本格就航のめど立たない現状
日本で唯一の高速船「ホーバークラフト」の就航が、頓挫している。
【画像】「えぇぇぇ!?」 これが17年前の「旧大分ホーバーフェリー」です! 画像で見る(8枚)
大分空港と大分市内(西大分港)を短時間で結ぶ新たな交通手段として構想され、当初は2023年度中の運航開始を目指していた。だが、2025年春になっても本格的な就航のめどは立っていない。
大分市民の期待を背負った高速移動手段・ホーバークラフトは、なぜ動き出せないのか――。
大分空港への交通手段として定着
ホーバークラフトが大分に就航するのは、今回が初めてではない。最初に大分空港と大分市内を結んだのは、1971(昭和46)年に登場した初代ホーバークラフトだった。
かつて大分空港は大分市内にあったが、川に挟まれた立地で拡張が困難だった。加えて、安全性にも課題があったため、空港は大分市から約60km離れた国東半島の安岐町・武蔵町(現在の国東市)の埋め立て地へ移転された。この移転にあわせ、空港と大分市を結ぶ新たな交通手段として別府湾を縦断するホーバークラフトが就航した。これが「大分ホーバーフェリー」である。
大分ホーバーフェリーは、大分交通と大分県が出資して設立した第三セクターの企業だった。ホーバークラフトは圧縮空気を使って浮上しながら走行するため、一般の船よりも速く、陸路の半分以下の時間で空港と市内を結んだ。そのため、空港利用者にとっては便利な足として親しまれた。1990年代以降は、日本で唯一のホーバークラフトとなり、「大分空港に着いたら一度は乗ってみたい」と考える観光客も少なくなかった。
しかし、1991(平成3)年に大分空港道路が開通し、道路網が整備されるとホーバークラフトの優位性は徐々に低下した。さらに、国内で唯一ホーバークラフトを建造していた三井造船が、2016年までに事業から撤退し、メンテナンスも打ち切る方針を表明。こうした背景から、大分ホーバーフェリーは2009年10月に運航を停止し、ホーバークラフトは日本から姿を消した。
「16年ぶりホーバー復活」新体制で再挑戦
約40年で姿を消した大分ホーバーフェリーだが、大分空港からJR大分駅までは高速バスで約1時間を要する。渋滞が起これば、さらに時間が延びる。ホーバークラフトの優位性は薄れていたとはいえ、その速達性を懐かしむ声は今も大分市民の間に根強い。
加えて、隣県・福岡にある福岡空港はJR博多駅から地下鉄で5分と利便性が高い。このため、大分県を訪れる観光客の多くが福岡空港を利用している現状がある。こうした背景もあり、大分空港の利便性向上は地域の重要課題とされてきた。
そこで注目されたのが、ホーバークラフトの復活だった。かつての運航会社「大分ホーバーフェリー」は第三セクター方式だったが、復活プロジェクトでは新会社「大分第一ホーバードライブ」が2022年に設立された。
この会社は、全国でバス・タクシー事業を手がける第一交通産業(福岡県北九州市)の子会社にあたる。今回の事業では、大分県が船舶や運航施設を保有し、民間事業者である同社が運航を担う公設型上下分離方式を採用。事業者の初期負担を抑えつつ、収益性の確保を図った。第一交通産業は、大分県出身の創業者を持ち、地元とゆかりの深い企業でもある。
なお、旧来のホーバークラフトは国産だったが、現在の国内には旅客用ホーバークラフトの製造企業が存在しない。このため、今回は英国・グリフォン・ホーバーワーク社製の「12000TD型」を採用。大分県は約42億円を投じて新造船3隻を購入した。船名には、大分出身の江戸時代の学者にちなんで
・Baien(梅園)
・Banri(萬里)
・Tanso(淡窓)
の名が与えられた。
運航会社は当初、2023年度中の就航を目指していた。2023年8月には1番船「Baien(梅園)」が到着し、2024年2月までに3隻すべてが大分に揃った。最高速度は時速80km。大分空港と西大分港を約30分で結ぶ計画だ。予定より遅れたものの、2024年11月には試験運航を兼ねた遊覧航行を西大分港で開始している。
相次ぐ「接触事故」問題
では、なぜ大分空港と市内を結ぶ本格就航が遅れているのか。その理由のひとつが、試運航中に事故が多発したことにある。
ホーバークラフトは構造が特殊で、操船が難しいとされる。2025年4月までに、大分県内で7回、英国で1回の事故が発生した。英国での事故は、ファンの動作確認中に破損したものだった。合計8件の事故が確認されている。
いずれも、事故防止用のフェンスやクッション材に衝突する程度の軽微な接触がほとんどだ。試運航であることを踏まえれば、一定のリスクは想定内といえる。
しかし、2024年11月に別府湾での遊覧航行が始まったあとも、乗客を乗せていない状態であったものの試運航中に接触事故が発生。この影響による遊覧航行の運休も相次いだ。さらに、同年11月には軽微な接触事故を申告していなかったとして、船長らが船員法違反の疑いで書類送検された。2025年3月には、前年の試運航中に乗員が負傷した事故を受け、船長が業務上過失傷害容疑で書類送検されている。
取材によれば、こうした一連の事故を受けて、本格就航を待たずに離職した運航関係者もいるという。
空港二次公共交通における定時性の問題
就航が遅れているもうひとつの大きな理由は、安定運航が難しい点にある。大分第一ホーバードライブは、2024年11月から週末を中心に別府湾で遊覧航行を実施している。だが、接触事故が相次いだことも影響してか、
・風速
・波高
・視界
などに関して厳格な運航基準を設けている。このため、運航直前に臨時運休が発表されるケースが少なくない。
大分第一ホーバードライブによると、2024年の遊覧航行の運航実施率は「約50%」にとどまっている。これは、かつての大分ホーバーフェリーの運航率を大きく下回る数字だ。天候によっては、速度を落として徐行することもあるという。
遊覧目的であれば、ある程度の運休や遅延は容認される。しかし、空港と市内を結ぶ交通手段となれば話は別だ。頻繁な運休や遅延が続けば、航空便の接続にも支障が出る恐れがある。
降って沸いた「トイレ」問題
2025年4月に入って、新たな問題が指摘されるようになった。それが「トイレ問題」だ。この問題は、4月1日に大分県知事が定例記者会見で課題として挙げたものだ。ホーバークラフトの大分空港~大分(西大分港)間の所要時間は約30分と短いため、現在大分第一ホーバードライブの各船にはトイレが設置されていない。
船舶安全法に基づく省令「船舶設備規程」では、沿海以下の航行区域を有する旅客船で、航行予定時間が極めて短いものにはトイレを設置する必要はないと定めている。この規定に基づき、九州運輸局の内規では、所要時間が「おおむね30分以内」とされている。しかし、ホーバークラフトは厳しい運行基準を設けており、天候によっては徐行が発生することもある。悪天候時には所要時間が30分を超えることも考えられる。
以前運航されていた大分ホーバーフェリーも同様の所要時間で、天候によって遅延することはあったが、最後までトイレは設置されなかった。また、大分交通の高速バス「エアライナー」も所要時間が長いが、トイレは未設置だ。
乗客にとって、トイレがないよりはあった方が便利だろう。もしトイレが設置されれば、大分空港~大分間や別府湾遊覧以外の長距離航路にも期待が持てるかもしれない。だが、ホーバークラフトにトイレを後付けするには多額の改造費用と時間がかかる。過去、ホーバークラフトが英国から回送された際、日本までの所要時間は最長約3か月(喜望峰経由)だった。工場への往復だけで半年近くかかることもある。
さらに、トイレを設置するためには地上での汚物処理設備や処理費用も必要となり、乗船定員が減るため収益性にも影響を与える。そのため、トイレを設置するかどうかはまだ決まっていない。
運休問題は徐々に解決
2025年春時点では、ホーバークラフトの大分空港への就航はまだ見通せない。しかし、先述の通り、2024年11月からは週末を中心に試験運航が兼ねられた別府湾遊覧航行が西大分港発で行われている。
トイレ問題は解決の目途が立っていないが、当初は悪天候などで運休が多かった別府湾遊覧航行は、運航に慣れるにつれて2025年に入ってから運休率が減少しており、本格就航への期待が高まっている。
国内でここだけで体験できる高速交通機関・ホーバークラフト。もし大分市を訪れる機会があれば、一般の船とは異なる独特の乗り心地を体験し、大分空港と大分市が短時間で結ばれる未来を想像してみてほしい。
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みんなのコメント
前回のホバーも最終的に6億円近い赤字で廃業した経緯がある、台風の余波や冬は海が荒れるために欠航が多くあてにできない、ホバー乗り場まで大分駅等から遠く乗り換え必要で不便、高速バスと比較し時間的メリットが少ない。
ホバー料金は高速バスと同等にするらしいが、補助金なしで同額にできるわけがない。
ホバー推進した広瀬前知事と大分市長時代から計画推進した佐藤知事は赤字の責任を取ってくれるのでしょうね。