「自動車の脱炭素化といえばBEV一辺倒」――そんなイメージはもう古い。内燃機関(エンジン)の研究を専門領域に持つ早稲田大学理工学術院の草鹿仁教授は、取材依頼書に書いた「エンジンはオワコンなのでしょうか?」という前提を、「その情報は古いです」と開口一番ひっくり返した。欧州はすでにエンジン・ハイブリッド・カーボンニュートラル燃料へと舵を切り直し、熱効率48%に達するエンジンまで登場している。草鹿教授は「日本も早急にエンジン研究・開発を立て直す必要がある」と提言する。緊急インタビューの前編では、エンジン研究の最前線の衝撃をたっぷり伺った。難しい話だったが、日本の自動車界がどういう方向へ進むべきか、視界がはっきりする話でした! 全3回(今回は第1回)でお届けします!!
文:ベストカー編集局長T/写真:森山良雄、ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】エンジンは「オワコン」じゃない!! 内燃機関研究者が明かすエンジンの希望と可能性【草鹿仁教授インタビュー前編】(4枚)
「オワコン」どころか、欧州は「エンジン」に舵を切り直していた
今回『ベストカー』の取材に応じてくれた草鹿教授は、早稲田大学創造理工学部総合機械工学科および大学院環境・エネルギー研究科教授(博士(工学))。同大学次世代自動車研究機構長も兼任。専門の熱流体工学や自動車用パワートレイン分野において、経済産業省やNEDO等の政府プロジェクト、および国内主要自動車メーカーが共同で取り組む「自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)」との強固な産官学共同研究を牽引する。モデルベース制御や次世代モビリティの共同研究で多くの成果を上げ、自動車産業の発展とカーボンニュートラル実現に貢献している。この草鹿教授に、ベストカーは単刀直入に「エンジン研究・開発はもうオワコンなのでしょうか?」と依頼書に書いてインタビューを申し込んだ。
以下、2時間半におよんだ熱いインタビューを前後編でお届けします。
ベストカー編集部(以下BC):本日はインタビューをお受けいただきありがとうございました。まず簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。
草鹿仁教授(以下草鹿):はい、早稲田大学創造理工学部・総合機械工学科で教授をしております、草鹿(くさか)と申します。
BC:内燃機関研究の最先端領域はどのようなところにあるのか、いきなり核心を伺えればと思います。
草鹿:いただいた題目に「エンジンはオワコン」というフレーズがあったのですが、「これはだいぶ情報が古いな」と思っています。欧州もいま、BEV一辺倒からマルチパスへ変更しているというのが、今年のウィーンモーターシンポジウムで鮮明になりました。
BC:今年(2026年)4月22日から24日にかけて、オーストリア・ウィーンのホーフブルク宮殿で開催された「第47回 国際ウィーンモーターシンポジウム(International Vienna Motor Symposium)」のことですね。
草鹿:はい。欧州は大きな組織で、大きな蛇のようなものだと考えたほうがいいでしょう。頭で決まったこと、こっちへ行こう、と動き出したものが、お腹をへて尻尾までその動きが届いて、外から見て「こっちに動いた」と分かるには時間がかかります。外から見て目立つのは尻尾やお腹あたりの動きなので誤認しがちなのですが、本当は「いま頭がどこを向いているか」を見たほうがいいです。
BC:いま「頭」がどこを向いているかを見る。
草鹿:そうです。欧州が最初に「2035年内燃機関廃止」を発表したのが2021年、最終合意が2023年、そして2025年にはそれを撤回しています。だいたい2年で法案が落ち着くような感じです。今、欧州の頭はマルチパスウェイとカーボンニュートラル燃料の2つに向かっています。
BC:な…なるほど……。欧州はBEV化のトップバッターだったわけですが、もうずいぶん前から潮目が変わっていたんですね。
草鹿:あとは欧州の燃料政策ですね。いま欧州のスタンドではエタノールが20%混合されたガソリン「E20」や、ディーゼル用バイオ燃料「HVO100%」(Hydrotreated Vegetable Oil=水素化植物油)が、1Lあたり1.8ユーロぐらいで普通に売られています。これは完全にカーボンニュートラルな燃料で、これを入れたディーゼルエンジンは、もうカーボンニュートラルを達成したということになります。
BC:それが普通にスタンドで売られているんですか?
草鹿:もう売り出しています。E20は今年度からEU全土で展開されていて、「HVO100」(HVO比率100%燃料)は2027年度からEU全体で展開していく予定です。ウィーンモーターシンポジウムで発表されたメルセデスとアウディの新しい3L6気筒ディーゼルエンジンも、もうHVO対応です。
BC:な…なるほど。日本のメーカーもこの動きに対応できそうでしょうか?
草鹿:ディーゼルエンジンの開発をやめたメーカーも多いので、そういうメーカーはいまからHVOへ対応するのは難しいかもしれません。ただ開発チームが残っているところは対応できるでしょう。いっぽうガソリンエンジンの「E20」は、日本のメーカーでも充分対応できると思います。
BC:「E20」燃料が普及すれば、CO2排出量がいきなり20%減る計算になりますもんね。BEV数百万台ぶんに匹敵するという。
草鹿:はい、それが欧州のマルチパスウェイ戦略です。欧州の方はテクノロジー・ニュートラル(技術の中立性)と呼ぶこともあります。
熱効率48%――「レンジエクステンダー」エンジンの衝撃
草鹿:もう一点、中国の奇瑞(Chery)とヨーロッパのエンジニアリング会社AVLが発表した「高膨張比火花点火エンジン」も見逃せません。ホンダのEXlinkや日産の可変圧縮比機構も参考にしていて、圧縮比16~17に対して膨張比25.5。ピストンのストロークを可変にして大きく膨張させることで、熱効率がなんと48%に達します。
BC:燃効率48%まで行くんですか。これは発電用のエンジンですか?
草鹿:そうです。レンジエクステンダー用エンジンで、スイートスポットで48%に達するエンジンです。これからは、46%から50%を超えるエンジンが、ハイブリッドの熱効率の肝になっていくと思います。
BC:充電用にエンジンを回して、モーター駆動で走らせる、いわゆるシリーズハイブリッド車が増えてゆくということですね。
草鹿:そうですね。一方、アウトバーンのような高速走行が多い場合には、フォルクスワーゲンの新しい「オールニューハイブリッド」のようなタイプが出てきます。直噴3気筒ターボのダウンサイジングエンジンで、熱効率自体は最高38%とそこまで高くないんですが、高速走行時にエンジンとタイヤを直結できるので、その38%を余すことなく高速で使えます。通常、街中ではシリーズハイブリッドとして使う。今、世界最先端の研究領域は、ハイブリッドシステムの競争と、その根幹をなすエンジンの高効率化の2つです。
BC:燃料の面ではどうなっていきますか?
草鹿:エタノール比率は20%ぐらいがマックスだと思います。その先は、グリーン水素と大気中から回収したCO2で合成する「e-fuel」に置き換わっていきます。ディーゼルのほうは、アウディ・メルセデスとも2段階過給(通常のターボチャージャーと電動コンプレッサー)を採用していて、圧力比は最大1.7ほど。アウディはV6の3L、メルセデスは直6の3Lで、コンセプトの近いディーゼルエンジンが出てきています。これが「HVO」対応で、欧州における乗用車の大きいサイズの最先端ということになります。
BC:すくなくとも欧州では、「乗用車のほぼ全域」が、カーボンニュートラル燃料への置き換えへの目処が立っている…ということですか?
草鹿:立っていると思います。小さいクラスの一部にはBEVが入ってくると思いますが、残りは、ガソリンエンジンはストロングハイブリッド、それとディーゼル(こちらは48Vのマイルドハイブリッドと組み合わせ)が中心になるでしょう。
純ガソリン車は消える。2030年代の車重別「棲み分け」地図
BC:草鹿先生が予測する、2030年代以降の駆動ユニット別の自動車の割合ってどんな感じなんでしょうか?
草鹿:グローバルで、ということであれば、まず純粋なエンジン車(ICE)はなくなっていきます。軽自動車から1.9tまでの乗用車はストロングハイブリッド(プラグイン含む)が中心になり、それより車重が上がるとディーゼルエンジンになっていくでしょう。
BC:ええと……、日本政府は2035年までに新車販売の100%を電動車化、2050年にカーボンニュートラル化する目標を掲げています。草鹿先生は、この目標、達成可能だとお考えですか?
草鹿:日本の場合、「電動車」にはハイブリッドも含まれるので、達成できると思います。ガソリンの乗用車はストロングハイブリッド化が非常に重要になります。ただ、燃料対応は欧州と比較すると日本のほうが遅れているので、そこをどうするかですね。
BC:軽自動車もストロングハイブリッドになっていくんですか?
草鹿:軽自動車にもいくつか階層がありますが、まず営業車のようなビジネスユース、いわゆる廉価モデルは、当面ガソリンエンジンのままでいくでしょう。車重が650kgクラスは、2030年の燃費規制をクリアできれば純ガソリンエンジンのまましばらく残ると思います。いっぽう850kg~1t近い、いわゆる「贅沢な軽自動車」は現在の軽市場ではボリュームゾーンですね、こちらはオールインワンの使い方をされる方が多いので、ストロングハイブリッドで燃費を改善していくのが重要と思います。
BC:いわゆるスーパーハイトワゴン、N-BOXやスペーシア、タント、ルークス/デリカミニなどのクラスですね。
草鹿:ダイハツが昨年(2025年)のジャパンモビリティショーで(参考出品のかたちで軽自動車サイズのシリーズハイブリッド車を)出したのを見て、できるんだなと分かりました。軽自動車枠はストロングハイブリッド、それに日産SAKURAのようなBEVも増えてくるでしょう。
BC:コンパクトカーはどうですか?
草鹿:そのクラスはハイブリッド化しないと燃費規制をクリアできないと思います。ヤリスぐらいのストロングハイブリッドだと結構いけるでしょう。ある外国メーカーのエンジンが熱効率48%に到達していて、日本メーカーがそこに届いていないとなると、燃費で差が出てきます。それをやらないと、結構苦戦するのではないかと思います。
後編では、商用車や水素の現実解、そして日本メーカーへの率直な提言、これからのクルマ選びのポイントを聞く。
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みんなのコメント
言い出したのはお前ら。
ところでオワコンってなんの略?