、ダイハツは4台、そしてトヨタ、日産、三菱が1台ずつだ。
そのうちトヨタのピクシスはダイハツと同じ車種なので、ダイハツがスズキとともに5台ずつ上位に入っているといえなくもない。
つまり、軽自動車販売で圧倒的に見えるホンダだが、軽自動車全体的にはスズキやダイハツに追いつけていないといえるのではないか。
また、登録車のベスト50位に入る6台も比較的小型の車種であり、利益幅はそれほど大きくなさそうに思える。そうしたなかで登録車の絞り込みがどのように影響してくるのだろう。
「買って喜び、売って喜び、作って喜び」 本田宗一郎氏の名言が示す哲学
ホンダの創業者、本田宗一郎氏と第一期F1活動時のマシン「RA270」
今回の絞り込みで削られた車種で気掛かりなのは、いずれも短期間で販売不振から止めてしまうことだ。もちろん、自動車メーカーとして採算が合わない車種を削ることは、経営の健全化に必要なことといえる。しかし、消費者の視点で考えれば、また別の見方がある。
本田宗一郎ほかの役員は、創業以来、数多くの言葉を残している。
宗一郎のものづくりの根幹にあるのは「世のため人のため」であり、戦後、自転車にエンジンを取り付けることで移動を楽にしたいと考えたのが原点になる。長寿な販売を続けるスーパーカブも、配達する人が片手に荷物を持ちながら運転できる仕組みを考えた2輪車だ。
そうした本田宗一郎のものづくりの姿勢をもっとも表す言葉に、「買って喜び、売って喜び、作って喜び」という、3つの喜びがある。消費者と販売店とメーカーという立場で、それぞれが喜べる商品をつくろうという意味だ。
この言葉は当初、「作って喜び、売って喜び、買って喜び」と順序が違っていた。それを副社長の藤沢武夫があるとき間違いに気づいたと、順序を変えたのである。
藤沢は、「お客様の喜びがあってはじめて、売る喜びがあるはずで、その二つの喜びの報酬として作る喜びがある」と、位置付けたのである。そして今日では、作る喜びは、創る喜びと文字を変えている。
この逸話からすれば、新車投入をしながら、モデルチェンジすることもなく短期間で止めてしまったり、市場動向によって売ったり売らなかったりをすることは、3つの喜びに照らし合わせてみれば、メーカーの都合を第一とした行為であろう。
ファンを大切にした商品展開こそ「世界のHonda」の原点
2輪・4輪・汎用と、ユーザー第一の姿勢と製品でファンを作ってきたホンダ。個々の生産終了車云々ではなく、そのホンダらしい姿勢を見せ続けられるかがホンダの将来の鍵を握る
ホンダは、ホンダファンともいえる優良顧客を大切にし、販売店への配慮も常に欠かさず、世界のホンダになったメーカーである。
2輪・4輪・汎用と、エンジンを中心としたさまざまな事業分野を持つのもホンダの特徴であり、ホンダの芝刈り機を使い、スーパーカブに乗り、シビックを使うような優良顧客が、永年にわたりホンダを支えてきた。
また、マン島TTレースへの参戦や、F1への参戦などを通じ、ホンダのモータースポーツ活動に心を熱くした人たちが、ホンダの商品を買い求めてきたのではないか。
ところが、買ったクルマがモデルチェンジせずなくなってしまったり、市場動向によって売ったり売られなかったりしたら、買い替えをしようとしたとき次のホンダ車がないことになる。
やむをえず、ほかのメーカーとつながりができれば、二度とホンダに戻ってこないかもしれない。それは、ホンダがこれまで大切にしてきた優良顧客を失うことになり、当然、販売台数は落ち込むだろう。
どのメーカーや企業も、創業者の思いは尊い。ただ、事業の仕方は時代の要請によって変化することもあるだろう。
2代目の社長であった久米是志は「先達の考え方の中で納得できるものをみんなで分析し、新しい思想、知恵、夢をみんなの努力のなかから創り出していくことを期待している」と、述べている。
しかし、事業を継続するための志は、時代によって変わるものではなく、人間中心であり、世のため人のためでなければ、100年の計も成り立たない。
事は、単に、グレイス、ジェイド、シビックセダンの生産中止に止まらず、ホンダの将来をどうするのか、その一点に掛かっている。消費者にとって最良となる目標を提示できないホンダには、優良顧客でさえ辛抱しきれなくなるに違いない。
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昔は燃費を無視したカッコいい車があったけど、今はプリウスとか燃費重視の魅力的でない経済性重視の車が多くなったから仕方ないね。