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日本唯一にして最後の「信号機」を使う本州最北の私鉄 “アナログの装置”を動かすということ

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日本唯一にして最後の「信号機」を使う本州最北の私鉄 “アナログの装置”を動かすということ

2駅3か所で現役の腕木式信号機

 鉄道信号機は様々な種類があります。日本初の鉄道は手動の機械式信号機も輸入され、その信号機とは、腕木と色付きレンズが上下に動いて信号の役割となる「腕木式信号機」でした。

【今や貴重】腕木式信号機と駅員のテコ作業を写真で見る(写真)

 我が国の腕木式信号機の一般的なタイプは、腕木が横になった「定位」で、赤を現示します。腕木が45度斜めに下がると「反位」で、青を現示します。役割によって出発、場内、通過、遠方など、いくつか種類があり、腕木の形状と色も異なりました。

 腕木式信号機の上下の動きは、駅舎側などで操作するテコと信号機を鉄索(ワイヤー)で結び、テコを動かすと腕木が動く仕組みです。信号機側は重錘(じゅうすい)と呼ぶウエイトと連動しており、重錘が下がると腕木は定位、上がると反位となります。万が一ワイヤーが切断されても重錘が自重で下がり、信号は定位(赤)で固定されるので、列車の誤進入は防止できます。

 ほとんどの腕木式信号機は職員が手動で操作するため、信号機の自動化が推し進められて姿を消していきました。1990年代~2000年代初めには、JRと私鉄のごく一部路線に残るだけとなり、JR東日本では2005年の八戸線が最後、2015年頃に福島臨海鉄道での使用が終了しました。

 そして2025年現在、腕木式信号機を使用する営業鉄道として唯一の存在が、本州最北端の私鉄、津軽鉄道(津鉄)です。津鉄は単線非電化、津軽五所川原~津軽中里間20.7kmの路線です。腕木式信号機があるのは津軽五所川原駅と金木駅の2駅3か所で、出発信号機ではなく全て場内信号機です。

 場内信号機は、駅へ進入する列車に対して進入可否を現示するもので、簡単に言うと駅構内の入口に設けます。腕木式信号機では腕木の長さが1200mmと決まっており、駅を出発する列車に対して現示する出発信号機の場合は、腕木の長さが900mmです。

 津軽五所川原駅は起終点であるから、津軽中里側の構内境界に1基あり、金木駅は上下列車の交換駅であるから、上下線それぞれの構内境界に2基あります。

 以前は津軽中里駅にも腕木式信号機がありましたが色灯式に変わっており、津軽飯詰駅は2004年の閉塞区間統合まで、腕木式信号機が使用されていました。

「気がつけば」日本唯一の存在に

 では、なぜ日本唯一の存在になったのか。津鉄によると「気がつけば、ウチが日本最後の存在となっていました」とのことで、構造が複雑ではないから使い続けているという理由でした。

 とはいえ、腕木式信号機の取り扱いには注意しています。テコと信号機をつなぐワイヤーと滑車のメンテナンスをこまめに実施しつつ、毎回の操作も丁寧な取り扱いを忘れないことが肝要です。テコは重い鉄製ですが雑に扱わず、しっかりと最後まで手を握りながら上げ下げします。

「テコを乱暴に扱うと脚を打って怪我したり、弾みでワイヤーが損傷してしまいます」

 とは、金木駅の駅員さん。ワイヤーはレールと同じく季節の寒暖差によって伸縮があり、伸びてしまうとたるみが生じ、テコは抵抗なく下がってしまいます。逆に縮みすぎると、ワイヤーが張りすぎてテコは最後まで降りきれません。

 さらにワイヤーは積雪を考慮して高い位置に張られていますが、冬季は寒風にさらされて凍ることがあり、テコを少し動かすことによって凍った箇所が動き出す場合もあります。

 ワイヤーは同じ箇所が滑車に当たり、使用していればやがては傷んでくるものです。これらの状態で無理して信号テコ作業を行うと、たるんで滑車から外れたり、縮みすぎてワイヤーが動かなくなったりと、信号機が使用不能になりかねません。テコ作業を丁寧に扱うと、ワイヤーが伸びてきたなど微妙な感触の違いが分かってきます。

 もちろん月に1回の定期点検は実施していますが、目視で腕木の位置を確認し、腕木の動きに少しでも違和感があると、保線作業を行う線路管理所に連絡して調整をしてもらい、場合によっては一時的に使用中止をして、代用手信号を使用して対処します。金木駅を訪れたときは、ちょうど1週間前に調整が済んだばかりで、信号機の動きはスムーズでした。

駅員1人で行う列車交換作業

 金木駅は約20年前に駅舎を改築しましたが、以前は側線が多く貨物輸送もにぎやかで、貨車を何両も連ねて入れ換え作業していました。そのため構内も長く、腕木式信号機は南側が本線の築堤上にあります。

 北側は約300m離れた学校の脇に位置し、学校は元々津軽森林鉄道の貯木場で、津鉄の引込線もありました。特に北側は木が茂るため、腕木が視認しづらくなったら線路管理所による伐採作業が入ります。

「テコとポイントが連動しているため、下り列車が駅へ入ったら上りのテコを倒します」

 津鉄は2004(平成16)年に事故防止のための安全を確保する仕組みとして、本線の発条転轍機(スプリングポイント)と連動するようになり、テコは構造的に片方ずつしか降りない仕組みとなりました。

 同時にテコが動かなければ、上下線は同時に青とならず、上下同時進入のリスクが回避できます。信号とポイントが連動するメリットは、ポイントが反位や不密着状態だと信号機が下りない(青にならない)構造だから、赤を現示したままとなって事故防止となります。津軽五所川原駅場内信号機も、金木駅と同様に転轍機と連動しています。

 津鉄のダイヤは下りが停車後に上りが到着するパターンであり、津軽五所川原~金木間はタブレット閉塞です。列車が津軽五所川原駅を発車後、金木駅の通票閉塞器へ知らされ、駅舎内で待っていれば、閉塞器の電鈴が響く音も聞こえます。その後、下り場内のテコを倒して青に現示します。列車到着後に運転士からタブレットを受け取り、下り場内のテコを上げて赤に現示。今度は上り場内のテコを下げて青へ現示し、上り列車が進入でき、上り列車が信号機を通過したらテコを上げるのです。金木~津軽中里間はスタフ閉塞のため、上下列車はタブレットとスタフを交換してから発車します。

 こうして金木駅の一連の列車交換は、1人の駅員によってこなしており、自動化に慣れた目には新鮮であり、昭和時代をよく知っている者には郷愁の光景を思い起こさせてくれ、この作業は、春夏秋冬たとえ地吹雪の中でも、一切休むことなく行われているのです。

 仮に、津鉄がCTC(列車集中制御装置)やATS(自動列車停止装置)を導入したら機械式信号機から自動式に変わり、あるいは腕木式信号機が壊れて予備部品も底をついたらお役御免になるときが来ますが、現在は元気に活躍しています。

 腕木信号機の構造はシンプルであるがゆえに感覚的なこともあり、線路管理所での調整作業では新人とベテランが組み、現場でレクチャーをしながら技術を伝承しています。駅では駅員がテコの重さや反応を肌で覚え、丁寧な取り扱いを心がけ、ひとつひとつの作業の積み重ねによって、日本最後の腕木式信号機が保たれています。

 最後に、腕木式信号機とテコ作業を観察したい場合は、職員の操作と安全に支障のないよう配慮し、入場券の購入や列車で来ることを心がけましょう。切符も硬券であるから、腕木式信号機の出会い旅の思い出には最高です。(吉永陽一(写真作家))

文:乗りものニュース 吉永陽一(写真作家)

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みんなのコメント

12件
  • ta2********
    五所川原で見ました。まだ使っているのですね。保存展示しているのは明知鉄道とか烏山線などで見ますよ。
  • Wiltrud_Drexel
    この種の信号機、夜間は駅員や運転士が腕木をどう見分けるのかと疑問でしたが、暗くなると駅からの操作で信号部分を点灯させるのでした。そこに赤と緑の厚いプラスチック板がそれぞれ当たる仕組となり、手動式で停止進行を定めるものでした。夜の進行状態は非常に短い時間で写真に納めるのが一苦労でした。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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