東京モーターショー2011で公開されたパサート オールトラックの市販バーションが、2012年2月にドイツ本国で正式に発表された。パサートヴァリアントをベースに、SUV風のルックスと常にリアにトルクを配分する4MOTIONシステムが与えられたモデルで、「本格的なオフローダーの誕生」と大きな注目を集めた。日本発表を目前にオーストリアで開催された国際試乗会にMotor Magazine誌も参加しているので、今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2012年5月号より)
ルックスのみならずオフロード性能もSUVに匹敵
ゴルフと比較すると、パサートは今ひとつ存在感が薄い。しかし、最新モデルはゴルフの兄貴分として十分面目を保つだけの性能を備えている。高いクオリティや環境性能、そしてドライバビリティは、上級モデルと呼ぶに相応しいものだ。
ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
日本における、現在のパサートのモデルラインナップは極めてシンプルだ。パワートレーンは、1.4Lシングルターボエンジン+7速DSGの組み合わせのみ。思い切った戦略だ。ひと世代前にはあったV6エンジンも、4MOTION(4WD)もない。それでも販売は好調。それは日本だけではない。世界的に好評だ。
とはいえ、これだけの走行性能とスペースを備えるクルマとなれば、より付加価値のあるモデルを期待するカスタマーがいるのも当然だろう。
そこで今回登場したのが、パサートのワゴンモデル、ヴァリアントをベースとした「パサート オールトラック」だ。SUVライクなルックスと本格的4WD性能を備える、乗用車とSUVの間に位置するモデルとなる。
SUVライクなモデルとしては、すでにクロスポロがあるが、今回は、なぜ「クロスパサート」ではなかったのか。それは、このモデルに4MOTIONがラインナップされているからだという。「クロス」は FFモデルへのネーミングということらしい。
ただし、ジュネーブショーで注目を集めた「クロスクーペ」は、TDIディーゼルエンジンを搭載するプラグインハイブリッドで、モーターでリアを駆動する4WDであるから、ちょっと話はややこしいが。
さて、パサート オールトラックは、専用バンパー、ホイールアーチ、そして大きく張り出したサイドスカートを新たに装備し、見るからにタフさの感じられるルックスとなっている。パサートヴァリアントより30mm高い165mmの最低地上高と大きなアプローチアングル、デパーチャーアングルを備え、ルックスのみならず実用的にもSUVに匹敵するオフロード性能を持つ。
2種類のガソリンエンジンと2種類のディーゼルエンジンがラインナップされるが、いずれもターボチャージャーを備える。低回転域からの力強いトルクにより、高い牽引力を発揮するのがその狙いだ。牽引とはボートやキャンピングカーなどをトーイングすることを意味する。日本ではあまり見慣れない光景ではあるが、多様なニーズに応えるクルマであることはイメージできるだろう。
パワフルな2.0TSIと4MOTIONの組み合わせ
日本に導入されるのは、直噴2Lターボエンジンに6速DSGが組み合わされた4MOTIONとなるという。2Lターボエンジンのパワースペックは最高出力155kW(210ps)/5300-6200rpm、最大トルク280Nm/1700-5200rpmとなっている。
試乗はミュンヘン空港からオーストリアのエルマウまでのルート。空港で出迎えてくれたパサート オールトラックでさっそく試乗準備を開始。まずは荷物を積載する。今回は、この試乗会の後にジュネーブショーの取材や他モデルの試乗もあったため、
10日間の長旅だった。2人分の荷物、大型スーツケース1個に中型/小型各2つずつのキャリーバッグは、ラゲッジスペースに難なく呑み込まれた。これなら、日常的なショッビングやレジャーから、アウトドアやキャンプまで、十分な収納力を発揮するだろう。実用性の高さをあらためて実感する。
室内に乗り込むと、パサートヴァリアントの個性と装備が継承されていることに気づくが、ラクジュアリーな雰囲気のパサートに対し、トリムやセンターコンソールにチタンシルバーを配したり、2トーンのレザーシートが備わったりと、よりスポーティでアクティブなイメージだ。
パサートヴァリアントよりもパワーアップの図られたエンジンを搭載するが、パワーを誇示したり、スポーティさをアピールするような性格ではない。発進でジワジワとアクセルペダルを踏んで行くと、瞬発力というよりは底力を発揮して穏やかに加速をしていく。もちろん、必要十分なパワーフィールではあるが、軽やかさというよりは、頼もしいトルク感が印象的だ。それでいて、高速巡航時は、アクセルペダルを軽く踏んでいるだけで転がって行くような滑らかさを感じる。このエンジンのゆとりに加え、快適な乗り心地と静粛性の高さに目を見張った。タフなイメージがあるが、走りの質感はあくまで上級モデルの乗用車という感じだ。
高速でのスタビリティも高く、安心感に包まれるが、コーナーでステアリングを切るとボディの動きが大きく感じられるシーンもあった。標準では17インチタイヤが設定されるが、試乗車は18インチのM+Sタイヤを履いていたせいもあるかもしれない。しかし、その動き自体はスムーズかつ穏やかなので不快感はない。さらに、ボディの動きが気になるようなシチュエーションではDCCアダプティブシャシーコントロールによりダンパー減衰力を「ノーマル」「スポーツ」「コンフォート」から選択することができる。確認のために各プログラムを試してみたが、通常の舗装路においてはノーマルのままで不満を覚えることはなかった。
4MOTIONは、あらかじめリアにもトルクを配分して発進時のトラクションを確保、滑り出しを検知すると即座に大きなトルクをリアにも伝える。また、高速巡航のように一定した状態でも安定性を保つために10%ほどのトルクがリアに配分される。
走り出すと、路面状況に応じてリアへのトルクが変化していくが、走行中、4WDゆえの抵抗感やアンダーステアなどネガティブなフィーリングもないし、駆動力配分の変化をドライバーに感じさせることもない。
快適なドライブでエルマウに到着する。スキーリゾートで有名な街だ。ルート脇には多くの高級リゾートホテルが並び、スキーに興じる多くの観光客の姿があった。試乗コースにこの地が選ばれたのは、雪道での走破性をテストできるからだったのだが、3月上旬のエルマウは好天に恵まれ、雪が溶けてしまい、十分なテストは行えなかった。ただ、付加価値のひとつである「オフロードドライビングプログラム」はとても興味深かったので、その概要を紹介しておこう。
オフロードドライビングプログラムには、ブレーキペダルを踏んだ時にタイヤ前方に石や砂利を溜めて制動距離を短くできるようロックのインターバルを長くする制御を備えるABS、下り坂で30km/hにスピードを制御してくれるヒルディセントアシスト、走行中のタイヤの空転を防ぐXDS(エレクトロニックディファレンシャルロック)、さらに、繊細なアクセルコントロールがしやすいようにアクセルレスポンスを鈍くしたりDSGのシフトポイントを高めたりといったアシスタンスシステムが含まれる。
これらのプログラムは従来、ティグアンやトゥアレグにしか装備されていなかったもので、乗用車では初めてとなる。雪道の一般道や、ぬかるんだ泥濘路を走る機会があったが、安心感の高さや優れた走破性などから、その機能の有効性の側面を垣間見ることができた。
日本導入は2012年夏頃の予定、価格は400万円後半か
オフロードの走破性と並び、パサート オールトラックの魅力的な装備として挙げられるのが、「ドライビング&アシスタンスシステム」だ。日本仕様にもその一部の機能が標準装備される。「ドライバー疲労検知システム」、車線維持と車線変更をサポートする機能を統合した「レーンアシストとサイドアシストプラス」、ACC(アダプティブクルーズコントロール)に加え、30km/h以下での追突を防止もしくは軽減する「シティエマージェンシーブレーキ機能付きACCプラスフロントアシスト」などだ。
パサート オールトラックは、高速や長距離も快適に走れる豊かなトルクがありながらも燃費に優れ、広いスペースや堅牢さ、多様性を併せ持ち、高い安全性能を備えるオールラウンダーである。
日本へは、夏頃までに導入される予定で、価格は未定だが400万円台後半と予想される。先々代パサートヴァリアントの4MOTIONが470万円だったことを考えると、クルマの性能が2世代分進化し、4WDのみならず多くの機能や装備など付加価値を備えるパサート オールトラックは、コストパフォーマンスに優れる魅力的なモデルといえるだろう。(文:佐藤久実)
フォルクスワーゲン パサート オールトラック 2.0TSI 4MOTION 主要諸元
●全長×全幅×全高:4771×1820×1550mm
●ホイールベース:2710mm
●車両重量:1707kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:155kW(210ps)/5300-6200rpm
●最大トルク:280Nm(28.6kgm)/1700-5200rpm
●トランスミッション: 6速DCT(DSG)
●駆動方式:4WD
●最高速:212km/h
●0→100km/h加速:7.8秒
※EU準拠
[ アルバム : フォルクスワーゲン パサート オールトラック(B7) はオリジナルサイトでご覧ください ]
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