バス代行3年超の異例対応
JR東日本は2022年2月22日、国土交通省が建設を進める高規格道路「新庄酒田道路」に関連し、(仮称)高屋トンネルの工事にともなってJR陸羽西線の運行を休止し、バスによる代行輸送を実施すると発表した。
【画像】「えぇぇぇぇ!」 これがJR陸羽西線の「代行バス区間」です! 画像で見る(計12枚)
鉄道と道路のトンネルが交差する部分は距離が非常に近く、工事中の安全確保に技術的な課題が多いことが理由とされる。
代行輸送の実施期間は当初、2022年5月14日から2024年度内としていた。しかし2024年11月7日、JR東日本は工事の遅れを理由に、バス代行を2025年度まで延長すると発表した。高規格道路の建設にともない、既存の鉄道路線が一定期間休止される事例は極めて珍しい。少なくとも筆者の知る限り、前例はない。
しかも新設される高規格道路は、並走する鉄道にとって競合インフラである。道路整備と鉄道休止が同時に進むことで、公共インフラ同士の競争という構造的な矛盾も浮かび上がる。
分断された43kmの現実
JR陸羽西線は、山形県内の新庄駅と余目(あまるめ)駅を結ぶ全長43kmのローカル線である。新庄駅には山形新幹線、奥羽本線、陸羽東線が乗り入れ、余目駅は羽越本線と接続する。現在、全区間で運行が休止されており、バスによる代行輸送が実施されている。
多くの列車は、余目駅を経由して羽越本線の酒田駅まで直通していた。過去には、山形駅と酒田駅を結ぶ急行「月山」も運行されており、陸羽西線は単独のローカル線というより、奥羽本線(内陸側)と羽越本線(日本海側)を結ぶ準幹線としての役割を担っていた。
転機となったのは1981(昭和56)年の月山道路の開通である。山岳地帯をショートカットする道路が整備されたことで、酒田・鶴岡~山形間の輸送は鉄道からバスに大きくシフトした。その後も、月山道路に接続する山形自動車道の整備が進み、現在では山形のみならず仙台と酒田・鶴岡を結ぶ高速バスも高頻度で運行されている。
1999(平成11)年には山形新幹線の新庄延伸にともない、奥羽本線の線路が標準軌に改軌された。これにより、陸羽西線との直通運転は不可能となり、路線は完全に分断された。羽越本線側では酒田駅まで直通する運用が残るが、新庄~余目間は事実上、孤立した状態に置かれている。
通学依存路線の限界
2025年6月7日時点で、代行バスは下り14本・上り13本が運行されている。快速や各駅停車に加え、朝の通学時間帯には古口駅や狩川駅発の便も設定されている。所要時間は、新庄?酒田間で快速が約1時間25分。各駅停車では約2時間を要する。
筆者(菅原康晴、フリーライター)は5月の休日、新庄駅13時発の各駅停車で余目駅まで乗車した。同時刻発の快速には10人前後が乗車していたが、各駅停車の乗客はわずか3人だった。途中で数人が乗り降りしたが、全体でも10人に満たなかった。
こうした状況は陸羽西線に限らない。多くのローカル線では、高校生の通学需要が主な利用実態となっている。日中の利用者は、通院などに向かう高齢者が中心だ。マイカー依存の進む地方においては、ごく限られた需要にとどまっている。
JR東日本が公表した路線別の利用状況によれば、陸羽西線(新庄?余目間)の1日平均通過人員は、1987(昭和62)年度が2185人。コロナ禍前の2019年度には343人まで減少し、2023年度は129人に落ち込んだ。少子化により、高校生による通学需要も今後さらに減少する見通しだ。
高規格道路の工事にともなう一時休止や代行バスの実施を論じる以前に、そもそも陸羽西線自体にどれほどの輸送需要が残されているのか。抜本的な問いが突きつけられている。
営業係数3297円の衝撃
JR東日本は、陸羽西線の運休と代行バスによる対応について「高規格道路トンネル工事にともなう一時的な措置」としており、廃止とは明言していない。
余目駅のある庄内町も、この点を確認済みだ。町の公式サイトには2022年6月27日付で
「現在は運休にともなうJR代行バスにて対応いただいているところであり、工事終了後は通常通り運行を再開し、このまま廃線とするものでは無いという旨」
とJR東日本に確認した旨が掲載されていた(現在は削除済/2025年6月7日時点)。
一方、経営実態は深刻である。JR東日本が2024年10月に公表した「ご利用の少ない線区の経営情報」によると、陸羽西線の2023年度における旅客運輸収入は2400万円。一方で営業費用は7億9100万円にのぼり、差し引き
「7億6700万円」
の赤字を計上した。営業係数は3297円。つまり、100円の収入を得るのに3297円を費やしている計算になる。
同様に、自治体がインフラを保有する上下分離方式を導入した只見線では、最も経営の厳しい只見~小出間の営業係数が3732円に達している。陸羽西線の水準はそれに次ぐ水準であり、全国的に見ても経営は厳しい部類に入る。
この水準の営業効率では、今後も存続を議論の俎上に載せざるを得ないのが実情だ。
代行費国負担に見る責任の所在
話は、JR東日本が2022年2月22日に発表した一件にさかのぼる。タイトルは「国土交通省による「(仮称)高屋トンネル」の施工にともなう陸羽西線全線の運転取りやめとバスによる代行輸送のお知らせ」だった。
発表によれば、国土交通省が建設する高屋道路の一部である「(仮称)高屋トンネル」は、陸羽西線の古口駅~高屋駅間の直下を横断する設計となっている。この工事に関して協議を受け、JR東日本は対応を検討してきた。
トンネル工事は、国交省が設置した学識者等による施工技術検討委員会で安全性が議論された。委員会の検討結果を踏まえ、工事期間中の運休が必要とされ、JR東日本はその協議を受けて列車の運転取りやめとバスによる代行輸送を決定した。
つまり、運休措置は国の方針に従ったものという位置づけである。実際、代行バスの運行にかかる費用は国から支出されており、JR東日本の運輸収入には含まれていない。このような措置は前例が乏しい。にもかかわらず、法的・制度的な根拠や、国交省・県・市町村の責任の所在は不明瞭なままだ。
今後、廃止か復旧かという判断を誰が下すのか。その権限の所在が問われることになる。場合によっては、誰も最終判断を下さず、実質的な決定回避が起きる可能性も否定できない。
期待高まる新庄古口道路開通
かつて国鉄末期、赤字ローカル線の廃止問題が浮上した際、沿線自治体は強く反発した。線路沿いには「廃止反対」の看板が掲げられ、首長たちは国鉄や運輸省、議員に陳情し、「まち・むらの生命線廃止」に激しく抵抗したのである。
しかし現在の陸羽西線沿線の自治体の反応は異なる。そもそも廃止ではなく、一時的な休止とされているためか、存廃を巡る大きな議論は見られない。
そんななか、2024年12月7日に陸羽西線の将来的な存廃のカギを握る新庄酒田道路の一部区間、「新庄古口道路」(新庄市と戸沢村古口間約10km)が開通した。地元では、陸羽西線の復旧よりもこの道路の完成に期待が集まっている。全線開通が実現すれば、その期待はさらに高まるだろう。
かつて内陸と日本海側を結ぶ準幹線の役割を担った陸羽西線は、今やその使命を終えたかのような雰囲気が漂う。沿線自治体で廃止を明言する者はいないが、すでに廃止を前提とした生活再設計が進み始めている可能性も否定できない。
国道47号線の寸断リスクと対策
もう一点、懸念されるのは災害および防災の問題である。現在、内陸側と日本海側を結ぶ国道47号線は、最上川沿いの狭隘区間が多く、台風や洪水、土砂崩れによる寸断が珍しくない。筆者が乗車した日も、国道47号線の一部で土砂崩れが発生し片側通行となり、最上川渓谷沿いで渋滞に巻き込まれた。
2024年12月7日に開通した新庄酒田道路には特に災害時の物資輸送への期待が大きい。今後開通予定の同道路山間部区間には「(仮称)高屋トンネル」が含まれ、トンネルのシェルター効果により災害リスクが軽減される見込みだ。
陸羽西線は国道47号線と並走する区間も多いが、多くは一段高い場所を通り、最上川に近い国道より災害リスクは低いように見える。東日本大震災後に一部区間がバス高速輸送システム(BRT)化された大船渡線や気仙沼線の例のように、陸羽西線のバス転換も否定できない。
しかし、今後開通する新庄酒田道路は線路跡より太い大動脈で、代替輸送バスの一部区間も新庄古口道路を走行している。その風景は高速道路そのものであり、物流だけでなく旅客輸送も道路で代替可能だろう。
むしろ問題は陸羽西線沿線に限らず、中山間地域の移動権と地域経済のアクセス保障の将来にある。
ローカル線抱える共通課題
現在、陸羽西線で実施されているバスによる代替輸送は、新庄酒田道路の(仮称)高屋トンネル建設にともなう一時的な措置である。
しかし現地の状況を踏まえると、この特殊事情を離れても、全国のローカル線沿線が抱える共通の課題が浮かび上がる。
今後、陸羽西線が予定通り復旧するのか、不採算や災害などの要素を背景にバス転換へ進むのかは不透明だ。いずれにせよ、沿線の人口規模や移動需要の冷静な再計算が求められる。
鉄道は公共交通として象徴性が強い存在であり、採算性や機能性だけで政策判断を下すことはできない。これは路線の終焉か、それとも新たな始まりか。代替交通の最適解をめぐる社会的合意形成への問いは続いている。(菅原康晴(フリーライター))
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みんなのコメント
道路は税金で無料で通行できるが鉄道はそうはいかない。
ただでさえ利用者が少ない路線から客を奪い廃線にさせようとしている様にしか見えない