1970年シーズンに向けて917Kへ進化
1969年のル・マン24時間レースを、ポルシェ917で戦ったリチャード・アトウッド氏。エグゾーストからは、耐え難いほどの轟音が襲った。エンジンルームとコクピットを仕切る、バルクヘッドに対し頭をどこへ置くかにも、悩んだという。
【画像】ル・マン総合優勝 917K ポルシェのレーサー 911 3.0 RSRと718ケイマン GT4も 全72枚
「2時間も絶たないうちに、身体が痛くなりました。幸いにも、レースはドライ。ウェットだったら、早々にリタイアしていたでしょうね」。顔を歪めながら、アトウッドが記憶をたどる。
2人のドライバーは長い夜を耐え、21時間が経過した翌日の昼には6周ものリードを掴んでいた。しかし、不運にもギアボックスが故障。残り3時間というところで、917は走らなくなった。
「ポルシェのチームは、リタイヤでドライバーが落胆していると考えたようです。でも、わたしは疲れ果てていて、安心したというのが本音でしたね」。彼が笑う。
ポルシェは1970年シーズンへ向けてマシンに改良を加え、ショートテールの917Kへ進化。同時に、ロングテールのボディも開発された。アトウッドが続ける。
「ショートテールは、直線ではそれほど速くありませんでした。でも、見違えて安定していました。まったく別のクルマのように」
「1969年のストレートエンドでは、ミュルサンヌ・コーナー手前のカーブで減速が必要だったんです。ところが、1970年はユノディエールの一部になっていました」
アトウッドと、ペアを組んだハンス・ヘルマン氏とが1970年のル・マンで優勝したのは、ショートテールの917Kだった。今回、ソノマ・レースウェイへやって来たクルマも、同じボディを持つ。
慣性がないように回転数が跳ね上がる
このポルシェ917Kは、1971年の世界スポーツカー・チャンピオンシップでJWオートモーティヴ・エンジニアリング・チームが走らせた、シャシー番号15。ペドロ・ロドリゲス氏とジャッキー・オリバー氏がドライブした。
1971年のスパ・フランコルシャンでは優勝し、アルゼンチンのブエノスアイレスでは2位。ニューヨークのワトキンズ・グレンでは3位入賞も果たしてもいる。
その年にレースを引退し、1972年から1979年までは、ポルシェのヴァイサッハ開発本部でレース・タクシーとして活躍。要人などを助手席に乗せ、サーキットを走った。2009年からは、ポルシェ・ミュージアムが所蔵している。
アトウッド本人がドライブしたクルマではないが、ライトブルーとオレンジのガルフカラーが再現されている。917Kとして、これ以上ピッタリな配色はないだろう。
内装パネルのないコクピットは、エンジンが停まっていても物々しい。これほどのマシンの割に、イグニッションキーは小さい。つまんで1度ひねると、空冷の水平対向12気筒エンジンが、振動とともに爆発音を放ち出す。
軽くブリッピングしてみると、慣性がまったくないように回転数が跳ね上がる。チタン製のコンロッドにクワッドカム、ボッシュ社製の燃料インジェクションが組まれ、レスポンスは鋭敏だ。
今日の917Kはカットスリック・タイヤを履いていた。スペアタイヤはないそうで、本気でソノマ・レースウェイを攻め込むことはNGとのこと。恐ろしくて、とてもできないけれど。
917の怒涛の勢いに飲み込まれる
軽量なバルサ材から削り出されたシフトノブを、右へ傾ける。それだけでもスリリング。重いクラッチを踏む左足を徐々に緩めると、かなり手前でつながる。緊張感のある振動が全体を襲う。
エンジンストールすることなく、アトウッドが見守るピットレーンを後にした。そしてすぐさま、917Kの怒涛の勢いに飲み込まれる。地獄の体験か、天国か。
スピードを高めずとも、特徴的なドライビングフィールから、特有のキャラクターを感じ取れる。ボディの前端に座っているような感覚がある。ステアリングホイールは驚くほど軽く、感触が濃く、コーナーの頂点を完璧に狙える。
とっさにカウンターステアを当てるのも難しくない。917Kの圧倒的な動力性能に、俊敏性が組み合わされている。路面が変化しグリップ力も変わると、アンダーステアへ推移していく様子が、手のひらから感じ取れる。
素早くアクセルペダルを煽れば、テールは喜んでスライドし始めそうだ。だが、917Kの中心部に搭載された、モンスター級の水平対向12気筒のパワーとウエイトを想像する。そして、天文学的な価値も。
ポルシェ・ミュージアムのスタッフは、高めの回転数を保つように話していた。それでも、フラット12は低い回転域から扱いやすい。僅かにアクセルペダルを傾けるだけで、攻撃的に加速する。半世紀も前のレーシングカーとして、驚かされる。
優勝が信じられないほど熾烈な体験
右足へ力を込めると、極めて鋭く回転数が上昇。水平対向特有の低音がメインのサウンドは、8000rpmへ近づくほどに美しく滑らかな音色へ変化していく。エンジンのバランスの良さも伝わってくる。
シフトノブへ手を伸ばし、トリッキーなマニュアルを、ミスシフトしないよう丁寧に操る。レバーの動きは軽いが、つながるまでしっかりゲートへ押し込む必要がある。クラッチペダルを踏むと、一瞬フラット12の重奏が静まり、吸気ノイズが前面に出てくる。
サーキットの途中で4速へ入った。加速力に間違いはないが、ブレーキペダルはストロークが長く、感触がスポンジー。制動力は、パワーに対して充分とはいえないようだ。
ポルシェ917Kを全身で味わう。神経質さも伝わってくる。ここで運気を使い果たしたくはない。筆者が満足するペースで、ソノマ・レースウェイを周回した。バケットシートへ、身体を押さえつけながら。
ピットへ戻ると、アトウッドが笑顔で立っていた。筆者がどう感じたのか、聞きたそうにしている。
伝説的なポルシェ917Kをドライブした経験を持つ、1人になれたことがうれしい。ワープしたような、不思議な時間だった。1970年にアトウッドとヘルマンが24時間を戦い、優勝を掴み取ったという事実が、信じられないほど熾烈な体験だった。
協力:リチャード・アトウッド氏、ジィズ・ヴァン・レネップ氏、ポルシェAG
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