PHEVが追加されたディスカバリー・スポーツ
text:Matt Saunders(マット・ソーンダース)
【画像】ディスカバリー・スポーツとX3、XC60 PHEVのSUV 3台を比較 全71枚
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
数年前に発表された、ランドeというコンセプトカーをご存知だろうか。筆者は以前、英国ゲイドンにあるランドローバー本社のロビーでランドeについての話を聞き、充実した時間を過ごすことができた。
市販車の燃費効率を向上させる技術をアピールする、ショーケース的な役割を持っていた。ランドローバー・フリーランダーくらいのボディに、ダウンサイジング・エンジンのハイブリッドと、リアタイヤ用の電気モーターが積まれていた。2006年の話だ。
でもランドローバーの経営陣は、その可能性を見抜くことができなかったようだ。電動化されたランドローバーの需要を、イメージできなかったのかもしれない。でも今なら、間違いなく需要がある。
そんなコンセプトカーの発表から15年。プラグイン・ハイブリッド(PHEV)のディスカバリー・スポーツ P300eが英国に導入された。遅れながらも、購入希望者が増え続けるPHEVのSUVに仲間入りすることができた。
フォードもアウディも、ボルボやフォルクスワーゲンも、PHEVのSUVをすでに販売している。新しいディスカバリー・スポーツ P300eは、そんな競争の激しいSUV市場で充分なプレゼンスを持つことはできるだろうか。
さらに自動車メーカーとして、平均のCO2排出量削減に充分な効果は得られるだろうか。おそらく、どちらも可能だと思う。といっても、ディスカバリー・スポーツ P300eはランドローバー初のPHEVではないのだが。
リアタイヤは電気モーターで駆動する
ディスカバリー・スポーツは、全世界で見ればジャガー・ランドローバーのベストセラー・モデル。その中でP300eは、手頃な価格とはいえない。しかし、今回のPHEVのライバル2台よりは安い。
英国では税制面でも有利だし、優れた燃費で経済的なメリットは大きいはず。では実際に所有し、毎日運転するドライバーにとって、お財布以外の説得力をディスカバリー・スポーツ P300eは備えているだろうか。
今回は、BMW X3 xドライブ30eとボルボXC60 T6 リチャージとの3台で比較試乗を行ったが、その答えは、少しの自信を持ってイエス。スペック上で優位なだけでなく、優れたドライビング体験も得られることがわかった。
上質で応答性が良く、快適。ただし燃費はカタログ値ほど伸びない。その他大勢のPHEVと同様に、運転スタイルにも依存する。ドライバー次第、というのは少し無責任かもしれないけれど。
ディスカバリー・スポーツ P300eのPHEVシステムは、ボルボに似ている。XC60 リチャージと同様に、リアタイヤ側を駆動するのは電気モーター。四輪駆動ではあるが、基本的には前輪駆動と近い。
ランドローバーながら、メカニカル・パーマネント方式の四輪駆動ではない。他方のBMWはクラッチを用いた四輪駆動。ドライブシャフトで前後のタイヤが結ばれている。
ブランドの伝統を考えれば、大英断にも思える。そのかわりEVモードでの走行効率を高めることができる。ドライブラインの摩擦や回転ロスが大幅に低減されるためだ。
3台で一番バッテリーが大きいディスコ
早速、BMW X3とボルボXC60、ディスカバリー・スポーツのPHEV版、3台の比較を始めてみよう。
バッテリー容量は、ランドローバーが15kWhと一番大きい。BMWは12kWh、ボルボは11.6kWhとなる。そのおかげで、ディスカバリー・スポーツ P300eが一番遠くの家までEVモードで帰ることができる。
EVモードでの航続距離は、カタログ値ではランドローバーが3台で最長。混雑した都市部からスタートし、郊外の道へ足を伸ばした実際のテストでも、実用的な距離を走ることができた。
満充電でディスカバリー・スポーツが48km、XC60は40kmで、X3は32kmくらいが実際的な距離になるようだ。もし往復で45kmくらいの自動車通勤をしているなら、モデル選択に大きな影響を及ぼすだろう。
英国では、ガソリンにかかる税金が引き上げられる可能性もなくはない。EVモードでの航続距離の違いは、使用するガソリンの量の違いでもある。
ボディの見た目は、ディスカバリー・スポーツが短く狭く、一番SUVらしい。それでいて車内は意外と広く、実用性はライバル並みに優れる。着座姿勢はアップライト気味で、リアシートはスライド可能。ボルボもBMWも、リアシートは前後に動かない。
今回の3台では、どのリアシートに大人が座っても長距離を快適に移動できる。しかし一番快適だと思うのは、ディスカバリー・スポーツ。空間のゆとりだけでなく、車窓から眺めもいい。
インテリアデザインは甲乙つけがたい
ディスカバリー・スポーツのインテリアは、大幅に上質さを増している。高級感ある素材と先進的な技術が、しっかり主張するようになった。
試乗車にはアイボリーのレザーに、明るいナチュラルカラーのウッドパネルがあしらわれ、メーターパネルは鮮明なモニター式。多機能なセンターコンソールが組み合わされ、とてもいい雰囲気にまとまっていた。
インテリアは、BMWもボルボも悪くない。XC60は大胆で新鮮味がある。X3は全体的な質感の高さに感心する。慣れつつあるけれど。長距離移動する空間として、デザインは甲乙つけがたいと感じた。
着座位置は、BMWがステーションワゴンのように低い。対象的にランドローバーはシート位置が高く、周囲を見渡せる。XC60はその中間だが、どちらかといえばBMWに近い。
車高を高く感じるクルマに抵抗があるなら、ディスカバリー・スポーツは好みになりにくいだろう。もっともSUVを選ぶなら、多少でも背の高いクルマを望んでいるはずだ。
今回の3台は、いずれも3列目シートを指定できない。荷室容量は、XC60とディスカバリー・スポーツがほぼ同じ。X3はハイブリッド・システムが後輪の車軸上に載り、荷室の床面が75mm程度かさ上げしてある。狭いとまでは感じないにしろ。
観察はこのくらいにして走り出してみよう。
ランドローバーは、モダンで高級なSUVらしい個性が目指されている。乗り心地はしなやかで快適。ボディは大きいものの、扱いやすい操縦性を備え、電気モーターが融合した力強いトルクが直ぐそばにある。
この続きは後編にて。
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