2022年1月にラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES2022」で、一躍脚光を浴びたのがバッテリー式電気自動車「VISION-S 02」でした。ソニーが開発したEV車です。ゲームや家電、音楽を主軸として事業展開をしてきたソニーが、電気自動車への参入を表明したのです。
3月4日にはホンダと合弁会社を設立し、電気自動車の共同開発、生産、販売に取り組むと発表しました。
電動化、脱炭素で変革期を迎えるトヨタ自動車グル―プの下請企業
ソニーの自動車産業への進出で、業界は大きく変わる。ソニーファンはそんな期待と夢に胸を膨らませたかもしれません。しかし、ソニーの狙いはもっと堅実なところにあります。
燃料電池車を見切ったトヨタ
2008年に市場投入されたテスラの量産モデル「ロードスター」は自動車産業界に衝撃を与えました。1台1,000万円と高額な自動車にも関わらず、3週間あまりで完売。消費者の目がいっきに電気自動車に向かうきっかけとなりました。
当時、トヨタは環境に配慮した次世代自動車として燃料電池車の開発に注力していました。燃料電池車は水素と酸素で電気を作り、モーターを回して走る車です。しかし、燃料電池車は車体価格が高くなりがちなうえ、投資額が大きい水素ステーションを全国に設置する必要がありました。
トヨタの燃料電池車「ミライ」は2021年1月から11月までの販売台数が5,600台と比較的堅調だったものの、電気自動車へといっきに舵を切ります。トヨタのCEO豊田章男氏は燃料電池車の普及に自信を見せていましたが、電気自動車に敗北したことになります。テスラの登場は、世界的な自動車企業をも揺るがす嚆矢となりました。新興企業の面目躍如たるものがあります。
ソニーの自動車産業への参入に期待が膨らむ背景には、自動車産業の勢力図が大きく塗り替わるゲームチェンジの真っ只中にあることが挙げられます。
しかし、ソニーが2022年3月1日に開催した「個人投資家向け 会社説明会」の成長事業領域に、電気自動車事業への言及はありません。
ソニーが電気自動車に参入する最大の狙いは、センサーや半導体を扱うイメージング&センシング・ソリューション事業の伸張にあります。
イメージセンサーでシェアトップも車載イメージセンサーで出遅れ
ソニーの半導体・センサー事業2021年3月期の営業利益率は14.4%。主力事業であるゲームの12.9%、家電の6.5%などと比べて高い傾向があります。
ソニー事業別営業利益率
※決算説明資料より筆者作成
半導体・センサー領域において、ソニーはイメージセンサー全体のシェア世界1位を誇っています。イメージセンサーはスマートフォン、デジタルカメラ、工業用ロボットなどに用いられています。高い技術力が評価され、価格交渉力が高いために高利益率体質になっているものと考えられます。
しかし、この事業のソニー全体に占める売上高は11.1%と決して高くありません。
事業別売上高(単位:百万円)
※決算説明資料より筆者作成
利益率が高いために売上高を伸ばしたいところですが、すでにシェア1位を獲得しているため、それ以上の拡大を無暗に狙うのは危険です。価格競争に陥って利益率が低下してしまう可能性があるからです。
ソニーはモバイルに利用されるイメージセンサーのシェアを着実に抑えつつ、新規領域を伸ばす計画を立てています。
イメージセンサー出荷金額推移
※ソニー「個人投資家向け 会社説明会」より
ポイントはこの新領域。ソニーのイメージセンサーにおいて唯一伸びしろのある領域があります。車載イメージセンサーです。
この領域ではアメリカのオン・セミコンダクターが6割以上の圧倒的なシェアを握っています。2位に甘んじているソニーのシェアはわずか14.0%です。
車載イメージセンサーシェア
※テクノシステムリサーチの調査より筆者作成
車載イメージセンサーは自動運転用のセンサーに直結するものですが、この領域は極めて将来有望です。矢野経済研究所によると、2019年の自動運転用センサーの市場規模は1兆3,602億円(そのうちカメラは8,086億円)。これが2025年には2兆5,000億円(カメラは1兆4,7000億円)規模まで拡大すると予想しています。
車載センサー市場規模
※矢野経済研究所「ADAS/自動運転用センサ世界市場に関する調査を実施(2020年)」より
市場が旺盛に伸びるうえ、シェア拡大を狙うことができます。
順番を入れ替えてインパクトを高めたソニーの巧みな戦略
車載センサーは自動車メーカーとの連携が欠かせません。オン・セミコンダクターは2018年3月にアウディの半導体技術活用プログラム「Progressive SemiConductor Program」のパートナーに選定されたと発表しました。
アウディは半導体企業と協力することにより、開発力を高めることができます。オンセミは自社のセンサーや半導体を活用した自動運転技術の実績ができると同時に、自動車の量産化によってシェア拡大が狙えます。アウディは自動車の進化の8、9割は半導体が握っているとの考えを示しており、オンセミの存在なしに開発は進められません。
トヨタはNVIDIAやルネサスエレクトロニクスとの共同開発を行っています。こうした動きにソニーはやや遅れをとっていました。
ソニーが異色だったのは、家電見本市で電気自動車開発を本格化すると宣言したことです。その2か月後にホンダと合弁会社を設立すると発表していることから、ソニーとホンダの協業は当然あらかじめ決まっていたのでしょう。
車載センサーのシェアを拡大したかったソニーは、ホンダと共同開発を進める交渉を以前より重ねていました。普通の提携であれば、2022年3月のソニーとホンダの記者会見で十分です。しかし、ソニーは世間に大きなインパクトを与えるため、家電見本市で衝撃的な発表をしたというのが、一連の流れだったと予想されます。
取材・文/不破 聡
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みんなのコメント
自動運転車のソフトとユニット、自動運転車化によるサービスに切り込みの為でしょう。
物体認識と3Dマップ化は、デジタルカメラの延長技術で、あらゆる産業に関わることが出来る。
キヤノンも、画像センサーを活かして、物体認識技術やセンサー販売も拡大
物体認識技術は、画像センサー作れるところに優位性が有るから、逃さないつもりでしょう
既存のアプリやPSとかの互換性考えるとホンダとソニーの方が面白い車作ってくれそうな気がする