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【かつてのヒット車が続々と置き去りに…】日産はなぜe-POWERを他車種に展開しないのか!?

掲載 更新 14
【かつてのヒット車が続々と置き去りに…】日産はなぜe-POWERを他車種に展開しないのか!?

 2020年1月の販売台数で、大人気のトヨタ「ライズ」、「カローラ」(セダン、スポーツ、ツーリングなど合算)に次ぐ3位につけたのが日産「ノート」だ。2019年における日本国内の新車販売台数でも、首位トヨタ「プリウス」と僅差の2位につけた。

 この躍進を支えているのは、2016年11月に発売された電動化技術「e-POWER」だ。ノーマルエンジン搭載車の発売は2012年と古く一時は苦戦をしていたが、e-POWER投入で返り咲いた。この傾向は、2018年2月にe-POWERを追加した「セレナ」にもみられる。

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 これほどまで消費者に受け入れられたe-POWERだが、現在販売されている車種でラインナップがあるのは、ノートとセレナだけと寂しい状態だ。

 コンパクトカークラスならノートだけでなく「マーチ」、ミドルサイズのセレナなら「エクストレイル」「シルフィ」だってある。販売現場では売るクルマがないと悲鳴が上がっている日産なので、トヨタのハイブリッドのように、全車種にラインナップするべきでは? と思う人も多いことだろう。

 なぜ日産は他車種に展開していないのか? 何をもったいぶる必要があるのだろうか? e-POWERを横展開していない日産の事情を、渡辺陽一郎氏が考察する。

文/渡辺陽一郎
写真/編集部、NISSAN

【画像ギャラリー】日産の切り札となったe-POWERを搭載しているモデル、搭載予定の次期型モデル

■日産にとって逆転の一手となったe-POWER

 最近の日産車が搭載するメカニズムのなかで、注目度が最も高いのはe-POWERだろう。ハイブリッドシステムの一種だが、エンジンは発電機を作動させ、ホイールの駆動は行わない。発電された電気を使って、駆動用モーターが担当する仕組みだ。「モーターを駆動して走る」ことについては、電気自動車と共通性がある。

 そこで日産は、e-POWERを「電気自動車の新しいカタチ」と宣伝した。このCM効果もあり、「ノート」と「セレナ」のe-POWER搭載車は好調に売れている。

2016年11月に、シリーズハイブリッド仕様「e-POWER」を追加。途端にヒットモデルとなり、日産車としては史上初めて年間販売台数1位(登録車)に輝いた

ノートでの大ヒットで勢いのついたe-POWERを次に搭載したのが「セレナ」だ。セレナでは、e-POWERだけでなく、運転支援技術「プロパイロット」を搭載することで商品力をさらに高めた

 現行ノートの発売は2012年だが、4年を経過した2016年11月にe-POWERを追加すると、売れ行きが急増した。2017年1~6月の対前年比は163%に達する。ノートe-POWERの売れ行き(ほかのエンジンを除く)は、1カ月当たり1万台近くに達した。さらに2018年には、ノートは小型/普通車の販売1位になっている。ノート全体に占めるe-POWER比率も70%以上だ。

 ノートが好調に売れた影響もあり、セレナも2018年3月にe-POWERを加えた。好調に売れて、2018年度上半期(2018年4~9月)の登録台数は、対前年比が127%に達した。現行セレナの発売は2016年だから、e-POWERの追加により、2年を経過しながら売れ行きを伸ばしたことになる。

■なぜe-POWERは増えないのか? そこにあった深刻な理由

 このようにe-POWERは、日産車の販売において特効薬になっている。ノートとセレナに搭載している以上、幅広い車種に対応することも可能だ。それなのにe-POWER搭載車は、今でもノートとセレナだけだ。なぜ搭載車種を増やさないのか。

 その理由は、e-POWERを搭載できる、あるいは搭載するメリットのある車種が少数に限られるためだ(つまり開発費をかけて発売しても、かかったコストを回収できるほど売れる見込みがない)。

日産のEV「リーフ」で培った技術があればこそ誕生したe-POWER。1.2Lエンジン(HR12DE)を、ノートe-POWER専用に改良し発電用として搭載。モーター駆動で走らせるシリーズ式ハイブリッドだ

 日産にはノートのようなコンパクトカーとして、「キューブ」「マーチ」「ジューク」がある。このうち、キューブとジュークは生産を終えた。日産の販売店によると「キューブは現行型で終了となり、次期型の導入予定はない。ジュークも現行型で終了するが、後継車種としてキックスを導入する予定だ。ただし今のところ詳細は不明で、発売も2020年5月以降になる」という。

 マーチは大幅なマイナーチェンジを実施するが、現行型は2010年に発売され、衝突被害軽減ブレーキなどを追加装着していない。売れ行きも大幅に落ち込んだ。売れ筋カテゴリーのコンパクトカーに属しながら、2019年の登録台数は1カ月平均で700~800台にとどまる。ノートの10%以下だ。

 マーチにノートと同様のe-POWERを搭載することも可能だが、車種自体の魅力と人気が下がったから、ノートe-POWERのような人気車になる可能性は低い。そうなるとコンパクトなe-POWERは、ノートに限られてしまう。

 セレナe-POWERのような、ミドルサイズとLサイズモデルはどうだろう。ミドルサイズセダンの「シルフィ」は、現時点で衝突被害軽減ブレーキを採用していない。1カ月の登録台数は200台以下だから、生産を終えるキューブやジュークよりもさらに少ない。Lサイズセダンの「ティアナ」は、生産を終える。

 スカイラインやフーガは、後輪駆動車だからレイアウトが根本的に異なり、ハイブリッドもすでに設定されている。そうなるとまだ名前の挙がっていないe-POWERを搭載可能な前輪駆動車は、「エルグランド」と「エクストレイル」くらいになってしまう。

 エルグランドは、アルファード&ヴェルファイアとのライバル競争に負けて販売を低迷させるが、1カ月に500~600台は登録されている。設定してもよさそうだが、エルグランドの発売は2010年だから10年を経過した。すでに遅い印象も受ける。

エルグランドは、現行型である3代目が登場したのが2010年8月。搭載している2.5Lもしくは3.5Lエンジン相当の動力性能を実現するには、大型の駆動用モーターを搭載する必要があり、簡単にe-POWER化するのは難しい……というのも理由にある


 エクストレイルは日産の主力SUVで、発売も2013年だからe-POWERを搭載してよさそうだが、エクストレイルは2015年に異なるタイプのハイブリッドを追加した。このハイブリッドは燃費に不満があり、4WDのJC08モード数値は20km/Lだ。ノーマルエンジン車の15.6~16km/Lと大差なく、実用燃費もよくない。価格は相応に高いため、エクストレイルのハイブリッドは売れ行きが低迷する。それでもハイブリッドを設定している以上、これを廃止してe-POWERに切り替えるのは難しい。

 以上のように、現実的にe-POWERを搭載できる車種が極端に減っているため、e-POWER搭載車も増えない。表現を変えれば、今の日産では、購入したいと思わせる車種も大幅に減ってしまった。

 そのために、2019年に国内で販売されたデイズ+デイズルークス+ノート+セレナの台数を合計すると、同年に国内で売られた日産車の65%に達する。日産の国内販売は、実質的にこの4車種に支えられているわけだ。この4車種の売れ行きは上位に入るのに、日産全体のメーカー別国内販売ランキングは、トヨタ、ホンダ、スズキ、ダイハツに続いて5位まで下がってしまう。

■e-POWER投入のために求められる活性化

 解決策は、日本国内に、ユーザーが求める新型車を投入することしかない。そうなれば日産車の売れ行きが伸びて、同時にe-POWER搭載車も増える。

 例えばキューブを廃止しないでフルモデルチェンジしたとすれば、必ずe-POWERを設定するだろう。エクストレイルもフルモデルチェンジを行えば、ハイブリッドシステムをe-POWERに刷新できる。マイナーチェンジで可能な進化には限界があるから、フルモデルチェンジは不可欠だ。

北米で発表された2020年仕様の日産「キックス」。日本上陸は2020年5月頃で、発売当初は人気のe-POWERのみの設定となりそうだ

新型エクストレイルは、キックスとともに期待の1台となっている(画像はベストカーによる予想CG)。発売は2021年上旬になる可能性がある

 日産の場合、2008年に発生したリーマンショックによる不景気の影響もあり、近年は日本向けの商品開発が滞る。2011年以降は新型車に恵まれず、売れ筋車種の減少を招いた。

 ちなみに日産の国内販売順位は、2000年代後半まではトヨタに次ぐ2位だった。わずか10年ほどの間に、販売台数とランキング順位を後退させている。当たり前の話だが新型車は重要で、今後日産の新型車投入が活発化すれば、売れ行きを再び伸ばす可能性は高い。

 そして2020年後半以降は、日産の新型車が活発にデビューしそうだ。ジュークの後継車種になるキックスに続き、新型のエクストレイルやノートも投入される。e-POWERの充実と併せて、再び日産の時代が訪れることに期待したい。

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みんなのコメント

14件
  • 自動機評論家は勝手気ままに記事を書くが日産がマーケティングした結果「儲からない」と判断しただけだろう
    言うだけはホント楽で何も責任ないもんな
  • CMじゃ新しいと言ってるけど他車のハイブリッドシステムからすると旧時代のシステムだし必要以上に展開しないで新しいシステムの開発に費やしているんじゃないの?技術の日産なんだし
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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